第25話 愉快なメンバーが揃ってしまった
ずかずかと広場の騒動に割り込んできたのは赤髪のプレイヤー。前に俺と揉めたやつだ。たしか名前は……ヴォルなんとか、だ。
赤髪は好戦的な表情を浮かべ、その場の者を見回す。
「嘘つき女と乳デカいねーちゃんと感じ悪いおっさんとガキが揃って何遊んでやがンだ? 喧嘩してンなら俺様も混ぜろよ! 全員叩き潰してやる!」
厄介なやつが参戦してしまった。マズい、余計面倒なことになりそうだ。
――だが、それだけにとどまらなかった。
「あれ、ツバキさんじゃないか! おーい! 僕だよ、クロードだ!」
「ちょっとクロード! 今そんなのんきにあいさつしていい雰囲気じゃないでしょ! 控えなさいよ!」
両手を振って俺のもとに駆け寄ろうとする金髪王子――クロード。それを抑える青髪ポニーテール――リーシェル。
「まったく……活力があるのはいいことだが、状況も読まず勇み足になってはいかんと言っておるのに」
赤髪の突飛な行動を諫めるじいさん――ベルトス。
「ベルトスさんの言う通りね。面倒ごとに巻き込まないで欲しいものだわ」
俺をチラッと見て眉をひそめる黒髪巨乳の美少女――城崎麗華。
この町に滞在しているプレイヤーが勢ぞろいだ。
……愉快なメンバーが揃ってしまった。この騒動がどんな展開を迎えるのかまるで予想ができない。
最初に口を開いたのは、おかっぱ頭の壮年だった。
「これはこれは勇者サマ御一行ではないですかぁ! 今日ものんきにモンスター退治ご苦労様でございます!」
明らかに挑発した態度を見せる壮年。
てっきり正式な勇者には媚を売るタイプだと思っていたが、この男は俺以外相手でもこんな調子で話すようだ。
ベルトスは壮年の煽りを意に介さず、落ち着いた様子で返答する。
「うむ、先ほどは町周辺に出没していたワイバーンを討伐したのだ。これで町民が安全に外出できるようになれば良いのだが」
ワイバーンを倒した!? スライムとかゴブリンとか弱そうなのを倒してると思っていたのに、もうゲーム中盤で戦いそうなモンスターをハントしていたのか!
神器を持った勇者が5人集まれば、ワイバーン相手でも昼にはクエストを完了できるらしい。でも大人数でパーティーを組むとモンスターの体力がかなり増えるんじゃないのか? 俺がやりこんだゲームはそうだったぞ。
「あー、最悪だったぜ。俺様が殺そうとしたらアホキングに横取りされたンだよなァ」
「ごめんヴォル。君が止めを刺そうとしていると知らなかったんだ」
「クロードが謝る必要ないのよ!? 誰が経験値を得ることになっても恨みっこなしだって決めてたじゃない!」
ガヤガヤと騒がしいプレイヤーたち。なんだかんだ仲良くやっているようだ。
壮年のおかっぱ頭はその様子を鼻で笑った。
「ふっ、危機感のない勇者サマですねぇ……。このゲームの本質を理解されていないようだ」
「ンだとォ! ムカつく言い方しやがって! いいたいことがあンならはっきり言えよ!」
赤髪はブチギレた。相変わらずカッとなりやすいやつだ。
「私があなた方に話すことはありませんよ。でも、特におつむが足りない勇者サマには少しだけ忠告してあげましょう。モンスター狩りにうつつを抜かすのは勝手ですが、自分が狩られる側に回る可能性を少しでも考えたらどうでしょうかぁ?」
「ハッ! 何バカなことを言ってやがる。俺様はいつだって狩る側だ。今ここで証明してやるぜ!」
そう言って、おかっぱ頭の壮年に殴り掛かろうと拳を振り上げる赤髪。おかっぱ頭は余裕の表情を崩すことなく、応戦するために腰に下げていた短刀を構える。
勇者と交戦しても構わないのか!? よほど腕に自信があるのだろうか。……おかっぱ頭が何を考えているのか判断しかねる。
――しかし、
「むやみに人を殴ってはいかんよ。それにこの男はこの町の領主だ。危害を加えれば、難事は避けられん」
「ちっ! わかったから離せジジイ!」
ベルトスに強く握られていた腕が開放されると、赤髪はしぶしぶ引き下がった。
こんな暴れ馬を御するとは……。やはりベルトスはかなりの強者のようだ。
「…………ふむ」
思案顔で、ベルトスはおかっぱ頭をジッと見つめている。先ほどの意味ありげな言い方が気になるのだろうか。
その視線に気づかず、おかっぱ頭の壮年はひどく退屈そうな声で告げる。
「はあ……興醒めですねぇ……。私は気分よく罪人を咎めていただけなのに、どうして次々と邪魔が入るんでしょうか」
おかっぱ頭はため息をついて、エルに顔を向けた。
「エルフィーラ。先ほど申し上げた通り、今後あなたがこの町で商売することを禁止します。あなたから物を買った方は例外なく処分します。もし、お金に困るようであれば私の家に来てください。いつでも歓迎しますよ。偽勇者サマもどうかよろしくお願いしますね」
「ええ~! 僕様は今すぐあの女たちが欲しいよ~!」
「安心してくださいトーニ。あの女がこの町以外で商売することは不可能です。すぐに泣きついてくるはずですよ」
「わかったよ。お父様がそういうなら、今日は別の奴隷で遊ぶことにするよ」
好き放題言って、立ち去ろうとするおかっぱ頭の親子。
このままだとエルは物を売れなくなってしまう。無理にでも引き留めないと!
「おい、待てよ! まだ話は――」
「大丈夫です! ツバキさま!」
おかっぱ頭に詰め寄ろうとする俺を、エルは袖を掴んで止めた。
「でも、このままだとエルが……」
「わたしは大丈夫です。もし、これ以上逆らったらアントーレさまはツバキさまにひどいことをするかもしれません。そんなことになってしまったら、わたしは悲しいです」
無理に表情を繕って笑いかけてくれるエル。
まさか、こんな状況でも俺の心配をするなんて……。
俺は情けない奴だ。あいつらを追い払ったのは他のプレイヤー集団。俺は口先だけで何もできなかった。
暴力が嫌いだからとか言って何もしなかったけど、エルは俺があいつらをかっこよく追い払うことを期待していたんじゃないだろうか? だとしたら今度こそ失望させてしまったかな……。
広場に残されたのは俺とエルとプレイヤー5人、あと野次馬。ベルトスが俺の方を向き問いただした。
「彼らとの間に何があったのか話してくれるかね?」
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