発明
博士 「吉川くん! 史上最大、空前絶後の大発明じゃ!」
吉川 「いったい何を作ったんですか?」
博士 「ウフフフフ……。教えなーい」
吉川 「そうですか」
博士 「わぁ、そっけね! 食パンくらいそっけね!」
吉川 「食パンくらいって言うのがわからないですが、そっけなくないですよ」
博士 「ねね、聞きたい? 聞きたい聞きたい病?」
吉川 「いいですよ別に。そんな奇病じゃないし」
博士 「本当は聞きたいくせに……」
吉川 「いや、本当にいいです。昼飯食ってきていいですか?」
博士 「うわぁ。そっけね! サンドイッチ用食パンくらいそっけね!」
吉川 「別にそっけなくないですよ」
博士 「ねぇ、聞いてくれる?」
吉川 「言いたいんでしょ?」
博士 「……うん」
吉川 「なんですか、博士?」
博士 「そんなに聞きたいなら、特別に教えて差し上げよう」
吉川 「その前に、昼飯食ってきていいですか?」
博士 「待ってよぉ! お願いします。聞いて! 超スゴイからぁ!」
吉川 「はいはい、なんでしょう? 大発明はなんですかー?」
博士 「うん、すごいんだよ。これね。ロボット」
吉川 「へぇ……。さて、昼飯食ってきていいですか?」
博士 「違うの! まだ、すごいところまでいってないの!」
吉川 「いや、すごいと思いますよ。ロボット。よく頑張りましたね。じゃ、昼飯いってきます」
博士 「吉川ちゃ~ん! いじわるしないで、もっと聞いてよぉ!」
吉川 「なんですか、もう」
博士 「これね、新しいのよ。ウフフ……。すごい新技術いれちゃった!」
吉川 「博士、手短にお願いしますね」
博士 「吉川ちゃんのその目、あんまり好きじゃないな~」
吉川 「別に好かれなくても結構です」
博士 「うんとね、人工声帯。人工声帯がついてるの!」
吉川 「へぇ……。それはちょっとすごいですね」
博士 「でしょでしょ? すごいでしょ?」
吉川 「ということは?」
博士 「今までのロボットは所詮電子的に作られた声だったが、このロボは自分の声で喋るんだ!」
吉川 「……で、なんの役に立つんですか?」
博士 「なんのって! スゴイ色々役に立つじゃない!」
吉川 「例えば?」
博士 「例えばって……。じゃ、これ聞いてよ! 腰抜かすから!」
ロボ 「ア~バヨ~! 銭形のとっつぁ~ん!」
博士 「……どう?」
吉川 「どうって言われても。」
博士 「クリカンのモノマネ! すごいでしょ? 史上初! ロボのモノマネ!」
吉川 「史上初をクリカンで果たしちゃったか。他になかったんですかね」
博士 「なんで感動しないの!? 違うんだよ! 音声じゃなくて、声でモノマネしてるの!」
吉川 「いや、すごいって言うか。そもそも、似てませんよ」
博士 「そりゃそうだよ。人工声帯だもん、頑張っても限界があるよ」
吉川 「だったら、音声の方がいいじゃないですか。クリカンの」
博士 「君は視野が狭いなぁ。別にワシはクリカンのために人工声帯を作ったわけじゃないんだ」
吉川 「山田康雄ですか?」
博士 「ちがーう! モノマネはこのロボの特徴の一つに過ぎない」
吉川 「そりゃ、これがすべてだったらリアクションに困るところでした」
博士 「いいか? 今、音楽業界は混迷を極めている」
吉川 「突然、何を言い出すんですか?」
博士 「音と言うのはすなわち音波だ。デジタルに変換できるものなのだよ」
吉川 「はぁ……」
博士 「ならば!」
吉川 「うるさい。そんな大声じゃなくても聞こえてます」
博士 「人間にとって最高の歌声と言うものも、デジタルで解釈できるわけだ」
吉川 「その辺り、結構強引ですね」
博士 「しかし例え最高の歌声というのを解析できたとしても、それを出力するものがない」
吉川 「いや、デジタルで何とかなるんじゃないですかね」
博士 「ならないの! ダメなの! デジタルだと……なんかいやなの!」
吉川 「いやなのって、突然駄々こねられても」
博士 「そこでこれじゃ! 」
吉川 「はぁ……。長い前フリでしたね」
博士 「そこで、ワシは長年の研究につぐ研究でついにたどり着いたのじゃ!」
吉川 「そんなこと研究してたんですか?」
博士 「コッソリしてたんじゃ」
吉川 「なんでコソコソしてるんだ……」
博士 「ジャババーン! そしてこれが最高の歌声を出す人工声帯なのじゃぁ!」
吉川 「今、ジャババーンって言いましたね。ジャジャーンて言おうかババーンて言おうか迷ったんでしょ?」
博士 「うるさいなぁ!」
吉川 「別に、ジャジャーンでもババーンでもどうでもいいのに」
博士 「だったら、いちいち指摘しないでよ! 恥ずかしいなぁ」
吉川 「だって、ジャババーンて……肝心なところなのに」
博士 「いいじゃんか! もう、そんな事言うと人工声帯のすごいところ見せないよ?」
吉川 「じゃ、昼飯行って来ます」
博士 「嘘嘘! 見せる! 見てって! お願い!」
吉川 「見せたいんだったら、とっとと見せてください」
博士 「……もう! この発明のすごさが全然わかってないよ」
吉川 「最高の歌声なんでしょ?」
博士 「そうだよ!」
吉川 「さっきのも?」
博士 「え?」
吉川 「クリカン」
博士 「……そうだよ。最高のクリカンだよ」
吉川 「いや、全然似てなかったけど」
博士 「違うの! そういう意味じゃなくて、最高の歌声をもつ声でのクリカンだよ」
吉川 「なんかものすごい最高を無駄遣いしてますね」
博士 「いいじゃんか! 別に減らないんだから」
吉川 「クリカンもいい迷惑だ」
博士 「別にクリカンには迷惑かけてないよ!」
吉川 「まぁ。そうですけど」
博士 「で、とりあえずこの人工声帯で歌を歌わせてみる! するとどうだろう? 世界中の人が歓喜に咽び、もう色々とスゴイ騒ぎになるって寸法さ」
吉川 「クリカンの時点では、別に歓喜に咽ばなかったですが……」
博士 「だから! コイツの本領は歌なの!」
吉川 「へぇ……。じゃ、早く聞かせてください」
博士 「聞きたい?」
吉川 「いや、別に」
博士 「本当にそっけないなぁ……。絹ごし豆腐くらいそっけない」
吉川 「それはもういいから」
博士 「じゃ、いよいよお披露目じゃ。史上最高の歌声をとくと聞くがいい!」
吉川 「……」
ロボ 「……ボンパッ! ボンボボンパッ! ボンパッ! ボンボボンパッ!」
吉川 「……」
博士 「どうじゃ! 最高の歌声での……ボイパ!」
吉川 「昼飯行って来ます」
博士 「いってらっしゃい」
ロボ 「……ボンパッ! ボンボボンパッ!」
暗転
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