第26話 お前も一本どうだ?
俺は今日広場で起きたことを他のプレイヤーにかいつまんで説明した。
「そんな横暴許せないわよ! エルさんが作ったミルクは新鮮でおいしかったし、問題があったとは思えないわ!」
「そうだね。僕も飲んだけど何ともなかったよ」
リーシェルとクロードのペアは実際にエルのミルクを買って飲んだから、おかっぱ頭の主張がおかしいと思ってくれたようだ。
「ミルクだァ? 知らねー飲み物だな。嘘つき女が売ってたんだから信用されなくても文句いえねーだろ」
赤髪はまだ俺がスキルを披露しなかったことを根に持っているようだ。というかミルクを知らないのか!? まさか、この男もクロードと同じお坊ちゃま……な訳ないよな。たぶんバカなだけだ。
「ワシも初めて聞く名前だ。どういった飲み物なのかね?」
ベルトスまで知らないだと!? さすがにこのじいさんが世間知らずということはありえない。どういうことだ!?
「ミルクがわからないのか!?」
俺が戸惑っていると、その様子を見かねた城崎が嫌々ながら口を開いた。
「あなたは忘れているかもしれないけど、私たちはそれぞれ別の世界から来たのよ。その中に牛が存在しない世界があっても不思議ではないわ。むしろ、私はこの世界に牛がいるという事実の方に驚くべきだと思うのだけれど」
俺の疑問は城崎があっさり解決してくれた。
そして考えさせられた、転生前の世界と同じく牛がいるのって少し不自然かもしれない、と。その理由は……全然わからんが。
しかし、城崎はよくそんな細かいことに気がついたな。俺はまったく気がつかなかったぞ。
「そういうことだったか! それなら、ちょうど今ミルクを持っているから飲むといい」
ほのかに温かさが残るミルクをベルトスに手渡す。「俺様にもよこせ」と言われたから仕方なく赤髪にも渡した。
「「…………」」
ベルトスも赤髪もミルクをじっくり観察している。クロードに渡したときと同じ反応だな。白濁した謎の液体は誰でも抵抗があるみたいだ。
「2人とも大丈夫だよ。ミルクは甘くておいしいんだ。先に僕が飲むよ」
「アタシも飲みたい! 一本頂戴!」
クロードとリーシェルは俺からミルクを受け取り、ゴクゴクと飲んだ。
クロードも最初は抵抗していたんだがな。気に入ってくれたようだ。
その光景を見たベルトスと赤髪は少しずつミルクを飲み始めた。
「ほう、美味ではないか」
「まあ、マズくはねぇな」
どうせ売れないんだ。好きに飲んでくれ。
あと一人、受け取っていなかった城崎に声をかける。
「城崎、お前も一本どうだ?」
「要らない。牛乳は嫌いじゃないけど、あなたが変なものを入れてそうだから」
「変なものって……ああ、そういうことか! 安心しろよ。今の俺は女だからそれはありえない」
「はあ? あなた何を言って――――ッ!? 最低の変態野郎ねっ! そんな発想が出るなんて本当に救えないわ!」
顔を真っ赤にして俺を罵倒する城崎。
「あれ、違ったのか? そうはいうけどお前だって思いつ――――ぐうッ! 痛、ちょっ、やめ……」
城崎はいきなり俺を4回も殴った。もはや懐かしさを感じる虐めっ子気質だ。
「ツ、ツバキさま!? レイカさま、でしたよね? ど、どうしてツバキさまを殴ったのですか!?」
エルは城崎の突然の行動に驚愕している。あまりにもスムーズに攻撃をしたからな。エルは俺たちの関係を知らないから驚くのも無理はない。
「城崎は俺と同じ世界から来たんだ。俺たちは前から知り合いだったから……えーと、じゃれあってるだけなんだよ」
「ツバキさまと一緒!? それは本当ですか!?」
エルはそっちの話題に興味を持ったようだ。
「ああ、その通りだ」
「そうだったんですか! レイカさまはツバキさまと同じ世界から来たんですね! わたしはエルフィーラと申します。気軽にエルと呼んでください!」
エルは満面の笑みで城崎にあいさつをした。
「ええ、よろしくお願いするわ」
城崎は普通にあいさつした。
そ、そんな馬鹿な! この女が普通にあいさつを返すなんて! 俺のときはあいさつを返してくれなかったのに!
「あの……レイカさまはミルクが苦手なんでしょうか……」
さっき飲んでくれなかった理由を気にしているらしい。
俺が変なものを入れてそうだから飲みたくない、と答えると思ったが……
「そんなことはないわ。とてもおいしそうな牛乳ね」
城崎は俺が手にしていたミルクを奪い取ると、ふたを開けて飲み始めた。
嘘だろ!? 俺のときと対応が違い過ぎないか!?
……まあ、俺は城崎に嫌われているからな…………。
◇ ◇
「レイカ君の言うとおりであれば、アントーレ殿の下した処分は理不尽であるな」
その後、ミルクを飲むと腹を壊す人はいるが、それは大きな問題でない理由を城崎が説明してくれた。よくそんなことを知っていたな。
「これからどうすればいいんでしょうか……」
エルは目を伏せ、不安そうに呟いた。
「そうね……」
それを聞いた城崎は、アゴに手を当てて何かを考え始めた。城崎は熟考するとき、いつもこのポーズをとる。
その最中、ほんの数秒だけ切れ長の目が俺に向けられる。俺は……不覚にも見とれてしまった。
やはり城崎は凄い美人だ。胸も超デカいし外見だけなら俺の理想と言っていいだろう。もし乳首がキレイな色だったら更に完璧だ。
城崎は考えがまとまったようで、艶やかな唇を上下に開く。
「安心して、私にいい考えがあるわ」
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