あだ名
吉川 「おう! 新人! 俺は吉川。カワさんと呼んでくれ」
新人 「はい! カワさん、よろしくお願いします」
吉川 「そして、こちらが課長。通称ボスだ」
新人 「はい! よろしくお願いします!」
吉川 「どうした? 新人」
新人 「いやぁ、本当にニックネームで呼ぶもんなんですね」
吉川 「まぁな。本名だとまずい状況とかもあるし。あ、ちょうどいい。ボス、こいつにも名前つけてやってください」
新人 「お願いします」
ボス 「うむ……」
新人 「……」
ボス 「……キンタマ」
新人 「え?」
吉川 「よし、お前は今日からキンタマだ。早速捜査に行くぞ、ついて来いキンタマ!」
金玉 「いや、ちょっと待ってください! キンタマって!」
吉川 「どうした? 金玉。刑事の命はフットワークだぞ」
金玉 「だってキンタマって……。そんな名前ちょっとおかしい!」
吉川 「いいじゃないか。お似合いだぞ!」
金玉 「お似合いたくないですよ。いやだ。キンタマなんていやだ」
吉川 「しょうがないだろ。ボスの命名は絶対だ」
金玉 「そんな……」
ボス 「おい! チンゲはどこにいった?」
吉川 「チンゲは連続姥捨て事件のため、聞きこみに出ています」
ボス 「そうか。いないなら仕方ない」
金玉 「なんですかチンゲって、まさかそれも……」
吉川 「お前の先輩だ。天然パーマの」
金玉 「そんなあだ名、いじめられっ子じゃないですか!」
吉川 「お前はまだキンタマでよかったよ」
金玉 「よくないっすよ! どっこいどっこいですよ!」
ボス 「おいっ! ウンコは? ウンコはどこだ!?」
金玉 「ウンコって。まさか、それも先輩?」
吉川 「ボス、ウンコはトイレでお願いします」
ボス 「そうか、トイレか。それも一理あるな」
金玉 「ウンコは普通か! って、おかしいだろ! なんだ、ウンコはどこだって。わかるだろ、大人なら」
吉川 「シーッ! ボスは心の病気なんだ」
金玉 「そんなの早く病院に行けよ! なんでそんなやつにキンタマ呼ばわりされなきゃいけないんだ」
吉川 「ああ見えても仕事に関しては優秀なんだ。だから周りも目を瞑ってる」
金玉 「俺のキンタマは瞑れないよ!」
吉川 「別にキンタマを瞑らなくてもいい」
金玉 「違う! そうじゃない。そう言う意味じゃない。やだー! こんなあだ名やだー!」
吉川 「わがままを言うな! これも一人前の刑事になるための試練だ」
金玉 「そんな試練があるか! 全然関係ないじゃないか」
吉川 「やっぱ関係ない……かな?」
金玉 「自分達もうすうす感づいちゃってるんじゃないですか」
吉川 「でもなぁ……。ボスに逆らうと」
金玉 「逆らうとどうなるんですか?」
吉川 「もっとひどいあだ名をつけられるぞ」
金玉 「キンタマよりも、もっとひどいんですか?」
吉川 「あぁ……。想像を絶するひどさだ。前にも、お前のように歯向かっていった男がいたよ」
金玉 「その人は……どうなったんですか?」
吉川 「ひどい名前をつけられた挙句、今は塀の中にいる」
金玉 「そんなっ! 刑事なのに、あだ名くらいで」
吉川 「あだ名くらいだと? バカにするな。所轄どころか全署の連中からもそう呼ばれるんだぞ」
金玉 「それで捕まってしまうほどの……」
吉川 「あぁ。あのあだ名で満足してればいい刑事になっただろうに……」
金玉 「で、でも俺、キンタマはいやです!」
吉川 「まだ言うか!」
金玉 「キンタマよりもひどい名前なんてないですよ! これ以外なら、もうなんでもいいです!」
吉川 「そうか。決意は固いんだな」
金玉 「えぇ」
吉川 「ボス、聞いての通りです。どうしましょう?」
ボス 「クルックー」
吉川 「ボス、鳩のモノマネは結構ですから、キンタマに新しいニックネームをお願いします」
ボス 「うむ……」
金玉 「……」
ボス 「……犯人」
吉川 「よし、お前は今日から犯人だ。早速捜査に行くぞ、ついて来い犯人!」
犯人 「えっ!?」
全署員「逮捕だー!」
犯人 「いや、ちがっ……あぁ…っ!」
暗転
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