第15話 考え事

 放課後になり、常葉は藍川と茶々堂で会う約束を早速取り付け、教室を出ようとする。が、その前に挨拶だけしておこうと、涼の席に向かった。

 涼はまだ帰り支度をしておらず、ただ席に腰掛けているだけの背中が見える。

 近づいて、肩を叩いた。


「じゃ、帰るから。また明日」

「……」涼はこちらに気づいていない。

「涼?」

「うわっ!」


 涼は常葉と目が合った途端、体を仰け反らせて盛大に驚いて見せた。体がはねて、椅子の足が浮く。涼は本当に常葉に気付いていなかったようだ。


「……どうしたの?」

「それがよ、そのー……」


 そこまで言って、涼は突然口元を徐に押さえると、常葉から視線を逸らした。


「???」常葉は小首を傾げる。

「いや、やっぱなんでもねえ。忘れてくれ」

「はぁ……何だかよくわかんないけど、もし体調が悪いんだったら――」

「違う違う違う」涼は打って変わって笑顔になり、顔の前でナイナイと手を振った。「ちょっと考えたごとをしてただけだ。お前に相談しようかなとも思ったけど、そういうもんでもねぇなって思いなおして、やめたんだ」

「涼が考え事? 天変地異かな」

「おい」

「ま、そういうことならいっか。それじゃ、帰るから」


 常葉は一方的に煽った後、一方的に別れを告げた。

 珍しいこともあるものだと思いつつ、しかし悩みなんて誰にでもあるものだ、と考え直す。

 現に、常葉自信がそうではないか。

 悩み――というより、課題というべきか――を抱えている。

 常葉は藍川を待たせないよう、足を速めた。

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