執刀医

吉川 「先生っ! 息子を……、息子の命を救ってください!」


医者 「吉川さん。あなたにお伝えしなければならないことがあります」


吉川 「なんですかっ!?」


医者 「いいニュースと悪いニュースがありますが、どちらからがいいですか?」


吉川 「!? ……もうこの際、どちらからでも」


医者 「息子さんの執刀医は私に決まりました」


吉川 「それはいいニュースなのですか?」


医者 「私は奇跡の医者と呼ばれた男です」


吉川 「よ、よかった……。息子は助かるのですね?」


医者 「医者になれたのが奇跡だと、みんな陰口たたいてますよ」


吉川 「そういう奇跡か! ダメじゃん! 悪いニュースかよ!」


医者 「残念です……」


吉川 「お前が言うな! なんで? 他にいないの?」


医者 「あいにく私しか。貧乏くじひいちゃいましたね」


吉川 「貧乏くじって、そんな! 何とかしてください」


医者 「幸い息子さんは早期発見です。生きるか死ぬか、二つに一つです」


吉川 「そりゃ、二つに一つでしょうけど! 確率的にはどんなもんですか?」


医者 「五分三分というところですか……」


吉川 「え? 三分?」


医者 「失敗が五分、成功が三分です」


吉川 「残りの二分は……」


医者 「私が途中で飽きちゃうのが二分です」


吉川 「飽きないでよ! ちゃんとやってよ!」


医者 「マガジンとか読み始めちゃうかも」


吉川 「読まないで! 終わるまで頑張って!」


医者 「そんなこと言われましても……。こればっかりは、運を天に任すしか……」


吉川 「運じゃないでしょ? 先生次第でしょ?」


医者 「すごい気分屋なんですよ」


吉川 「あなた! 人の命がかかわってるんですよ!」


医者 「脅さないでくださいよ……」


吉川 「脅しじゃないよ! んもうっ! ちゃんとやってよ!」


医者 「そう言われると、逆にちゃんとしたくないね」


吉川 「なんだよ! なにすねちゃってるの?」


医者 「難しい年頃なんです」


吉川 「あんた医者だろ?」


医者 「医術は万能ではありません。最終的に必要なのは、本人の生きる意思と、執刀医のやる気です」


吉川 「だから、あんただろ!」


医者 「残念ながら、やる気に関しては保証しかねます」


吉川 「保証してよ! もっとまじめにやってよ!」


医者 「自分でも怖いくらいまじめですよ。まるで風紀委員長です」


吉川 「意味がわからない」


医者 「しかしそう悲観することもないです」


吉川 「息子は……、助かるんですか?」


医者 「いいニュースの方ですが……」


吉川 「そうだ! いいニュースとは!?」


医者 「最近、体調がすこぶるいいんですよ」


吉川 「お前のニュースか」



暗転




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