戦闘員1

戦闘員 「イーーッらっしゃいませ」


吉川  「わぁ、ビックリした!」


戦闘員 「イーーーッ!」


吉川  「イーって……。あの、悪役の人ですよね? ヒーローモノの」


戦闘員 「イーッ!」


吉川  「なんで、深夜のコンビニのレジに、戦闘員が……」


戦闘員 「イーーッろいろありまして……」


吉川  「あ、イーーッて言う決まりなんですね。さかなクンのギョみたいだ」


戦闘員 「いいえ、別に普通に喋れます」


吉川  「あ、喋れるんだ。なんだったんだ。煩わしいイーは」


戦闘員 「ただ、普通に喋るとねぇ。キャラ的に弱いかなぁ? って」


吉川  「そんなことないですよ。個性的なメイクだもん。衣装も奇抜だし」


戦闘員 「あぁ、この服ね、寒いんだよねぇ。薄いし」


吉川  「寒そうですね」


戦闘員 「一応、冬服なんだけどね」


吉川 「あ、あるんですか、一応」

 

戦闘員 「つってもあれだよ? 夏服は半袖なだけだよ。生地は一緒」


吉川  「あぁ。そうなんだ」


戦闘員 「冬服は首のところまであるんだけど、これがまた化繊だからチクチクするんだよね。もう戦闘どころじゃないっての」


吉川  「色々大変なんですね。……ところで、なんでコンビニのレジに?」


戦闘員 「なんでって、バイトだよ?」


吉川  「バイトなんすか?」


戦闘員 「社員に見える?」


吉川  「いや、そういう意味じゃなくて。あの……悪事とかは?」


戦闘員 「いくら悪の秘密結社だからって、年がら年中、悪いことしてるわけじゃないよ」


吉川  「あ、そうなんだ」


戦闘員 「悪い事するのも元手がかかるしねぇ」


吉川  「それで、バイトを」


戦闘員 「そう。俺たち下っ端はだいたいバイトだよ。運営資金調達のために」


吉川  「でも、どうせ悪い事するんだったら、強盗とかそういうので稼げば?」


戦闘員 「バカ! そんなことしたら警察につかまっちゃうじゃんか」


吉川  「え!? やっぱり捕まっちゃうもんなんですか?」


戦闘員 「当たり前だよ。日本は法治国家だもん」


吉川  「じゃ、悪いことってのは?」


戦闘員 「だから、そういうのは、法に触れない程度にギリギリの悪事だよ」


吉川  「えー」


戦闘員 「だって、ヒーローが来る前に警察に捕まっちゃったらカッチョ悪いだろ」


吉川  「そうだけど。なんか、夢が壊されたなぁ……」


戦闘員 「夢だけで食えたら、俺だってこんなしがない戦闘員やってないっつーの。 もっと、強い怪人とかになるもん」


吉川  「怪人とかは何してるんですか?」


戦闘員 「上の人のことは知らないよ。どうせ接待ゴルフとかしてるんじゃないの?」


吉川  「うわぁ…切ないですね」


戦闘員 「俺こう見えてもね、大学でてるんだよ」


吉川  「わぁ。普通の人なんだ」


戦闘員 「だけどさぁ、バク転ができなくてね。だから下っ端」


吉川  「あ、そう言う基準があるんですか?」


戦闘員 「今度の怪人のヤマアメフラシなんて、中卒だぜ? やんなっちゃうよ」


吉川  「ヤマアメフラシって時点で弱そうですね」


戦闘員 「ダメっぽいだろ? 俺の予想だともって7分ってとこだね」


吉川  「いいんですか? そんなこと言って」


戦闘員 「あはは。ぶっちゃけちゃった。こんなこと言ったのバレたらまた水の中に落ちる役になっちゃうよ」


吉川  「この季節つらそうですね」


戦闘員 「ツライよー! まぁほら、一応うちらの敵のさ、ヨゴレンジャー? あの人たち、すっごい良い人だから。そう言うところ結構、気を使ってもらってるんだけどね」


吉川  「気使ってるんだ」


戦闘員 「ほら、まぁある意味仕事仲間であるわけだから」


吉川  「戦闘員さんも、良い人っぽいですけどねぇ」


戦闘員 「よせよぉ! 俺なんか悪の秘密結社の戦闘員だぜ? そりゃ社内では仏のセンさんで通ってるけどさぁ」


吉川  「仏のって、いまどき聞かないフレーズですね」


戦闘員 「まぁ、悪に魂は売ったけどさ。その分、純粋になったって言うかね」


吉川  「いっそのこと、正義とかやってみたらどうです?」


戦闘員 「おいおい、そりゃねーぜ。たとえ落ちぶれても、俺は悪一筋でやってきてるわけだから。それはキミ、逆に失礼だぞ」


吉川  「あ、すみません。気を悪くされました?」


戦闘員 「いや。まぁ、いいってことよ。でもな、コレだけは覚えておいてくれよな。 俺たち悪がこうして地道に頑張ってるからこそ、正義がより輝くわけだ」


吉川  「わぁ。なんか、良いこと言ってますね」


戦闘員 「はっはっは、ちょっとカッコつけすぎちゃったかな」


吉川  「じゃ、お仕事の邪魔しちゃ悪いんで。この辺で、悪がんばってください」


戦闘員 「おう! お前もがんばれよぉ!」


吉川  「それでは、失礼しまーす」


戦闘員 「ふぅ……。今日も一人の青年を正義の道へといざなってしまったなぁ。 ん? あ、お客さん! 御会計ッ! ちくしょう、やられた。アイツ、とんでもない悪だなっ!」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る