第33話 集合

 緊急集会は黒河内が一人べらべら喋っただけでお開きとなり、生徒たちはそのまま退場となった。こんだけかよ、と悪態を吐く生徒も少なくない。

 常葉は緊張した面持ちで体育館を後にすると、後ろから肩をトントンと叩かれた。

 振り向くと、廊下で初めて会った時のような鋭い目付きをした藍川が居た。

 常葉と藍川はゾロゾロと歩く生徒の群集に混ざり、隣を歩く。


「たぶん、すぐに職員会議がある」藍川が言った。

「……確かに、ありそう」

「だから、今すぐ動くよ」

「すぐ?」

「会長にはもう連絡を送ってる。もう少ししたら黒河内の居場所を伝えてくれる」


 そう言って藍川はブレザーの内ポケットからスマホをちらりとこちらへ見せた。本当はスマホは持ってきてはいけないのだが、今更そんなことを指摘するわけもない。


「諏訪さんにも伝えないと」

「もう伝わってる」

「早いね」

「当然でしょ」

「流石」

「それと、怖気づかないこと」

「分かってるよ」常葉は藍川の真剣な横顔を、一瞬だけ眺めた。「もう、大丈夫。余裕」


 常葉は前を向いたが、隣で「あっ」と藍川が声を上げたので、またそちらを見た。


「どうしたの?」

「たぶん、会長から返信」そう言ってスマホを取り出そうとする。「確認するから待って」

「いや、ここでスマホ出したらまずいんじゃ……先生にばれたら面倒だよ」

「問題ないでしょ。こんだけ人が居れば」


 そう言って藍川は無事に確認を終えると、常葉の顔を見た。


「で、どうだった?」

「……資料室」藍川の目は蛇そのものだ。「そこにいるみたい」

「……分かった」常葉は前を向いて、目的地を教室から変更する。「じゃ、行こうか」


 常葉は今度、自分のブレザーの内ポケットに触れた。

 角ばったものの感触がある。

 それを確認すると、常葉の中でスッと覚悟が固まっていった。

 一旦は教室へ戻るフリをして、常葉と藍川はすぐに教室を出て渡り廊下へ向かった。生徒が誰も居なくなり、盛り上がっている教室の喧騒がぼんやりと聞こえた。空気はどこか冷たい。

 後ろから足音が聞こえて振り返ると、


「ま、待ってください……っ!」


 と息を切らしながら諏訪が走ってきた。


「これで揃ったね」

 常葉たちは資料室へ向けて階段を上がっていく。窓が閉め切られていることもあり、とにかく息苦しさが増していった。

 しばらく歩くと、資料室の前に辿り着く。

 諏訪に手でジェスチャーを送り、ここで待機するように命じる。もし万が一、資料室で黒河内が暴れたりする場合があるかもしれない。その際、すぐに人を呼んでこられるように、元々諏訪にそう話をつけてあった。

 なので諏訪もすぐにジェスチャーを理解し、緊張した面持ちのまま、大袈裟にコクコクと頷いた。

 そして、藍川とお互い顔を見合わせると、小さく頷く。

 校内放送で、緊急の職員会議を開くと告げている。

 黒河内は出席するのだろうか。

 まあ、するとしても、決着がつくまで資料室から出すつもりは毛頭ないが。


「行こうか」

「ええ」


 常葉はドアに手を掛けて、潔くスライドさせた。

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