第11話 対立②

「……あ」


 長かった一日も終わり、ようやく放課後になったと思った矢先、昇降口へ向かう途中の廊下で、少し先のところを会長が歩いていた。しかも、進行方向はこちらだった。

 会長の目的地は不明だが、そんなことはどうだっていい。

 というのも、いつもの会長はとっくに常葉に気づき、何かしらのアクションを起こしているはずだからだ。それが未だ無いということは、嫌な予感しかしない。

 徐々に距離が縮まって、表情がよく見えるようになる。

 ……やっぱりか、と思う。

 常時笑顔に近い会長の、こんなに暗い表情を、常葉はいまだかつて見たことがなかった。

 放課後の、人がごった返して騒がしい廊下のなかで、会長の纏う雰囲気はあまりにもミスマッチというか、浮いているように見える。

 さらに距離が近づいていく。

 ここまで来て常葉に気付いていないとは言わせない。

 そしてとうとう、目があった。


「……っ」


 会長は笑わない――足も止めない。

 常葉は思わず目を逸らす。

 すれ違う瞬間、冷たい風が会長との間を吹いていったように、突然の悪寒が常葉を襲った。

 溢れる不安を押さえつけるように、誤魔化すように、常葉は早足になりながら昇降口を目指す。

 妙に暴れている鼓動が喧しく、それを整えようと下駄箱の前で棒立ちをする。

 途端、スマホが振動した。

 ……もしかしたら、会長からかもしれない。

 なんて幻想と共に、画面を見る。

 しかし、


『いまから会えない?』


 落胆と、けれども少し、肩が軽くなる感覚。

 それは、藍川からのメッセージだった。

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