床屋


床屋 「今日はどのように致しましょうか?」


吉川 「あ、えーと……」


床屋 「いつものように、具志堅用高で?」


吉川 「いつも具志堅にしてた覚えは無いんですが……」


床屋 「あ~、そうか。あれは卓造さんか」


吉川 「誰ですか、卓造さんは?」


床屋 「近所のおっさんなんですが、すぐに寝るので意地悪して具志堅にしてるんです」


吉川 「意地悪しないでくださいよ」


床屋 「毎回、ガッカリした顔して帰ってきますよ」


吉川 「そりゃ、ガッカリは請合いだ。でも私は遠慮しておきます」


床屋 「そうですか……。残念ですね」


吉川 「えっと……。キアヌみたいにできますか?」


床屋 「あぁ……、キアヌね。できますよ」


吉川 「最近のやつで」


床屋 「最近のキアヌね。ハイハイ。大丈夫です」


吉川 「じゃ、お願いします」


床屋 「こう見えても、うちはチャンピオンの店だからね」


吉川 「へぇ……、チャンピオンの店なんですか」


床屋 「はい。チャンピオンです」


吉川 「……えっと、ちなみに、なんの?」


床屋 「なんのって、お客さん。ここは床屋ですから」


吉川 「あぁ……。床屋のチャンピオンがあるんですか?」


床屋 「いや、ボクシングです」


吉川 「へぇ……。全然関係無いっすね」


床屋 「関係あるといえば……、まぁ具志堅くらいだね」


吉川 「具志堅はそもそも関係ないでしょ」


床屋 「キアヌ、キアヌ……。あ、お客さんアレ見ました?」


吉川 「映画ですか? 見ましたよー!」


床屋 「いいえ。チャンピオンベルト。ほら、あそこに飾ってある」


吉川 「あぁ……。アレ。ありますね。チャンピオンベルト。流れ的に映画のことかと」


床屋 「あ、お客さん、耳はどうしましょ?」


吉川 「キアヌみたいに……」


床屋 「じゃ、残しましょうね」


吉川 「いや、残すのは残してください」


床屋 「あ、もみあげは……」


吉川 「だからキアヌ!」


床屋 「揉みましょうか?」


吉川 「なんでだよ! なんでもみあげ揉むんだよ」


床屋 「じゃ、揉まずにあげますね」


吉川 「え? もみあげってそういうことなの? 何をあげるの?」


床屋 「主にテンションですかねぇ」


吉川 「勝手に上げてよ、そんなの。知ったこっちゃないよ」


床屋 「サービスですけど」


吉川 「テンション上げるサービスなの? 上げるとどうなるの?」


床屋 「見た目は変わらないですね。ただテンションはすごい上がってるので、もうたまらない感じになってます」


吉川 「むしろ、そんな感じで切られるの嫌だよ」


床屋 「たまには冒険してみては?」


吉川 「そんな無謀な冒険はしたくない」


床屋 「そうですか、じゃ次回に持ち越しですね」


吉川 「二度と来たくないけど」


床屋 「お客さん、お仕事のほうは……」


吉川 「一応、商社で……」


床屋 「できなそうですね」


吉川 「うるさいっ! なんでそんなこといわれなきゃいけないんだ」


床屋 「こんな床屋来てるようじゃ……」


吉川 「来なきゃよかった」


床屋 「そう言えばこの間、面白い話を聞いたんですよ」


吉川 「へぇ」


床屋 「……」


吉川 「……」


床屋 「……」


吉川 「え? 面白い話は?」


床屋 「えぇ。聞いたんです」


吉川 「するんじゃないの?」


床屋 「しませんよ。なんで見ず知らずのお客さんにしなきゃいけないんですか」


吉川 「じゃいったい、なんでそんなことを」


床屋 「ただの報告ですよ」


吉川 「報告って、そんな報告されても困る」


床屋 「報告されると困りますか」


吉川 「困るって言うか……」


床屋 「あ、やべ! まぁいいか、報告しません」


吉川 「ちょっ! それは報告してよ! 何がやばかったのよ」


床屋 「大丈夫です。リカバリー効くんで。8回目のリカバリー失敗しただけです」


吉川 「効いてないじゃん! リカバリーがリカバリーを呼んで泥沼になってない?」


床屋 「すみませんね、チャンピオンなもんで」


吉川 「どんないい訳だ」


床屋 「最近、手が震えるんですよ」


吉川 「パンチドランカーじゃないか。ふざけるな!」


床屋 「冗談ですよ。タチの悪いジョークです」


吉川 「タチが悪いとわかってるなら言わないで欲しい」


床屋 「はい、お客さん。できましたよ」


吉川 「え……。えぇ! えええええ!?」


床屋 「バッチリです」


吉川 「ちょっと……、なにこれ。なにこれ? アイパー!?」


床屋 「具志堅です」


吉川 「なんで具志堅なんだよ! キアヌだろ!」


床屋 「キアヌってなんすか? 言ってる意味がわからなかったので、具志堅にしておきました」


吉川 「キアヌ・リーブスだよ!」


床屋 「そういうブスはちょっと知り合いにはいませんね」


吉川 「ブスのことじゃないよ。人名だよ」


床屋 「わけわからないこと言わないでくださいよ。こっちは一生懸命やってるんだから」


吉川 「なんでわからない時点で自信満々だったんだ」


床屋 「チョッチュネー。って言ってみてください」


吉川 「誰が言うか! ふざけるな!」


床屋 「お似合いですよ」


吉川 「俺の……、俺のキアヌ……」


床屋 「具志堅もキアヌも似たようなもんですよ。同じ哺乳類だし」


吉川 「そんな大きく区切るな」


床屋 「似合ってるけどなぁ……」


吉川 「やだよ! なんとかして! 本当にお願い」


床屋 「よし! グッドアイデアをひらめきました」


吉川 「なんですか?」


床屋 「……」


吉川 「え……。アイデアは?」


床屋 「えぇ。ひらめきました」


吉川 「教えてよ!」


床屋 「そんな、見ず知らずのお客さんに……」


吉川 「いったいなんなんだ?」


床屋 「ただの報告です」



暗転




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