パズル


良子 「平成のパズル王こと、吉川くん!」


吉川 「そんな、国の王に就任した覚えはない」


良子 「吉川くん、暇で死にそうでしょ?」


吉川 「死にそうじゃないけど、忙しくはない」


良子 「クロスワードパズルが行き詰まったんですけど、救ってくれませんか?」


吉川 「なんで突然そんなもんはじめたんだ」


良子 「これは恋人達のクロスワードパズルだよ」


吉川 「なんだそれ」


良子 「二人で解くと幸せになれるの」


吉川 「随分と都合のいいアイテムだな。ドラえもんみたいだ」


良子 「ねーねー。助けてよ」


吉川 「いいけど……どこがわからないの?」


良子 「なんかね、うまくいかないの」


吉川 「なんで?」


良子 「出来上がった言葉が意味不明になったり……」


吉川 「それは前の問題が間違えてるんじゃないの?」


良子 「そんなわけないよ! ここまでは順調だったもん」


吉川 「見せてよ」


良子 「やだ!」


吉川 「なんでだよ」


良子 「変なアラ探しするもん」


吉川 「間違ってるから直すんだろ」


良子 「もう、しょうがないな。スケベ太郎」


吉川 「スケベ太郎じゃない。貸しなさい」


良子 「もう、結構埋まったよ。エッヘン」


吉川 「……なんだこれ?」


良子 「すごいでしょ?」


吉川 「なんだ? このロメスって」


良子 「走れロメスだよ」


吉川 「メロスだろ」


良子 「あ、そうだ。間違えた」


吉川 「無茶苦茶じゃないか。なんだこの、ハトーって」


良子 「ハトだよ」


吉川 「横のカギ2。都会に増えてる黒い鳥」


良子 「ハトじゃん」


吉川 「三文字だろ」


良子 「だから、ハトーにしたんだよ。一文字たりないから」


吉川 「いやいや、勝手に一文字増やすなよ。カラスだろ」


良子 「それがあった!」


吉川 「それしかない。少なくともハトーじゃない」


良子 「おかしいと思ったんだ」


吉川 「思ったなら、もうちょっと考えなさい」


良子 「そこさえわかれば、謎は全て解けた」


吉川 「全然解けてない。縦のカギ4」


良子 「なになに?」


吉川 「綺麗な花にはトゲがある。二文字」


良子 「ワル」


吉川 「なんだ、ワルって、バラだろ」


良子 「悪女って書いてワルって読むんだよ!」


吉川 「知らないよ。バラだ。バラ」


良子 「吉川くんの常識でものをはからないでよ!」


吉川 「一般的な見解だ。少なくともワルよりは」


良子 「絶対、悪女だよ」


吉川 「だから、横の辻褄があわなくなっちゃうでしょ」


良子 「そんなの関係ないよ! もっと自由な発想でやってよ」


吉川 「クロスワードパズルの概念を否定するな」


良子 「文句ばっかり」


吉川 「面倒くさいなぁ。こんなの解いてどうするんだよ」


良子 「二人に幸せが訪れるんだよ」


吉川 「そんな漠然としたおまじないか」


良子 「おまじないじゃないよ! もっと具体的に幸せになれるよ」


吉川 「なんで?」


良子 「うぅ……プレゼント」


吉川 「そんなことだと思った」


良子 「いいじゃん。幸せになろうよ」


吉川 「横のカギ6。五文字。最初がアで最後がル。ヒント、何度でも」


良子 「アルコール」


吉川 「アンコールだ」


良子 「何度でも飲みたくなるのはアルコールでしょ。見てよこの手。震えてるでしょ」


吉川 「アル中じゃないか」


良子 「だからアルコールでもオマケで正解だよね」


吉川 「オマケなんてない。カウンセリングを受けろ」


良子 「ケチ」


吉川 「最後、縦のカギ6。最初がア。ヒント、恋人同士は」


良子 「あほみたい」


吉川 「……」


良子 「アホミタイ」


吉川 「ふざけてる?」


良子 「生真面目だよ」


吉川 「生真面目か……。あの……これは……あれじゃないの?」


良子 「あほらしい!」


吉川 「違う! アイシテルだ!」


良子 「やだ、吉川くんたら」


吉川 「言いたくて言ったわけじゃない」


良子 「そうかぁ。アイシテルか」


吉川 「はい、とりあえず完成。プレゼント応募すれば?」


良子 「わーい。ありがとう」


吉川 「なにが当たるの?」


良子 「えっとね。クロスワードパズル第二弾」


吉川 「またかよ。そんなもん送るな!」


良子 「吉川くん」


吉川 「ん?」


良子 「横のカギ6。さっきのもう一度」


吉川 「あ……あいしてる?」


良子 「アルコール。おかわり」


吉川 「病院行こう」



暗転




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