奥義
吉川 「師匠! いったい、いつになったら奥義を伝授してもらえるのですか!?」
師匠 「フッ……。もしお前がワシに一太刀でも入れられることができたら、その時は」
吉川 「たぁ!」
師匠 「ってぇ! いてぇなぁ。なにすんだよ!」
吉川 「え……だって」
師匠 「まだでしょ! まだスタートって言ってないじゃん! 反則だよもう!」
吉川 「えぇ。そ、そんなぁ」
師匠 「なに考えてるの? 真剣だったら切れてるところだよ。危ないなぁ」
吉川 「なんか、逆ギレしてます?」
師匠 「してねーよ! なんだよ本当に! あ~ぁ、本当は後で教えようと思ったのにさー。こんなことするんじゃ、もうやーめた」
吉川 「えー! だって自分で……」
師匠 「ほら、見てよコレ。あざになっちゃったじゃんか! もうね、この年になると治りが遅いんだから、こういうのとか残っちゃうんだよ? あぁ、これで当分背中の開いたドレス着れないじゃん!」
吉川 「いや、背中の開いたドレスは着なくていいかと」
師匠 「じゃ、パーティーとかいく時どうすんだよ! 壁の花になれとでも言うの!?」
吉川 「はぁ、そう言うもんなんですか」
師匠 「あーもうっ。今日はもう気が乗らない。やーめた。もう寝よ寝よ」
吉川 「えぇ」
師匠 「あー疲れた! 肩揉んで! 揉んで!」
吉川 「はぁ、わかりました。それでは失礼して」
師匠 「隙ありっ!」
吉川 「わっ、あぶなっ! なにするんですか!」
師匠 「っんだよ。なんでよけるわけ? 信じらんない」
吉川 「いや、よけるって。そりゃよけますよ」
師匠 「あーもうっ! 余計ストレス貯まっちゃったよ。普通こういうのは、お互いにやられてすっきりするもんじゃん!」
吉川 「仕返しか。性格暗いなぁ」
師匠 「それなのにさ、よけたりして。本当に反省してんの?」
吉川 「いや、反省って言われても」
師匠 「普通、反省してたら積極的に当たりに来るもんだよ」
吉川 「えぇ。やだなぁ、そんな反省のしかた」
師匠 「はい、早く肩揉んで!」
吉川 「待って。絶対狙ってるじゃん、やだよぉ」
師匠 「え? なに? 師匠の肩揉むのいやなの? あっそう。じゃ、破門ね。バイバーイ」
吉川 「それはパワハラっすよ。わかりました。揉みますよ。はい、失礼します」
師匠 「隙ありすぎっ!」
吉川 「ちょっあぶっ! なにそれ、真剣じゃん!」
師匠 「……またよけた」
吉川 「よけますよ! 真剣じゃん! 死んじゃうじゃん!」
師匠 「だって3倍返しだもん」
吉川 「だもん。って意味わからない。なんで殺そうとしてるの?」
師匠 「ちょっとしたジョークだよ。ブラックジョーク」
吉川 「ブラックにも程がある。真っ黒過ぎだ。死んだらどうするんだ」
師匠 「ちゃんと埋めるから」
吉川 「うわぁ、隠蔽する気だ。こわぁ」
師匠 「平気、平気、ばれないよ。あとニ、三人増えたところで」
吉川 「え? なに? なになに? もうすでに前科あり?」
師匠 「ジョークでーす! てへ」
吉川 「本当にジョークなのか。にわかには信じがたい」
師匠 「もう、そんなに怖がらないでよぉ。吉川ちゃぁ~ん」
吉川 「急に猫なで声だ。もう、なにも信じられない」
師匠 「わかった。じゃ、奥義教えちゃうから。特別に」
吉川 「いえ、結構です」
師匠 「なに? 吉川ちゃん、スネちゃったの?」
吉川 「いや、スネるとかじゃなくて、身の危険を感じてるだけですよ」
師匠 「剣の道に危険はつきものじゃ」
吉川 「なにそれ? 急に真顔になって。いままで『じゃ』なんてつけてなかったくせに」
師匠 「奥義要らないんだったら、別にそれでもいいけどさー。ワシは困らないもん」
吉川 「くっ、汚い手を使うなぁ。モラハラですよそれ」
師匠 「どうする? あー、あんまりモタモタしてると、また気が変わっちゃうかもなー」
