泉の精
吉川 「あぁ、オラの大事な斧を泉に落っことしてしまっただ!」
泉の精「ほわんほわんほわわわわぁ~ん♪」
吉川 「あぁ……。運の悪いことに変な人まで現れた!」
泉の精「失敬な! 変な人じゃない。泉の精です」
吉川 「えー!」
泉の精「えー。じゃない! 完璧すぎるほど泉の精です」
吉川 「だって口で『ほわんほわん』とか言ってたし……」
泉の精「うるさいッ! 効果音があったほうがよりミステリアスなの!」
吉川 「なの! って断言されても」
泉の精「良かれと思ってやったのに……」
吉川 「裏目に出ましたね」
泉の精「もう二度とやらない」
吉川 「そうした方がいいですよ」
泉の精「ところで! あなたの落とした……」
吉川 「はい」
泉の精「あなたの落とした……アレは……金ですか? 銀ですか?」
吉川 「何!? アレって? なんで曖昧なの?」
泉の精「あの……例のやつ。アレ、落としたんでしょ?」
吉川 「アレって言われても……」
泉の精「あなたの落とした何かは、金の何かですか? 銀の何かですか?」
吉川 「なんだ何かって。いよいよ怪しくなってきた」
泉の精「アレだよ。アレ。もういいじゃん。金? 銀?」
吉川 「なんでしっかりと言ってくれないんだ」
泉の精「いいじゃん! 別にそんなのこだわらなくても!」
吉川 「いや、言いよどまれると私が何か変なものを所持してたように思われるじゃないですか」
泉の精「思われないよ! 平気」
吉川 「ひょっとして、わからないの?」
泉の精「!? わかるよ!」
吉川 「落としたの、見てなかったんじゃないの?」
泉の精「見てたよ! 三度見したよ!」
吉川 「別に何度でもいいけど。じゃ、わかるじゃん」
泉の精「わかるよ?」
吉川 「なんですか?」
泉の精「あれでしょ? ……あの……例の……しょっぱいやつ」
吉川 「しょっぱい!?」
泉の精「違う違う。そうじゃなくて。いい意味でしょっぱいって言うか……」
吉川 「なんだ、いい意味って」
泉の精「あれだ。柔らかいよね? アレはとても柔らかい」
吉川 「へぇ……。やわらかいんですか」
泉の精「違くて……うーんと……ほら、大きさ的には……こんくらい?」
吉川 「聞いちゃってるじゃないですか」
泉の精「ヒント! ヒント!」
吉川 「なにがヒントだ。わからないじゃないですか」
泉の精「わかるよ! うんと……カレーだろ?」
吉川 「なんでカレーなんだ。そんなもん泉に落とすか!」
泉の精「えー。カレー以外思いつかないよぉ」
吉川 「その偏り方が理解できない。もっと他に思いつけ!」
泉の精「ボンカレー?」
吉川 「なんでカレーの発展系なんだ。カレーから少し離れろ」
泉の精「ボン?」
吉川 「そっちに引きずられちゃったか。ボンでもないんだよなぁ」
泉の精「だからあれっしょ? あなたの落としたのは、金のボンカレーですか? とか言ってボンカレーゴールドを出すってオチでしょ?」
吉川 「なんだオチって。別に上手くもない」
泉の精「美味いよ! ボンカレーゴールド!」
吉川 「味の話はいいんだよ。知らないよ!」
泉の精「食べてごらん」
吉川 「ごらん、て。それよりも、オラの……」
泉の精「カレー?」
吉川 「カレーじゃない! 斧!」
泉の精「あ、斧か……」
吉川 「言っちゃった」
泉の精「モノがわかれば、こっちのものだ。あなたの落とした斧は……金? 銀?」
吉川 「いや、あの……普通のヤツです」
泉の精「危ないなぁ。そんなの落とすなよ」
吉川 「はぁ……。すみません」
泉の精「罰として、斧ボッシュート」
吉川 「そんな! ボッシュートだなんて、話が違う!」
泉の精「でも正直だったので、それに免じてこの金の……」
吉川 「ボンカレーゴールド?」
泉の精「……」
吉川 「あ、図星?」
泉の精「んだよっ! バカ! せっかく、面白いオチだったのに! お前もう帰れ!」
吉川 「面白いって……。自分で言ってる」
泉の精「ふざけんなっ! 台無しだ、ちくしょう!」
吉川 「わッ……あぶなっ! 斧投げないで! カレーも! カレーも投げないで! 封を切ってから投げないでッ!」
暗転
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