戦場シリーズ


吉川 「そんな作戦! 成功すると本気で思ってるんですかっ!?」


上官 「すでに作戦は発令された。今ごろ部隊は現地についているころだろう」


吉川 「馬鹿なっ! 犬死じゃないか!」


上官 「これは上が決めたことだ」


吉川 「上部は部下の命をなんだと思ってるんだ」


上官 「この作戦が成功すれば、多くの命が救われる……」


吉川 「だからと言って!」


上官 「彼らは皆、自から作戦に志願したのだよ」


吉川 「な、なぜ……」


上官 「さぁ。他人の命を考慮したヒューマニズムか、あるいは死に場所を求めていたのかもしれん」


吉川 「そんなこと、させてたまるかっ!」


上官 「落ち着きたまえ、吉川。これはもう、どうにもならないことなんだよ」


吉川 「仲間が、仲間が死ぬんですよ?」


上官 「それが戦争と言うものだ」


吉川 「納得いきませんよ」


上官 「ならば、どうする?」


吉川 「上部に訴えでます」


上官 「無駄だ。上は人の命など、数字としか思っていない。それに……今、訴えたところで、 答えが出るころには作戦は終了している」


吉川 「くそっ」


上官 「どこにいく」


吉川 「決まってるでしょ。現地で部隊と合流します」


上官 「やはりそうするか」


吉川 「止めても無駄です」


上官 「止めはせんよ。書類等は……こちらでやっておく」


吉川 「……上官」


上官 「君が行けば、成功するかもしれんな。A117作戦の英雄ならば」


吉川 「よしてください。俺は英雄なんかじゃない」


上官 「しかし兵士達は、そういうロマンを捨てられんのだよ」


吉川 「俺よりも英雄と呼ぶべき男たちは沢山いた。逃げ延び、生き恥を晒している俺が英雄だなんて」


上官 「君もまた、死に場所を探しているのか」


吉川 「ハッ。冗談じゃない。生きて帰ってきますよ。仲間達、全員と」


上官 「しかし、それは無理かもしれんな」


吉川 「なっ……」


上官 「さっき入った情報によると、相手の司令官は藤村一佐だという話だ」


吉川 「!? ……藤村」


上官 「どうする?」


吉川 「やつが指揮をとるというなら、なおさら行かないわけにはいかない」


上官 「死ぬかもしれんぞ」


吉川 「ふっ。刺し違えてやりますよ」


上官 「そうか。吉川、これを持っていってくれないか?」


吉川 「……これは?」


上官 「アナクロだろ? いまでは使い物にならん。私が若かった頃、使っていたモノだ」


吉川 「ひょっとして、上官も」


上官 「つまらないしがらみばかり増えてしまって、気がついたら何もできなくなっていた」


吉川 「使わせてもらいます」


上官 「ありがとう。全ての責任は私が持つ。……頼んだぞ」


吉川 「吉川、ただ今より作戦コード00302に入ります」


上官 「待て、吉川」


吉川 「まだなにか?」


上官 「命令を一つ忘れていた」


吉川 「なんでしょう?」


上官 「死ぬな……。以上だ」


吉川 「了解しました!」


上官 「あ、あと……」


吉川 「はい!」


上官 「帰りにコンビニでジュース買って来て」


吉川 「はい! ……はい?」


上官 「ジュース」


吉川 「あ、あの……いつものでいいですか?」


上官 「あぁ。100パーの」


吉川 「100パーですね」


上官 「無かったら90パーで」


吉川 「90パーッ!? 90%のジュースって逆に珍しくないですか?」


上官 「あるんだよ。あそこのコンビニだろ?」


吉川 「あれですよ。郵便局の……」


上官 「馬鹿、そこじゃねーよ。商店街の方が近いじゃん」


吉川 「でも、あそこ店員がムカツクんだもん」


上官 「ガマンしろよ、そんくらい」


吉川 「えー。でも、あれでしょ100パーあればいいんでしょ?」


上官 「100パーあれば、そっち」


吉川 「わかりました。チャチャッと行って来ます」


上官 「あ、あとあれ」


吉川 「なんすか?」


上官 「なんだっけ? 名前忘れちった。あの~ホラ」


吉川 「えー。わかんない」


上官 「あれだよ。ふわふわしててさ、いい匂いのヤツ」


吉川 「なにそれ? 柔軟剤?」


上官 「違うよ! なんで柔軟剤食べなきゃいけないんだ」


吉川 「あ、食べ物っすか」


上官 「ほら、俺がいつも食べてるやつ」


吉川 「えー? ヒマワリの種チップス?」


上官 「違う。ヒマワリの種チップスもそうだけど、違うやつ」


吉川 「なんだろう?」


上官 「あ、あれだ。おにぎり」


吉川 「全然、ふわふわしてないしいい匂いもしませんよ」


上官 「おにぎりも買って来て、小腹すいちゃって」


吉川 「味は?」


上官 「マヨネーズ意外なら何でもいいや。あ、魚介類じゃないやつ」


吉川 「魚介類じゃないって、選択肢狭いなぁ」


上官 「あと、サンデーの新しいの出てたら……」


吉川 「でてませんって」


上官 「馬鹿、違うんだよ。あそこたまに早く出すんだから」


吉川 「まじで?」


上官 「まじまじ。だから郵便局の方じゃないほうがいいんだって」


吉川 「でもあの店員、ムカツクんだよなぁ」


上官 「金はさっきの使っていいから」


吉川 「えー、これ2000円札じゃないっすか、なんか恥ずかしいっすよ」


上官 「いいじゃん別に。金なんだから」


吉川 「まぁ、いいっすけど……」


上官 「あと、領収書ね。宛名は多国籍軍で」


吉川 「うぃーす。じゃ、行って来ます」


上官 「吉川……」


吉川 「はい?」


上官 「私は……いい部下を持った」


吉川 「吉川、これより作戦コード00302及び、コンビニにて、魚介類じゃないおにぎりとサンデー と100パーのジュースの買出しに行って来ます」


上官 「必ず、必ず生きて帰って来い」



暗転




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