戦場シリーズ

ジョニー「誰だっ!」


吉川  「待て。俺だ」


ジョニー「なんだ、吉川か。後ろから近づくなんて……」


吉川  「悪い。しかし、こんなところでどうした?」


ジョニー「星を見てたんだ」


吉川  「星か……。そんなものがあることすら忘れちまってたよ」


ジョニー「星がな、似てるんだよ。あの時と……」


吉川  「そりゃ、季節が同じなら……」


ジョニー「そうじゃない。なんか、やな予感が少しだけな」


吉川  「また、お得意のジョニーのやな予感か。今まで一度も当たったことがないじゃないか。……ぁ、一度だけあったか」


ジョニー「吉川。俺になにかあった時は、キャサリンとJrのこと、お願いできるか?」


吉川  「なに言い出すんだ。お前らしくもない。お前なんか、殺しても死なないだろ」


ジョニー「茶化すな。今度の作戦がどう言うものかは知ってるだろ?」


吉川  「……あぁ」


ジョニー「こんな無謀な作戦は、あの時以来だ……」


吉川  「思い出させるな」


ジョニー「忘れたとでも言うのか!? 俺は、一時も忘れたことなんてない」


吉川  「俺だってないよ……。だが過去に囚われていては、戦場で生きぬくことはできない」


ジョニー「逆だな。俺は、あの記憶があるからこそ、今までやってこれた」


吉川  「お前との腐れ縁もあの時以来か」


ジョニー「結局、生還したのは四人だけだった……」


吉川  「俺と……お前と……」


ジョニー「藤村部隊長だ」


吉川  「……藤村」


ジョニー「隠すな。知ってるんだ。今度の相手の指揮官は……藤村部隊長。いや、今では藤村一佐か?」


吉川  「……あぁ」


ジョニー「あの人の恐ろしさがわかる人間は、俺とお前くらいなもんだろうな」


吉川  「いつになく弱気じゃないか。俺達は、あの頃の俺達じゃない」


ジョニー「あぁ。そして藤村もあの時の藤村じゃない」


吉川  「……なにが言いたい?」


ジョニー「怖いんだ……。俺は死ぬのが怖いんだ」


吉川  「そんもの、誰だって怖い」


ジョニー「違う。今までは、怖くても前に進めた。前に進むことが恐怖を振り払う方法だと、そう信じてやってきた。でも、今回は……」


吉川  「……Jrはいくつになった?」


ジョニー「あぁ、11になる。もっとも戦場ばかりを渡り歩いてるせいで、年に数回も会わないがな」


吉川  「親父の顔を忘れてるんじゃないか?」


ジョニー「忘れてるどころか、俺が親父だということに気がついてないようだ。先月、帰った時には『ママ、またハムのおじさんが来たよ』と言ってたよ。ハハッ」


吉川  「ハハハ。それは泣けるな」


ジョニー「吉川、俺……。この作戦が終ったら、隊を抜けるよ」


吉川  「あぁ。……それがいい」


ジョニー「いつまでも、ハムのおじさんじゃいられないからな」


吉川  「でもなんで最後にこんな危険な作戦を?」


ジョニー「……金だ」


吉川  「だってお前、あのとうもろこし畑は?」


ジョニー「そんなもん、とっくに売っちまったよ」


吉川  「なんでそんなに金が? まさかお前……」


ジョニー「違う違う。そんな汚いもんに手を出すようなことはしない」


吉川  「じゃ、なぜだ」


ジョニー「Jrが……ガンなんだ」


吉川  「ガーン!」


ジョニー「……」


吉川  「……」


ジョニー「……」


吉川  「……スマン」


ジョニー「あいつは、俺のことを父親と思ってないようだけど。俺にとっては、かけがいのない息子だ。失いたくない」


吉川  「だからと言って、なにもこんな危険な作戦に……」


ジョニー「よく言うよ。自分も参加してるくせに」


吉川  「俺は……」


ジョニー「一緒だよ。俺も、お前も、骨の髄まで兵士になっちまってるのさ」


吉川  「ジョニー」


ジョニー「だから、もし俺の身に何かあったら、お前が新しいハムのおじさんになってくれないか?」


吉川  「ハムのおじさんは……ちょっと……」


ジョニー「年に一回、日本ハムvs千葉ロッテマリーンズ戦に連れていってくれるだけでいい」


吉川  「それで……ハムのおじさん?」


ジョニー「頼む」


吉川  「ゴメンだな」


ジョニー「なっ!? もしかして……アンチ日ハム?」


吉川  「違う。そんな地味な理由なんかじゃなく。ハムのおじさんは、お前じゃなきゃいけないんじゃないのか? お前が、ちゃんと生きて帰って、ハムのお父さんになるんだ」


ジョニー「吉川。そ、そうだな。ハムのお父さんは、俺以外いないな」


吉川  「そうだ」


ジョニー「よし、そうと決まったら、何がなんでもこの作戦を!」


吉川  「そうだ。俺達なら、できる」


ジョニー「なんだか、いやな気分も吹っ飛んだぜ。スキップランラン♪」


吉川  「おいおい、あんまり調子に乗るなよ」


ジョニー「ランラン、たりらりら~ん♪」


吉川  「おい、あんまりそっちに行くと……」


ジョニー「ラン……ぐわぁぁああ!」


吉川  「ジョニー!? どうした!?」


ジョニー「来るなっ! 巨大アリ地獄だ!」


吉川  「えー! そんな巨大アリ地獄って……」


ジョニー「しまった! もがけばもがくほど落ちて行く」


吉川  「待ってろ、今なにか掴むものを」


ジョニー「わぁぁぁ……」


吉川  「ちっくしょう! こんな時に限って、バナナしかない!」


ジョニー「吉川、俺はもうダメだ」


吉川  「何を言ってるんだ! 諦めるな! すぐに人を呼んでくる」


ジョニー「待て! 助からないことは自分が一番知っている」


吉川  「だからと言って!」


ジョニー「それに、こんな情けない姿……人に見られたくない」


吉川  「確かに、大層情けないが。そんなこといってる場合か」


ジョニー「違うんだ。聞いてくれ。このままじゃ、この作戦は失敗する」


吉川  「そんなことっ!」


ジョニー「お前だってわかってるだろ!」


吉川  「うぐ……」


ジョニー「もし、この作戦を成功に導くとしたら、それは英雄でも、武器でもない」


吉川  「……」


ジョニー「兵士、一人一人の士気だ」


吉川  「お前……」


ジョニー「俺を使え」


吉川  「そんなこと…」


ジョニー「甘ったれるな! ここは戦場だ! 生き残るためなら、なんでもする。それが戦争だ」


吉川  「ジョニー」


ジョニー「俺は、藤村の汚いやり口によって殺された……いいな?」


吉川  「いや、巨大アリ地獄……」


ジョニー「融通を利かせ! このまま全滅したいのかっ!」


吉川  「なんか、都合がいいっぽいけど……」


ジョニー「そうだ。この方法しかないんだ。これでいいのだ」


吉川  「え? ……バ、バカボン?」


ジョニー「吉川、勝て」


吉川  「ジョニー!」


ジョニー「……キャサリンと……Jrを……頼む……」


吉川  「ジョニーッ!」


ジョニー「……」


吉川  「く、くそっ。ジョニー、お前の死は無駄にはしない。 この、バナナに誓って、この作戦成功させて見せる! でもハムのおじさんはちょっとやだな。日ハム嫌いだし……」


暗転



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