スノーボード

吉川 「こんな上の方まで来ちゃって大丈夫ですかね?」


藤村 「俺は大丈夫だけど、お前初心者だよな」


吉川 「スキーは結構やってたんですけど、ボードはまだ2回目ですよ」


藤村 「スキーやってたんなら平気だって。ボードなんてしょせんクリープの入ってないスキーみたいなもんだから」


吉川 「スキーには始めからクリープは入ってませんが……」


藤村 「言葉のあやだよ。なんていうかな、板のないスキーみたいなもん?」


吉川 「それはただの登山客じゃないですか」


藤村 「ボードなんて、登山客みたいなもんだ」


吉川 「断言しちゃいましたね」


藤村 「あっ! しまった! またやっちゃったよぉ!」


吉川 「どうしたんですか?」


藤村 「いや、ちょっとウッカリしちゃって……」


吉川 「ウッカリして?」


藤村 「ボードの変わりに、ビート板持ってきちゃった」


吉川 「いやいやいや。ちょっとのウッカリじゃないでしょ! 何しにきたんですか」


藤村 「登山だよ?」


吉川 「えぇ~! 開き直ってる。さっきの脱線を上手く活かし切って開き直ってる!」


藤村 「どうりで、軽いと思ったんだ」


吉川 「普通、気がつくでしょ。というか、なんでビート板を持ち歩いてるんですか」


藤村 「今日の乙女座のラッキーアイテムだったから」


吉川 「その占いもとんでもないものをラッキーアイテムに任命するな」


藤村 「でも、これで俺のラッキーは約束されたわけだ」


吉川 「全然ラッキーじゃないじゃないですか。ボードやりに来てただ登山してるだけじゃ、アンラッキーも甚だしいですよ」


藤村 「まぁ、その辺は乙女座は11位だったし」


吉川 「占いを盲信しすぎですよ」


藤村 「しかし、これどうしよう?」


吉川 「さっき、また。って言ってましたけど、前にもビート板持ってきたんですか?」


藤村 「いや、前に間違えて持ってきたのは、相撲ボード」


吉川 「なんですか、その相撲ボードって」


藤村 「ほら、あれだよ。相撲の行事が持ってる。残った残った! って振るやつ」


吉川 「あれ、相撲ボードっていうんですか!?」


藤村 「いや、知らないけど。俺が命名したから」


吉川 「絶対違いますよ! なんで国技なのにボードとか英語使っちゃってるんですか。絶対違う。なんて言うかは知らないけど、少なくとも相撲ボードじゃない!」


藤村 「そう言われたら間違えた俺の立場がなくなる」


吉川 「最初からないでしょ! なに、相撲ボードって!」


藤村 「いや、ウッカリ間違えて」


吉川 「絶対ウッカリじゃないよ。作為的だよ。駄洒落だもん」


藤村 「いや、たまたまその日のラッキーアイテムだったんだよ」


吉川 「相撲ボードが?」


藤村 「相撲の行司が持ってる軍配」


吉川 「それだ! 軍配! ……って知ってるんじゃないですか、名前」


藤村 「知ってるよ。知らなかったのはお前だろ?」


吉川 「いや、そうだけど相撲ボードって言ったのはなんだったんだ」


藤村 「それはほら。話をよりユーモラスにするための調味料だよ」


吉川 「味付けが特殊すぎるんですよ」


藤村 「最初からボードと軍配間違えた! じゃ盛りあがらないだろ?  だいたいそんなのはただのバカだ」


吉川 「いや、実際間違えたんじゃないですか」


藤村 「だから間違えたなりにも、ユーモアとウィットに富んだアメリカンジョークとしてだな」


吉川 「アメリカンジョークだったんですか」


藤村 「その通りさ、ところでその後にサマンサったらなんて言ったと思うかい?」


吉川 「無理やり口調が変わったじゃないですか。」


藤村 「あなたも大きくしてもらったらいいんじゃない? だってさ。ハッハッハ」


吉川 「いや、いきなりオチだけ言われても、だいたい読めますけど」


藤村 「サマンサのやつ、ぶち殺してやる! これは戦争だ」


吉川 「すごい殺伐とした展開だ。全然ジョークっぽくない」


藤村 「サマンサは丁寧に呼ぶとサマンサ様で、言い難いぜディスイズ!」


吉川 「もうわかりました。全然アメリカンじゃない。なんだ、様って」


藤村 「というわけで、その後俺は軍配に乗ってゲレンデにシュプールを描いたんだ」


吉川 「あ。戻った。と言うか、軍配で!? 乗ったの!?」


藤村 「まぁ俺くらいの腕になれば、平べったければ軍配だろうとスノーボードだろうと軽く乗りこなすよ」


吉川 「だろうとって、スノーボードは普通じゃないですか」


藤村 「だから今日もこのビート板で行くぜ!」


吉川 「本気ですか!?」


藤村 「おうおう、波が俺を呼んでるぜ、カモン! ビッグウェーブ!」


吉川 「いや、雪山ですよ。根本的に間違えてますよ」


藤村 「この俺の華麗なライディングにビーチのあの娘もくびったけ」


吉川 「ビーチってどこですか。ものすごい雪山の上の方まで来てるんですが」


藤村 「お前は発想が貧困だなぁ。もっとグローバルな視野で物事をとらえろ」


吉川 「いくらグローバルに考えても、こんな雪山でビッグウェーブは来ませんよ」


藤村 「うるさい! このガチャピンかぶれがっ!」


吉川 「なんですか、その意味不明の罵倒は」


藤村 「スノーボードなんてチャラチャラしたもん乗りやがって、そんなにガチャピンのマネしたいか!」


吉川 「いや、全然ガチャピンのマネなんかしてませんよ。意識すらしなかった」


藤村 「これからはな、雪山でビート板の時代だ。そういう波が来るんだ」


吉川 「あ、時代の波とかけたのか。上手いんだか良くわからないけど」


藤村 「よぉし、いい波だ! 人は俺のことをビッグウェーブに乗ったモーゼと呼ぶ!」


吉川 「モーゼは海をパックリ開いちゃった人でしょ。間違えてますよ」


藤村 「見よ、この華麗なる腰の動き。そして猪木の顔真似!」


吉川 「顔マネは関係ないじゃないですか」


藤村 「うぉおお、カモーンビッグウェーブ! 稲川淳二!」


吉川 「稲村ジェーンのことか」


ゴゴゴゴゴ……


吉川 「うわっ、雪崩だ! 先輩がおかしな事を言うから!」


藤村 「のってけのってけのってけて……ごぼぼぼぼぼ」


吉川 「わぁ、嬉しそうに踊りながらあっけなくのまれた。……せんぱ……ごぼぼぼぼ」



暗転


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