空の旅


副機長「機長! 乱気流です」


機長 「あぁ、乱気流だな」


副機長「どうしましょう?」


機長 「……まかせた」


副機長「任せないで下さい! あなた機長でしょ?」


機長 「えー! だって俺、操縦苦手だもん」


副機長「苦手って、なんで機長やってるんですか!」


機長 「え。ほら、罰ゲーム的な?」


副機長「罰ゲームか! じゃ、副機長の私はどうなっちゃうんだ」


機長 「知らないよそんなの。何ゲーム?」


副機長「何ゲームって、別にゲームで仕事してないですよ!」


機長 「あれだ。何ジャンケン?」


副機長「ジャンケンでもない! そもそも何ジャンケンて、他にどんなジャンケンがあるんですか」


機長 「えーと……キス?」


副機長「それはジャンケンキスゲームじゃないですか! ゲームですよ」


機長 「あぁ、そうか。難しいな。じゃんけんは」


副機長「別にジャンケンの話なんかどうでもいいです」


機長 「そうだった。キスの話だっけ?」


副機長「そんな話は微塵もしてない。乱気流ですよ」


機長 「あぁ、そうか。どうしようかね?」


副機長「どうにかしてくださいよ」


機長 「俺やってもいいけど……。落っこっちゃうよ?」


副機長「何それ! なんなの、その責任感のなさは」


機長 「だって無理だよー。乱気流とか。外寒そうだし」


副機長「外ッ!? 外で何するつもりなの! 別に出なくてもいいでしょ」


機長 「いや、例え話だよ。例えば……パラシュートとか」


副機長「逃げる気か! あんた一人で逃げる気か!」


機長 「みんなには内緒ね」


副機長「あなたは何人もの命を預かってるんですよ!」


機長 「じゃ、返すよ」


副機長「返すとかそういう問題じゃないでしょ」


機長 「預かったのは出発ロビーだろ? 俺、知らないよ」


副機長「いや、荷物の話じゃなくて、命の話だ」


機長 「えー。多分それ、俺じゃないよ」


副機長「俺じゃないじゃない! あなただ! 預かっちゃったの」


機長 「困るなぁ……。そういうことは、あらかじめ言って貰わないと」


副機長「知っててよ! 心がけておいてよ!」


機長 「わかった。でも、失敗したらゴメンね」


副機長「ゴメンじゃない。失敗しちゃダメ」


機長 「なんでそうやってプレッシャーかけるわけ? あ~、もうやる気なくなった」


副機長「いや、プレッシャーって……」


機長 「せっかく今やろうと思ったのに、言われたからやーめた!」


副機長「やめないでよ! お母さんに勉強しろって言われた子じゃないんだから。スネない」


機長 「あーあ、さっきなら上手くいった気がするのに、もうだめだ。落ちちゃう~」


副機長「落とさないでよ! 頑張ってよ!」


機長 「あー。俺、頑張れとか言われるとつぶれるタイプなんだよね」


副機長「注文の多い人だなぁ」


機長 「もっと自然とやる気にさせてよ」


副機長「えーと……じゃぁ、ファイトッ♪」


機長 「お前ボキャブラリー少ないなぁ」


副機長「くッ……。なんでこんな惨めな思いを」


機長 「そうだ。じゃ賭けようぜ。成功したら4000円」


副機長「妙にリアルな数字出してきたな……」


機長 「どうよ?」


副機長「わかりましたよ。4000円払いますからちゃんと操縦してください」


機長 「なにそれ。最初っから負ける気なんじゃ賭けする意味ないじゃーん」


副機長「意味なんて最初からないでしょ! 死んじゃうじゃない!」


機長 「勝つ気ない奴と賭けするほど不愉快なことはない。俺、降りるよ。ついでに飛行機も降りる」


副機長「上手いこと言って煙に巻いたつもりですか! 逃げてるだけじゃないですか!」


機長 「だったら、真剣に賭けろよ!」


副機長「なんで自分の死を願うハメに……」


機長 「よし! 4000円のために気合入れていこう!」


副機長「お、落ちちゃえ。落ちちゃえ……」


機長 「うわはっは。そうはいくかー!」


副機長「すげーノリノリだ」


機長 「うぅ。ぅぅぅ……」


副機長「へへ……。苦戦してる」


機長 「うわぁ! もうダメ。はいはい、負け負け。はい4000円」


副機長「いや、ちょっと待ってよ! 負けないでよ!」


機長 「ムリムリ。これ以上やっても落ちちゃう」


副機長「簡単に諦めないでよ!」


機長 「いいよ。4000円くらいくれてやる! 畜生、悔しいなぁ……」


副機長「4000円の問題じゃないよ! 落ちちゃう!」


機長 「だって、できないものはできませんー!」


副機長「わかった! じゃ、1万円上げる! どうだ?」


機長 「まじで!?」


副機長「成功したらあげるから!」


機長 「うっほー! でもなぁ、難しいし……」


副機長「じゃ、一万五千円!」


機長 「もう一声!」


副機長「えーい! 一万五千飛んで五十円!」


機長 「飛ぶなよ! 飛行機だけにって、飛ぶなよ! セコいなぁ」


副機長「わかりました。二万円でどうだ!」


機長 「のった!」


副機長「よし! やっちゃえー!」


機長 「こんな乱気流なんてビュ~ンビュ~ン」


副機長「おぉ! すごいテクニック!」


機長 「本気出せば、こんなもんよ!」


副機長「だったら、はじめから本気出してくださいよ」


機長 「2万が俺の新たなる能力に火をつけた」


副機長「へぇ……」


機長 「えーい近道だ! このまま領空侵犯してしまえー!」


副機長「いや、ちょっと! やめてよ!」


機長 「今の俺には、対空砲すら止まって見える」


副機長「わかったから、やめて! 普通にして!」



ドーン



機長 「あ……」


副機長「あ……」


機長 「あの……これ……2万4千円」



暗転




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