ハイジャック
乗務員「それでは、ごゆっくりと空の旅をお楽しみください」
吉川 「ちょっと待った!」
乗務員「はい? なんでしょう?」
吉川 「あいにくだが、ごゆっくりと空の旅をお楽しみしていただくわけはいかない」
乗務員「えぇっ!? もしかして……」
吉川 「ハイジャックだ!」
乗務員「どうしましょ。皆さん! ハイジャックが出ました! 急いで空の旅をお楽しみください!」
吉川 「待て待て待て! お楽しみの速度に文句をつけてるわけじゃない」
乗務員「あ、すみません。気が動転して。ごゆっくりと……海の旅?」
吉川 「違う! 場所でもない!」
乗務員「あぁ、伊豆の旅? 二泊三日?」
吉川 「違うだろ! ハイジャックだ! 旅を楽しむとかナシなの!」
乗務員「あぁあああ。私ったら。みなさん、ごゆっくりと空の旅をお苦しみ下さい」
吉川 「お前がそんな事言うな。みんな絶望しちゃうだろ」
乗務員「えーと。残りの短い人生をお楽しみください」
吉川 「ひどい事言うな! 別に殺さない」
乗務員「あぁ……。もうパニックで。ど、どうしたら」
吉川 「とりあえず、乗客を落ち着かせろ」
乗務員「み、みなさん! ハイジャックが出ました! もう死んだも同然。今更、悪あがきはしないで下さい!」
吉川 「おいおいおい。ダメでしょ! それ言っちゃダメでしょ!」
乗務員「はい、そこのジジイ! 動かない! フリーズ! 撃ち殺すぞ!」
吉川 「いや、俺は撃ち殺さないよ? やだよ?」
乗務員「死にたい奴から前に出ろ!」
吉川 「殺す気ないから! やめて!」
乗務員「一言でもしゃべった奴には鉛の弾をぶち込んでやる!」
吉川 「そんな。落ち着いてください」
乗務員「静まりやしたが、どうしましょう? 兄貴」
吉川 「別に兄貴になった覚えはないし。やしたって……」
乗務員「とりあえず、D-12番に座ってる奴が気に食わないんで見せしめに殺っちゃいますか?」
吉川 「しないよ! 見せしめない! しかも気に食わないって……そんな個人的な」
乗務員「パラシュートなしでダイビングしてもらいますか?」
吉川 「なんて物騒な……」
乗務員「私、一度、風呂敷で飛ぶ人みてみたかったの!」
吉川 「ハットリ君じゃん」
乗務員「おい! 今そこ! 私語したな……。起立!」
吉川 「いや、ちょっとくらいしゃべっても……」
乗務員「なぁ、お姉ちゃん。今どういう状況だかわかってんの?」
吉川 「可哀想だよ。泣いてるじゃん」
乗務員「泣きゃ許されると思ってる根性がまず気に食わない」
吉川 「なんであなたはそんなに気丈なの?」
乗務員「そりゃ客室乗務員ですから。機上です」
吉川 「……」
乗務員「おい! 今笑わなかった奴ら、全員起立!」
吉川 「いや、それはどうかと……」
乗務員「こっちは空気和ませようと気使ってやってんのに、なんだお前ら?」
吉川 「この空気作ったのはあなたじゃ……」
乗務員「面白くない? おい、そこの坊主! 面白くないか? あん?」
吉川 「みんな面白かったって! 笑いこらえてたんだよ!」
乗務員「お前は黙ってろ」
吉川 「……はい」
乗務員「じゃ、お前らにラストチャンスを与えてやる」
吉川 「ラストって……」
乗務員「今から、とびっきりのジョークを言います」
吉川 「み、みんな! 笑うんだ!」
乗務員「あるパイロットが、貧乏なサラリーマンにこう言ったんだ」
吉川 「パイロットジョークだ……」
乗務員「お前はいいよなぁ。俺も地に足つけた仕事がしたいぜ! ってね」
吉川 「……」
乗務員「……」
乗客 「……」
乗務員「はい、皆殺し!」
吉川 「いや、ちょっと待って! はははは! 面白ーい! あはは。ちょっと考えちゃったよ。あはは」
乗務員「あなたがやらないなら、私がやる! 銃を貸して」
吉川 「いや。ほら! みんな笑ってるじゃないか! あはははは。あーお腹痛い」
乗務員「それでは、ご好評にお答えしてー、第二弾!」
吉川 「いや、お答えしなくていいです。みんな和んだし」
乗務員「実は次の方が自信作なの」
吉川 「あ、じゃぁこうしよう。それは後の楽しみに取っておこうぜ」
乗務員「そう。残念ね」
吉川 「いやぁ。楽しみが増えちゃった! ははは……」
乗務員「はい、そこっ! 今『つまんね』って言っただろ!」
吉川 「いや、言ってないよ! 多分言ってない! 空耳空耳!」
乗務員「あんたはうるさい! 黙って銃を貸す! ほら!」
吉川 「いや、これ貸したらそれこそ大惨事に……」
乗務員「うるっさいわね! 打ち殺されたいかッ!」
吉川 「ハイ! すみませんでした。どうぞ」
乗務員「……」
吉川 「……へ……へへ……」
乗務員「は~い、みなさんご安心下さい。ハイジャックは投降しました」
吉川 「えっ!? ず、ずりぃ~!」
乗務員「ずるいも何もないです。みなさまに安全な空の旅をしていただくのが、私達、客室乗務員の勤めですから」
吉川 「く、くそぅ……。無念」
乗務員「それでは、ご好評いただきましたジョークの第二弾ですが」
吉川 「それは言うんだ」
乗務員「快適な旅になるかは……皆様次第です」
吉川 「脅しだ。完璧なる脅しだ」
乗務員「みなさま、ごゆっくりと空の旅をお楽しみください。フフッ……」
暗転
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