戦場のファッション
吉川 「ジョニー! もう少しだ。あと2km南下すれば、味方のキャンプがあるはずだ」
ジョニー 「ダメだ。足が……もう歩けない。お前一人で行ってくれ」
吉川 「バカやろう、ここでお前をおいて行ってみろ、たとえ生きて帰れたとしても、お前の嫁さんに殺されちまうぜ」
ジョニー 「ははは……。確かにそうだ」
吉川 「足の具合はどうだ?」
ジョニー 「正直、だいぶひどいな。見てくれ」
吉川 「こ、これは!?」
ジョニー 「あぁ、外反母趾だ」
吉川 「足の怪我って……もしかして、これ?」
ジョニー 「ひどいもんだろ? おまけに踵は角質化してコチコチだ」
吉川 「なになに? お前の外反母趾のために、俺は10kmもお前を担いできたわけ?」
ジョニー 「そんなに気を落とすなよ……」
吉川 「気を落とすなって。なんでよ! んもう! 外反母趾だったの! すごい釈然としない」
ジョニー 「外反母趾をなめるなよ? 今お前は多くの戦うOLを敵に回したぞ」
吉川 「その前に周りはもう敵だらけだよ」
ジョニー 「冷静になれ、吉川。戦場では冷静さを失ったものから死んで行く」
吉川 「くっ、お前のせいなのに……」
ジョニー 「しかし、この足じゃ……。こんなことならハイヒールなんて履いて来るんじゃなかったぜ」
吉川 「ハイヒールで来たの!?」
ジョニー 「だって、いつファッションチェックされるかわからないだろ!」
吉川 「されないよっ! ここ、戦場だよ? 戦争してるんだよ?」
ジョニー 「だから、ちゃんとカーキ色のヒールだよ。コーディネートもバッチリだよ」
吉川 「そう言う問題じゃない。色じゃないよ!」
ジョニー 「素材?」
吉川 「素材でもない! ハイヒールはおかしいだろ!」
ジョニー 「おしゃれの基本は足元からだぞ?」
吉川 「根本的に論点が違う」
ジョニー 「じゃ、おしゃれの基本はどこだよ?」
吉川 「いやいや、おしゃれの基本はもういい。違う。そうじゃない。おしゃれとかどうでもいい」
ジョニー 「はぁ……。今の発言、世界中のファッショニスタを敵に回したぞ?」
吉川 「ファッショニスタとかじゃなくて、ここは戦場なんだから、生き残ることでしょ?」
ジョニー 「そんなこと、今更言われなくても知ってるよ」
吉川 「本当か! 本当に知ってるのか! じゃ、なんでハイヒールなんだ!」
ジョニー 「はは~ん、俺があんまりにも決まってるから嫉妬してるのか?」
吉川 「ちがーう! そうじゃなくて、動き易い靴とかあるだろ」
ジョニー 「あぁ、そういうことか。お前の言いたいことがやっとわかったよ」
吉川 「遅いよ! 分かるの遅すぎだよ!」
ジョニー 「つまり、お前はカジュアル派で俺はフォーマル派だと……」
吉川 「全然ちがーう! カジュアルじゃない! そうじゃない! なんでそうなるんだ!」
ジョニー 「いや、わかるよ。お前の全体的に迷彩でコーディネイトしたっていうのは、でも、あまり迷彩ばっかりだと、ちょっと重すぎるじゃない? だから、ほら、首とかにオレンジのスカーフとかどうかな? ワンポイントになって得点高いと思うんだけど」
吉川 「え? そうかなぁ? ちょっと大胆すぎ……ないよ! なんでワンポイント! 目立ったら死んじゃうじゃん! 戦場じゃん!」
ジョニー 「戦場じゃん! っていうわりにはノリツッコミしたくせに……」
吉川 「なんで、そんなに余裕あるの! 敵いるんだよ! 周りを敵に囲まれてるかもしれないんだよ!」
ジョニー 「なにっ! だったら、こうはしてられない!」
吉川 「やっと状況を把握したか……」
ジョニー 「見られれば見られるほど、磨かれて美しくなれる!」
吉川 「把握してなかったか……」
ジョニー 「あぁ、視線を……視線を感じる! もう、優等生じゃいられない!」
吉川 「誰なんだ、優等生だったのか! 視線を感じちゃダメだろ、見つかったら殺されちゃうぞ!」
ジョニー 「その前に、俺の美しさでハートを撃ち抜いてやる」
吉川 「美しさじゃなくて、もっと物理的な武器を使って撃ち抜いてくれ」
ジョニー 「シッ! 吉川、あっちの草むらに人影が……」
吉川 「ひょっとして……」
ジョニー 「あぁ……。俺の美しさに引き寄せられたのかもしれないな……」
吉川 「100%それはない。敵だろ! 敵!」
ジョニー 「その可能性もあるな……」
吉川 「いや、その可能性が高すぎだろ。他の可能性なんてほとんどない!」
ジョニー 「どうする? 魅了するか?」
吉川 「なんだ、その選択肢は! どう言う決断を迫ってるんだ」
ジョニー 「お前がやらないんなら、俺一人でもやるぜ!」
吉川 「台詞はかっこいいけど、前後の流れからしておかしいだろ」
ジョニー 「怖気づいたのか? じゃ、ここは黙って俺の手並みを見てるんだな」
吉川 「いや、死ぬぞ。魅了じゃ絶対死ぬ。やめて、お願いだから早まらないで!」
ジョニー 「死んだらその時さ……戦場に散った、美しく、そしてバカな男がいたと覚えておいてくれ」
吉川 「美しいかどうかは別として、バカなのは十分承知してる」
ジョニー 「いくぜ。ヘイッ! ホールドミー!」
吉川 「違う! ホールドアップだ! ホールドミーじゃ抱いてだ! 抱きしめてだ!」
ジョニー 「お前たち、どこの隊のもんだ?」
影 「すみませーん。ファッションチェック隊のものです」
ジョニー 「……ね?」
吉川 「全員死んじまえ!」
銃声
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます