服部

吉川 「なぁ、服部」


服部 「なんでござるか? 吉川氏」


吉川 「お前……忍者だろ?」


服部 「仰天でござる!」


吉川 「やっぱり」


服部 「いや、違うでござるよ? 今のは拙者の口癖でござる。あぁ、今日も仰天でござるなぁ」


吉川 「そんな不自然な口癖があるか!」


服部 「あるでござる。あ! 今日は火曜日だから家に帰って仰天しなきゃ! でござる」


吉川 「なんというアドリブの利かないやつだ。なんだ火曜だからって」


服部 「拙者、ちと野暮用を思い出したのでこれにてドロンするでござる」


吉川 「あきらかに忍者っぽい言葉遣いじゃないか。だいたいいまどきの若者がドロンするでござるなんて日常的に使うと思ってるのか?」


服部 「ドロンするぜ!」


吉川 「語尾の問題じゃない。そもそも語尾がござるってこんなにわかりやすい忍者いるか?」


服部 「正体を知られたからには……嫁に貰ってもらうでござる!」


吉川 「やだよ! なんだそれは。なんで求婚してるんだ」


服部 「……ぽ」


吉川 「照れるな。気持ち悪い。別に公言しない。というか誰が見ても忍者だろ」


服部 「やっぱりダメでござるか?」


吉川 「ダメだろ。ござるとか言ってるし。装束着てるし」


服部 「装束! 気がつかなかった。ぬかったでござる!」


吉川 「気づけ。毎日その格好じゃないか」


服部 「こうしてはいられない、忍法早着替えの術!」


吉川 「そのカーテンのついたフラフープは忍術のために持ち歩いてたのか」


服部 「恥ずかしいから向こうむいてて欲しいでござる」


吉川 「見ねーよ! だいたい早くないじゃないか。なんだ早着替えって」


服部 「のぞいたら鶴になって飛んでくでござるよ!」


吉川 「むしろそれなら見てみたいくらいだ」


服部 「できたでござる」


吉川 「うわぁ、中途半端な。ボタン全然掛け違えてるぞ」


服部 「これで誰も拙者のことを忍者呼ばわりしないでござるな」


吉川 「今のはいったいどこが忍法だったんだ」


服部 「そんなことより吉川氏。正体を知られたからには、申し訳ないが記憶を消させてもらうでござる」


吉川 「なんだよそれ! みんな知ってるって! っていうかそんな事できるのか?」


服部 「もしかしたら沢山の記憶を失ってしまうかもしれないが、いたしかたないでござる」


吉川 「やだよ! ふざけるな!」


服部 「問答無用でござる! 忍法金縛り、カーーッ!」


吉川 「うわぁ……」


服部 「……」


吉川 「……って、あれ? 動ける」


服部 「この忍法は夜になると金縛りになってイヤな思いをするという忍法でござる」


吉川 「なんだその陰険さは。また地味な」


服部 「あぁ、今夜寝るのが怖いでござるぅ」


吉川 「お前がかかっちゃうのか! いよいよなんでそんな忍法使ったんだ」


服部 「真夜中のレクリエーションでござる」


吉川 「全然意味わかんない。記憶とかは!?」


服部 「あ、そうでござった。あまりの恐怖に忘れてたでござる」


吉川 「いや、なんか、もう……違うかも」


服部 「なにがでござるか?」


吉川 「お前が忍者だって言うの」


服部 「何をいうでござる! 今更そのような事を言ったところで」


吉川 「だって、なんかインチキ臭いんだもん。忍法とか」


服部 「キィイイ! 拙者のガラスのプライドが音を立てて砕けたでござるよ!」


吉川 「だって忍者ってわかりやすすぎて、かえって違う気がしてきた」


服部 「そこまでいうなら証拠を見せるでござる!」


吉川 「いや、いいよ別に。うん、気持ちだけで充分」


服部 「お裾分けを辞退するみたいになっちゃってるでござる」


吉川 「うん、忍者。がんばってな」


服部 「なに、優しい目をしちゃってるでござるか。この忍法を見てもそんなこと言えるでござるか? 忍法分身の術! カーッ!」


吉川 「……」


服部 「……」


吉川 「……さて、俺忙しいから」


服部 「違うでござる! ちゃんと増えてるでござる!」


吉川 「増えてないじゃん。何一つ変わってないじゃん。おかしいのはお前の言動だけだ」


服部 「ちゃんといるでござる! ……リオデジャネイロに」


吉川 「え?」


服部 「分身は……リオデジャネイロにいるでござるぅ!」


吉川 「ひどいな」


服部 「あ。分身のやつ、サンバ踊ってるでござる! おかげで拙者も腰のあたりがうずくでござる! ウーーッマンボッ!」


吉川 「なんだそれは、サンバって言ってるわりには、マンボっ叫んでるじゃんか」


服部 「あ、間違えたでござる。ウーッサンバ!」


吉川 「そんな掛け声あんまり聞いたことないぞ」


服部 「ともかく増えたでござる! この世にはソックリさんが3人いるでござる!」


吉川 「何を言い出すんだ。結局ソックリさんかで有耶無耶にしたのか」


服部 「ソックリさんというのは、分身のことでござるよ。ドイツ語で言うとドッペルゲンガー。会うと死ぬでござる」


吉川 「豆知識か」


服部 「ちなみに坂本一生は加勢大周の分身でござる」


吉川 「もうそんな関係誰も覚えてないよ」


服部 「あと、おすぎとピーコ」


吉川 「双子じゃねーか。もういい。帰る」


服部 「ごめん、嘘。もう一回! お願い、今度は本当でござる」


吉川 「結局嘘じゃねーか」


服部 「忍法虚言でござる」


吉川 「ござるじゃねーよ」


服部 「今度は本気でいくでござる。忍法分身の術。カーーーッ!」


吉川 「……で?」


服部 「この財布の中の10円玉がなんと2枚に」


吉川 「はいはい。面白かったです。じゃばいばい」


服部 「待って! まだスプーン曲げが残ってるから!」


吉川 「もはや忍法じゃなくなってる」


服部 「あとミケランジェロのモノマネする!」


吉川 「え? 誰?」


服部 「ミケランジェロ!」


吉川 「芸術家の?」


服部 「忍者タートルの」


吉川 「モノマネされてもわからないよ! たとえ似ててもそれはただのモノマネ上手だ」


服部 「くぅぅぅ、お遊びはここまででござる。なぜ、拙者が忍者だと気づいたでござるか!?」


吉川 「……え?」


服部 「正体を知られたからには記憶を消させてもらうでござる」


吉川 「いや、だから気づいてないって。忍者じゃないもん」


服部 「この後に及んで見苦しいでござる」


吉川 「いや、そっちの方が何倍も見苦しいだろ」


服部 「忍法、記憶を消すの術」


吉川 「なにそれ? 石じゃん。重くて硬そうな石じゃん。 え? なに?  そんな物理的な忍法なの?」


服部 「フフフ、辞世の句は無いでござるか?」


吉川 「いや、殺す気かよ。やだよ。ちょっ、やめてよぉ!」


服部 「吉川氏、覚悟でござる!」



ゴン!



服部 「フフフフ。って、あれ? これ丸太だ。なんで?  吉川氏? あれれ? 吉川氏? ?どこ? え、もしかして変わり身の術? 吉川氏……本物?」



暗転

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