ぺてんし

名人戦

パチ

吉川　「先手1六歩」

解説　「端歩をついてきましたね」

吉川　「どうですか？　今の一手は？」

解説　「非常にいい手ですね。名人はとても苦しいです」

吉川　「もしかしたら、名人位が入れ替わると言う事態も……」

解説　「十分に考えられますね」

バチッ

吉川　「後手2二玉」

解説　「さすが名人ですね。冷静に受け止めました」

吉川　「やはり名人。そう簡単には譲りませんね」

解説　「ここの攻防は大切ですよ」

吉川　「この勝負の、いや、名人位の行方を決める大切な局面になってきました」

解説　「今の状況ですと、若干八段の方が有利な気がします」

吉川　「名人、少しきつい状況ですね。しかし名人は今まで幾度となく、このような状況を脱してきました」

解説　「その通りです。一筋ならではいかないのが、名人の怖いところですね」

吉川　「非常に面白い対局となってまいりました。ここで少し、今までの流れを振りかえりましょう。よろしくお願いします」

解説　「よろしくお願いします。さて、46億年前、地球と言う惑星が生まれて……」

吉川　「そこまで振りかえらなくて結構です」

解説　「あ、よろしいですか。では1962年、長野県に生を受け、神童と賑わしたのがこの私……」

吉川　「自分史は振りかえらなくて結構です」

解説　「あ、よろしいですか」

吉川　「この対局の流れをお願いします」

解説　「あぁ。そういうことですか。わかりました。まず後手、八段の……」

パチッ

吉川　「あ、ここで局面に動きがあった模様です」

解説　「……」

吉川　「後手3三銀……ですね。どうでしょう？」

解説　「これは……これはいい妙手です。名人、とてもツライと思います」

吉川　「ここで、八段の妙手がでました」

解説　「正直……名人、これはまずいですね」

吉川　「長きに渡って守り抜かれた名人位に翳りが見え始めました」

解説　「う～ん……もしかしたら、これで決まってしまったかもしれません」

吉川　「名人、まさに苦虫を噛み潰した顔で熟考しております」

解説　「しかし名人ですからね、わかりませんよ。次ぎにどんな手が出るか」

吉川　「そうですね。いままでどんな困難な局面も思いもよらない手によって跳ね返してきました」

バシッ

吉川　「あ……」

解説　「あ……」

吉川　「……」

解説　「……」

吉川　「これは……どういう手だったんでしょうか？」

解説　「右……ですね」

吉川　「……ですね」

解説　「八段のアゴにクリーンヒットしました」

吉川　「八段、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしております」

解説　「名人、してやったりですね」

パチッ

吉川　「先手、扇子で殴り返しましたよ」

解説　「なんとも弱々しい一手ですね～」

吉川　「八段、目にうっすらと涙を浮かべてますか？　顔は紅潮しております」

ドスッ

吉川　「後手、名人、余裕の表情で左フックです」

解説　「鈍い音しましたね」

吉川　「挑戦者の身体が大きく揺らぐ」

解説　「腰の入った、いいパンチです。効いてますよー」

ヒュッ

吉川　「八段の投げた扇子は……名人の脇をすり抜けて行きました」

解説　「名人、よく見てますね。冷静です」

吉川　「一方、八段は、頭に血が上りすぎてるのか、相手が見えてない状況です」

解説　「いけませんねー。こういう場合はいったん足を使って距離を取りましょう」

ゴスッ

吉川　「あーっと！　しかし名人逃がさない。伝家の宝刀、右ストレートが八段の顔面をとらえたーっ！」

解説　「八段、もう立ってるのがやっとです」

吉川　「やはり名人強い。八段の攻撃をまったくよせつけません」

解説　「八段は、最初に貰ったパンチで冷静さを失ってしまいましたね」

吉川　「ここは一日の長がある、名人が有利か」

解説　「あ、八段、将棋盤を振り上げましたね」

吉川　「八段は、さっきから扇子や棋盤といった、道具を使った攻撃が目立ちます」

解説　「いけませんねー。ここは一つ、クリーンなファイトをしてもらいたいです」

ブンッ

吉川　「八段の振り下ろした棋盤をスウェーでかわして……」

ドッ

吉川　「名人の、アッパーカットがヒット！」

解説　「決まりましたね」

吉川　「八段、ゆっくりと崩れて行く……立てません。試合続行不可能」

解説　「あれをもらったら立てませんよ」

吉川　「名人、あざやかなK.O.劇でベルトを守りました」

解説　「いい試合でした」

吉川　「全体的にどうでしたか？」

解説　「そうですねー。名人のテクニックが冴え渡った好勝負でした」

吉川　「名人、まだまだ健在ということでしょうか？」

解説　「当分、名人の時代は続くでしょうね」

暗転