吉川 「わかりました。言うこと聞きます。なんでしょ?」
師匠 「じゃ、まず絶対よけないって約束して」
吉川 「やですよ。そんな約束」
師匠 「約束も守れんようないい加減なやつに奥義は継承させられんな」
吉川 「急に師匠モードになりやがって……。わかりました。約束します。 でも、その前に師匠も真剣を使わないって約束してください」
師匠 「えー。それちょっと悩むなぁ」
吉川 「悩むなよ! 殺す気バリバリじゃない。やめさせてもらいます。さよなら」
師匠 「嘘。わかった。約束する。真剣以外の鋭利な刃物はOK?」
吉川 「OKなわけないじゃないですか。殺さないと約束してください」
師匠 「ちょっと待って。一晩考えさせて」
吉川 「考えなきゃいけないこと? もう考えてるって時点でおかしいのよ」
師匠 「しょうがないなぁ。じゃ、約束すればいいんでしょ!」
吉川 「はい、では煮るなり焼くなりご自由に」
師匠 「じゃ、焼きます」
吉川 「待った待った! 違うでしょ。いきなり焼いちゃダメでしょ」
師匠 「ダメなの!? だって今、自分で……」
吉川 「なにビックリした顔してんの! こっちがビックリだよ。それは言葉のあや」
師匠 「吉川ちゃんは、難しい年頃だなぁ」
吉川 「年頃のせいじゃないです。誰だっていやです」
師匠 「じゃ、まず服を脱いでもらおうか」
吉川 「なんか変なこと考えてないでしょうね?」
師匠 「変じゃないよ。みんなやってるよ」
吉川 「もう本当につきあってられません。失礼します」
師匠 「だから違うって! 変なことしないって! 違うの! ただ、吉川ちゃんのスキャンダラスな写真を撮って弱みを握ろうとしただけなの」
吉川 「セクハラですよ。もうハラスメントのフルハウスですよ」
師匠 「違うってぇ! まってよぉ、本当に違うんだから 」
吉川 「変態」
師匠 「違うってぇええ! 信じてよぉ! 何でも言うこと聞くからぁ!」
吉川 「なんでも? じゃ、服を脱いでください」
師匠 「グスン。脱いだら信じる? 本当?」
吉川 「信じますよ」
師匠 「……クスン。わかった。……しくしく」
吉川 「パシャッ! 師匠のスキャンダラスショットいただきっ!」
師匠 「あっ! きたね! きたねーぞ!」
吉川 「さぁ、これで形成逆転ですね」
師匠 「うぅ、堪忍してください」
吉川 「この写真どうしちゃおうっかなぁ」
師匠 「故郷の母さんが泣くからやめてー!」
吉川 「じゃ、奥義を継承してください」
師匠 「奥義はすでにその手の中に……」
吉川 「えっ? この写真!? このスキャンダラスショットがっ?」
師匠 「そのスキャンダラスショットはただの私の恥部だ」
吉川 「まさか、この写真に謎が隠されて」
師匠 「違うんよ。その非常に言いにくいんだけど。うちの奥義ってこうやって口八丁手八丁で相手の弱みを握って最終的に勝つって言う、大胆且つ斬新な手段をとってまして」
吉川 「はっ!? まさか、私は知らず知らずの間に」
師匠 「そうだ。あっぱれだ」
吉川 「あ、復活した」
師匠 「よくやったな。もうお前に教えることはない」
吉川 「師匠」
師匠 「うむうむ」
吉川 「こんなくだらないことを」
師匠 「この奥義は一子相伝じゃ。誰か他のものに伝えるまで、お前が次の師匠じゃ!」
吉川 「えー。やだやだやだ」
師匠 「わしはもうただの一般人。それじゃ、がんばれよー!」
吉川 「あ、待ってー! 師匠ー! やだよぉおお! なんだ、この罰ゲームのような奥義は」
雑踏
吉川「あ、すみません、奥義要りません? あ、すみません、忙しいですか? 今なら奥義を。 あ、奥義、奥義要りませんか? 奥義要りませんかぁー……」
暗転
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