神様

吉川 「あぁ……神様」


神様 「ん? 呼んだ?」


吉川 「わぁ! あんた誰だ? どこから入ってきた!」


神様 「え、神様だけど。そこのドアから入ってきました」


吉川 「神様ですけどってサラリと言いのけたな!」


神様 「あ、コリャ失敬。自分に様つけちゃったよ。神です」


吉川 「そう言う問題じゃないだろ、なんで神様が……」


神様 「いや、だって呼んだじゃんか」


吉川 「呼んだけど、そんなに簡単に出てきちゃっていいの?」


神様 「え? ダメ? 問題あり?」


吉川 「問題って言うか……だいたいあんた、本当の神様なの?」


神様 「本当のって言うか。一応神だけど……えーと。これ、名刺」


吉川 「名刺あるのか! うわっ! 字が少ない! こんな字の少ない名刺はじめてみた。神、住所、天国って五文字しか書いてない」


神様 「裏には一応、英語で書いてあるから」


吉川 「本当だ。ケーエーエムアイ……KAMIって、ローマ字じゃんか! ゴッドだろう、普通」


神様 「英語ちょっと苦手で」


吉川 「物凄く怪しい、まったく信じる気にならない」


神様 「あ。じゃぁこれ免許」


吉川 「免許! 免許あるんだ!」


神様 「そりゃね。無免許で運転したら違法でしょ」


吉川 「わぁ、本当に神って書いてある。なんかよくできた偽造っぽいなぁ……」


神様 「失礼な」


吉川 「だって、この写真とか……」


神様 「写真のことは言うな! その写真写り悪いんだよ!」


吉川 「へ、へぇ……」


神様 「信じた?」


吉川 「いやぁ……。にわかには信じがたいなぁ」


神様 「なんだよぉ」


吉川 「じゃ、一億出してよ! そうしたら信じる」


神様 「えー! 一億ぅ~? いいけどさぁ……。もう銀行しまってるから下ろせないよ。明日でいい?」


吉川 「下ろすんだ! もっとこう、パパッと出せないの?」


神様 「できないこともないけど、そういう物理法則を無視したことすると、世界のバランスとか面倒なことになるからさぁ……」


吉川 「なんか、説得力ありそうなことを……」


神様 「じゃ、とっておきをみせよう! 時をとめて見せます」


吉川 「そ、それはすごい! それやったら信じるよ!」


神様 「どうだった?」


吉川 「……え?」


神様 「今、結構止めてみたんだけど」


吉川 「え、え? 今?」


神様 「うん、5分くらい止めた。すること無くて暇だったよぉ」


吉川 「えーと、その時に僕は何をしてたの?」


神様 「え? 止まってたよ。アホ面さげて」


吉川 「それじゃわからないじゃん! なにそれ? 騙されてるの!?」


神様 「騙してないって! 本当に止めたもん!」


吉川 「ずりぃ! ずりぃ! なんだよそれぇ……」


神様 「だってしょうがないじゃん、君は一般人なんだから」


吉川 「釈然としないなぁ……。上手い詐欺にあってるみたいだ」


神様 「神を詐欺呼ばわりとは、ひどいなぁ」


吉川 「なんか、わかりやすい神様ネタやってよぉ!」


神様 「えー。しょうがないなぁ……。ちょっと恥ずかしいけど、とっておきの見せちゃおうかな。いくよ?『おい! キタロー』どう?」


吉川 「どうってなに! なにそれ?」


神様 「なにって、目玉の親父」


吉川 「モノマネかよ! しかも目玉の親父。なんか、久しぶりに真似する人見たわ」


神様 「『おい! 子泣き爺』どう?」


吉川 「呼ぶ名前変えただけじゃん。ボキャブラリーの少ないモノマネだなぁ……。というか、なんなんだそれは? よりにもよって妖怪のマネじゃないか。どの辺が神様なんだ?」


神様 「いや、これは忘年会でやろうと思ってた隠し芸」


吉川 「隠し芸にしては随分とつたない」


神様 「『おい! 一反木綿』」


吉川 「もういいよ……わかった」


神様 「やっと信じてくれたか」


吉川 「信じたというか、どうでもよくなりました。ところで神様がなんのようですか?」


神様 「何の用って……。そっちが呼んだんじゃない」


吉川 「あぁ、そうだった。実は大ピンチで!」


神様 「ちょっと待った」


吉川 「へ?」


神様 「最近、なにかあると、やたらと神頼みする人間が増えて、ちょっと忙しいんだよね。だから、注意しに来たの」


吉川 「えーっ! だって……」


神様 「だってじゃない。神様だって暇じゃないんだから……」


吉川 「結構暇そうだけど……」


神様 「あぁ、忙しい! 早く帰ってジグソー完成させなきゃ!」


吉川 「全然忙しいアピールになってない。むしろ暇そうさ加減を強調してる」


神様 「だからね、神様に頼るのは良くないよ。って一言いおうと思って。それだけ」


吉川 「それだけって……。いや、せっかく来たんだから、願いの一つくらい」


神様 「ダメダメー。自分で頑張るんだよ。じゃ、バイナラ~!」


吉川 「バイナラって……。あぁ、この世には、神も仏もいないのか……」


仏様 「ん? 呼んだ?」


吉川 「わぁ! あんた誰だ? どこから入ってきた!」


仏様 「え、仏様だけど……そこのドアから入ってきました」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る