雪山
藤村 「寒いな……」
吉川 「あぁ、寒いな……」
藤村 「今、すごく面白いダジャレ思いついたんだけど。言っていい?」
吉川 「ダメ」
藤村 「いや、すっごい面白いんだって! プププ」
吉川 「なおさらダメ」
藤村 「言わないと忘れちゃうよ!」
吉川 「藤村。そのダジャレは俺達が無事に麓に戻れたら、聞くと約束しないか?」
藤村 「そ、そうか。そうだな! じゃ、ダジャレに誓って生還するぞ!」
吉川 「ダジャレに誓いを立てた人間なんて、世の中にはそうそういないだろうな」
藤村 「戻ったギネスに申請しよう」
吉川 「いや。ギネスってのは、そういうのダメなんじゃないか?」
藤村 「そうなの?」
吉川 「よく知らないけど、記録とかじゃん」
藤村 「そうか。じゃ、何か記録を作ろう」
吉川 「何かって……」
藤村 「俺、こんなこともあろうと、ドミノ持ってきたんだ」
吉川 「どんなことあろうと思ってたんだ!?」
藤村 「雪山遭難中のドミノ記録でギネス狙おうぜ!」
吉川 「確かに、誰も挑戦しそうにない記録だけど……。あまりにも悲劇的なシュチュエーションに頼りすぎてないか?」
藤村 「でももし、ギネスに載ったらタモリと肩を並べるんだぜ!」
吉川 「並びたいか?タモリと」
藤村 「あ……。でもドミノ4枚しかないや」
吉川 「いったい4枚のドミノでどんなことがあると思ってたんだ」
藤村 「4枚でも、一応記録かなぁ?」
吉川 「さ、さぁ……」
藤村 「一応、倒しておくか。打倒タモリ!」
吉川 「いや、別にタモリは倒さないけど……」
藤村 「あぁっ! しまった。二枚しか倒れなかった」
吉川 「なんで!? なんでたった4枚のドミノを失敗してるの?」
藤村 「タモリの呪いかな?」
吉川 「タモリはそこまで暇じゃないだろ」
藤村 「じゃ、タモリのタタリだ。ほら、なんか韻を踏んでる」
吉川 「いつからタモリにそんなパワーが」
藤村 「そうだ! いいこと考えた!」
吉川 「この遭難から抜け出す方法?」
藤村 「いや、ドミノの!」
吉川 「ドミノで頭がいっぱいか」
藤村 「考えてみればあたり一面雪じゃないか! この雪をドミノ状にして倒せば、タモリも驚くに違いない!」
吉川 「なんでタモリが目的になってるんだ。ギネスじゃないのか」
藤村 「あ、そうだ。ギネスも驚くよ」
吉川 「驚かすのが目的か」
藤村 「よし、さっそくドミノの制作だ!」
吉川 「いや。無駄な体力の消耗は……」
藤村 「どうした! 子供は風の子だろ?」
吉川 「子供じゃないし、そもそも遭難中にかける言葉じゃない」
藤村 「犬は喜び、庭駆け回るんだぞ!」
吉川 「それは何を伝えたいんだ。犬の元気さか?」
藤村 「バカだな。俺が考えもなしにドミノなんてやると思うか?」
吉川 「激しく思うんだけど」
藤村 「違うよ! いいか? ドミノをSOSの形に並べるんだ。そしてそれを倒してみろ! 上空から見たら巨大なSOS。これには捜索隊もビックリ仰天さ!」
吉川 「仰天させないで助けにきて欲しいけど……」
藤村 「どうだ? 俺を信じて!」
吉川 「全然信じられない。どう考えてもSOSなら、雪に直接書いたほうが楽じゃないか」
藤村 「バカだな! それじゃタモリを抜けないだろ?」
吉川 「とうとうタモリ主体になった」
藤村 「俺一人だけ助かっても知らないぞ!」
吉川 「いや、知っててくれ。一緒にここまできたんだから」
藤村 「じゃぁ、俺のこのグッドアイデアにのれ」
吉川 「自分でグッドアイデアって言ってるし……」
藤村 「はぁ……はぁ……」
吉川 「はぁ……はぁ……」
藤村 「吉川……はぁ……これ……はぁはぁ……意外と……身体あったまるな」
吉川 「そ……そうだな……はぁはぁ……」
藤村 「こんなことなら……はぁはぁ……もっと日ごろから……ドミノ並べてればよかったな……」
吉川 「いやいや……はぁはぁ……全然、意味がわからない……」
藤村 「……はぁ……いま、ドミノダイエットっていうのを……考案したんだけど……ダメかな?」
