人間の本能は寒がり

 「夏と冬のどちらが好きか」という問いは、詰まるところ暑さと寒さのどちらが好きかに帰着する。

 寒がりは夏を好むし、暑がりは冬を好む。被虐嗜好でも持たない限りこれは揺るぎない真理だ。

 そしてここからは私の仮説……いや、妄想の域を出ない話かもしれないが、日本人の殆どは寒がりであり、冬を嫌う傾向にあるのだ。

 日本が世界的に見ても比較的温暖な気候であることは言うに及ばず、それ故に日本人は古来より寒冷への対策を疎かにしてきた。

 そして何より、日本には冬の風物詩やイベントが少ない。気がする。

 勿論無いとは言わない。晦日に正月、節分に七五三、北の方では雪祭りと冬季にも賑やかな伝統行事が目白押しである。それは否定できない。

 しかし、しかしだ。

 冬夏のイベントを比較すると、圧倒的に夏の方が皆盛り上がっているではないか。

 花火、プール、海に山に夏祭り。

 絶対こっちの方が楽しいに決まっているし、何より人々の動きもより流動的に、活発になる。

 比べて冬はどうだ。北風吹き荒れ驟雪しゅうせつ乱れ舞う冬景色の中で駆け回るのはせいぜい犬か幼けない子供くらいのもの。殆どが室内温度二十二度の空間で、のんびり蜜柑の皮でも剥いているに違いない。

 それ即ち、夏の暑さへの耐性が誰しも少なからずあるという証左に他ならないのだ。

 体育の授業を参考に見てみよう。夏は楽しくプールで水浴びだってのに、冬は極寒の中凍える体に鞭打ち持久走である。

 一見すると寒さに耐性があるからに思えるが、それは不正解だ。

 教師共は大半が嗜虐嗜好の非人間。体育教師ともなれば、その割合も九割九分九厘に等しい。彼奴等は我々が浮かべる苦悶の表情で悦に浸りたいが故に、利己的に地獄の責め苦を生徒達に課しているのだ。

 ……別に私情はない。あるのは私怨だけだ。

 兎にも角にも、彼奴等の心理から逆説的に考えると、日本人は寒さへの耐性が脆いことが見て取れる。

 そもそもここまでして私が何を主張したいかというと、日本人は本能的に寒冷を忌避しており、その遺伝子を身に継ぐ以上寒さに苦言を呈するのは是非も無い、ということである。

 一度寝れば冬休みも終わり、否応なしに学校生活が再びスタートする。最高気温は余裕で一桁、最低気温は余裕で氷点下、こんな極寒の中で風を切り二輪車を転がすなど自殺行為も甚だしい。


 要するに、学校に行きたくないのである。

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