告白


吉川 「なんだよ良子、こんなところに呼び出して」


良子 「あ、マイケルジャクソンこと吉川君」


吉川 「いや、別にマイケルジャクソンなんて呼ばれてないけど、吉川です」


良子 「いつもの『フーーッ!』ってヤツやって!」


吉川 「いつものって。そんなのやったこともないけど……。フーーッ!」


良子 「あははは。超似てない」


吉川 「僕はこんな屈辱的なことをさせられる為に呼び出されたのか」


良子 「あのね。実はちょっと、みんなの前では言いづらい話があって」


吉川 「え……」


良子 「私、ずっと前から吉川君のこと……」


吉川 「ええっ!?」


良子 「三田村邦彦に似てると思ってたの!」


吉川 「……え?」


良子 「三田村邦彦、通称クニー」


吉川 「いや、別に通称は知りたくないんだけど。何それ?」


良子 「田村邦彦の三倍の能力を持つ三田村邦彦だよ!」


吉川 「それはよくわからないけど。三田村邦彦って……俳優の?」


良子 「うん」


吉川 「笑っていいともテレホンショッキングで、友達紹介の時、観客からお情けの『えー!』コールを貰っちゃうような。あの?」


良子 「う、うん」


吉川 「ごきげんようとかに出ていて……」


良子 「ストーップ! もうやめて!」


吉川 「……」


良子 「これ以上、クニーの悪口は聞きたくない!」


吉川 「は、はぁ」


良子 「クニーは、私の王子様なの!」


吉川 「王子様」


良子 「そうよ! 白馬に乗ってるの!」


吉川 「へぇ……」


良子 「んもう! 鈍いんだからッ! この鈍感豚!」


吉川 「豚って。そんなひどいこといわれたの初めてだ」


良子 「三田村邦彦=王子様=吉川君。ということは……」


吉川 「それって、もしかして」


良子 「三田村邦彦=鈍感豚よ!」


吉川 「そっちか」


良子 「だからー! もう! 乙女に恥をかかせないで!」


吉川 「えーと。もしかして、良子は僕のことを……」


良子 「……ウン」


吉川 「いや、ははは。ちょっとあまりの展開にびっくりしちゃって」


良子 「……で、返事とかは」


吉川 「あ。えーと、ちょっと時間をくれない?」


良子 「ガビーン! ふられた!」


吉川 「違う! 考える時間が」


良子 「そんなもん、考えるものじゃないわ! もっとこう燃え上がるパッションよ!」


吉川 「別に燃え上がらないし……」


良子 「ほら、こう、ボールが来たらカーンと打つみたいな。好きって言われたら、イエースと答えるとか」


吉川 「随分単純だな」


良子 「返答しだいでは、鋭利な刃物でのど笛を切りさいちゃおっかな☆」


吉川 「全然可愛くない。なんだその具体的な殺意は」


良子 「良子のこと、嫌い?」


吉川 「いや。嫌いじゃないけど……。よく知らないし、というかよくわからない」


良子 「良子の全部を知りたい?」


吉川 「それは怖いから遠慮しとく」


良子 「えー! じゃ、何が知りたい? 前科?」


吉川 「そんなもん知りたくない! というかあるのか? 前科が?」


良子 「それは乙女のヒッミッツッ♪」


吉川 「乙女うんぬんの話じゃないような気がするけど……」


良子 「じゃこうしよう? ゲームで決めよう!」


吉川 「僕の意思は……」


良子 「これから30分間、吉川君は私に見つからないように身を隠す」


吉川 「はぁ」


良子 「もし私が見つけたら、その場で射殺します」


吉川 「いや、ちょっと待ってよ! 射殺って」


良子 「無事逃げ切ったら、付き合ってよ!」


吉川 「やだよ! なんだ、その完璧なまでに不利な条件は」


良子 「えー! なんでー! 男と女のラブゲームだよ」


吉川 「死ぬか付き合うかなんて聞いたことない」


良子 「デッド・オア・ラブだよ」


吉川 「アライブじゃないの?」


良子 「じゃ、わかった。私が逃げる」


吉川 「そういう問題じゃ……」


良子 「どういう問題なのよ! 私にとっては人生の一大事なのよ!」


吉川 「僕にとってもそうだ! 死がかかわってるじゃないか!」


良子 「吉川君がこんなに子供だとは思わなかった」


吉川 「子供とか大人の問題じゃないと思うんだけど……」


良子 「でも、その少年のような心が好きなの」


吉川 「え、えーと……。僕、本当はスゴイ汚い男ですよ」


良子 「そんな……。私に嫌われようとしてる?」


吉川 「いやいや、本当。せこくて、腹黒い」


良子 「主食は……うんこ?」


吉川 「なんでだ! そんなわけないだろ」


良子 「ならよかった。じゃ、大丈夫だ」


吉川 「ものすごく低いハードルだなぁ」


良子 「吉川君……好きな子いるの?」


吉川 「ぉ……いや……」


良子 「いるんだ! 今、口ごもったもん!」


吉川 「いないって」


良子 「いるんだわ! 欧陽オーヤン菲菲フィーフィーが好きなんだわ!」


吉川 「なぜ欧陽オーヤン菲菲フィーフィーが……」


良子 「なんで、あんなフィーフィーに!」


吉川 「別に欧陽オーヤン菲菲フィーフィーは好きじゃありません」


良子 「……本当? 本当に欧陽オーヤン菲菲フィーフィーは好きじゃないの?」


吉川 「なんで欧陽オーヤン菲菲フィーフィーに固執するんだ」


良子 「欧陽オーヤン菲菲フィーフィー以外に好きな子がいるのね!」


吉川 「いません。欧陽オーヤン菲菲フィーフィーも好きじゃないし、他にも好きな子はいません」


良子 「本当?」


吉川 「本当です」


良子 「安心した。あやうく欧陽オーヤン菲菲フィーフィーが明日の新聞に載るところだったよ」


吉川 「いったい菲菲フィーフィーに何をするつもりだったんだ……」


良子 「じゃ、何がダメなの?鼻毛が出ているのが嫌だったら、ちゃんと切るから!」


吉川 「それはちゃんと切った方がいいな」


良子 「吉川君が望むなら、組織も抜ける!」


吉川 「いったいなんの組織に所属してるんだ」


良子 「酒もタバコも女もやめる!」


吉川 「いやいや、女をやめられちゃ余計困る」


良子 「え……。それってOKってこと?」


吉川 「あ、ちがっ……」


良子 「うれしー! 英語で言うとウレC!」


吉川 「全然英語じゃない」


良子 「私、吉川君にもっと好きになってもらえるように頑張る」


吉川 「……はぁ。なんかスゴイ無理矢理押し切られちゃった気が……」


良子 「これからもよろしくお願いしマッスル☆」


吉川 「マッスル。いや、はい。こちらこそ……」


良子 「本当の事言うとね……」


吉川 「うん」


良子 「あ……。やっぱいい! これ言うと、やっぱりダメとか言われそうだから」


吉川 「ダメって言っても聞かないくせに……」


良子 「怒らない?」


吉川 「多分怒らないと思うよ」


良子 「三田村邦彦に似てるって言うの、あれ嘘なんだ!」


吉川 「……心底、どうでもいい」


良子 「本当はね……マイケルジャクソンに……」


吉川 「うるさいッ!」



暗転

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