吉川 「……はぁはぁ……ドミノ自体は……別に……そんなに大変じゃないだろ……」
藤村 「そっか……はぁはぁ……じゃ、あれだ……雪山遭難ドミノダイエットはどうだ?」
吉川 「……はぁはぁ……そんなリスクの大きいもの……はぁ……だれもやらないよ……はぁ……」
藤村 「はぁ……じゃ、厚着でドミノダイエット……」
吉川 「もう、厚着ダイエットでいいじゃないか」
藤村 「……はぁはぁ……じゃ、それでいいや」
吉川 「いや……はぁ……それは……はぁ……普通だ」
藤村 「……はぁ……そうか……人生って……簡単にはいかないもんだな……はぁ……」
吉川 「……はぁ……はぁ……こんなもんで……はぁ……どうだ?」
藤村 「当初の予定よりは小さいけど、まぁいいか」
吉川 「当初の予定はどれくらいだったんだ」
藤村 「ちょうどSの下のカーブが麓につく位だ」
吉川 「巨大すぎる。というか、麓までドミノ並べるんだったらSOSの意味がないじゃないか」
藤村 「意味はあるよ! タモリという巨大な壁が」
吉川 「タモリよりも遭難のことを考えてくれ」
藤村 「しかし……タモリのやつ、これを見たら腰抜かすに違いない」
吉川 「いや……タモリがこれを見る状況は、どう考えてもないだろ」
藤村 「よし! 倒すぞ」
吉川 「あぁ……慎重にな」
藤村 「打倒タモリ!」
吉川 「頼むから、生還を願え!」
藤村 「あぁっ!? しまった! また二枚しか倒れなかった」
吉川 「なんだそれは! なんなんだ! 何なんだ貴様!!」
藤村 「あぁ……。記録ならず」
吉川 「何でお前2枚なんだ! おかしいだろ! あれだけ汗かいて、体力消耗して、二枚って! なんなんだ!」
藤村 「そりゃ、思い出作り……」
吉川 「いらないよ! 思い出よりも生き延びることを考えろ! 冥土の土産がドミノ2枚の記録だなんて洒落にならない」
藤村 「そんなに目くじら立てなくても……」
吉川 「お前、深刻なバカか? 死ぬんだぞ? 死ぬかもしれないんだぞ?」
藤村 「だって……」
吉川 「遭難してるの! 死にそうなの! やばいの!」
藤村 「だって……タモリと闘うチャンスなんて、もう一生来ないかもしれないじゃないか!」
吉川 「な、なんで……なんでこんな状況でタモリなんだ」
藤村 「例え助かったとしても、このままじゃタモリに舐められっぱなしだぞ!」
吉川 「お、おい。藤村……大丈夫か?」
藤村 「ここで死んだら、タモリに敗れ死んだものと墓標に刻まれる」
吉川 「刻まれない! 大丈夫だ。頼む、気をしっかりと持ってくれ」
藤村 「俺が……ドミノチャンピオンだー!」
吉川 「わかった。確かにそうだ。だからちょっと休もう!」
藤村 「えーい! ドミノよ! 我が魂をタモリの下へ誘うがよい!」
吉川 「ドミノは誘わない! いつからお前はそんなにタモリの虜になってしまったんだ」
藤村 「お、おい! 吉川! 見ろよ! 倒れてくぞ! ドミノが……ドミノが倒れていくぞ!」
吉川 「本当だ……」
藤村 「やったー! 俺はついにタモリに勝ったんだ!」
吉川 「いや、別に勝ってないぞ」
藤村 「ドミノが……ドミノが……あれ?」
吉川 「あ……」
藤村 「なんか……ドミノ……大きくなってるね」
吉川 「なってるね」
藤村 「あぁ……ぁあ……これ……やばくない?」
吉川 「雪崩だね。確実に雪崩だね」
藤村 「俺、雪崩ってはじめてみた」
吉川 「この規模じゃ……麓の街は壊滅だね」
藤村 「タモリ超えたかな?」
吉川 「うん……ぶっちぎったね」
藤村 「タモリのヤツ、驚くだろうな」
吉川 「そうだな」
藤村 「……そうなんです」
吉川 「え?」
藤村 「いや……面白いダジャレ……」
吉川 「あぁ……遭難で……そうなんです。か」
藤村 「あぁ……」
吉川 「それじゃタモリには勝てないな」
藤村 「寒いな……」
吉川 「あぁ……寒いな……」
暗転
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