第9話 あなたが特別な理由なのです

 【狂信的性癖追求者】、か……。随分ユニークな名前だ。俺はかなりの本数のゲームをプレイしたが、一度も目にした覚えがない。


「このカードの使用条件は名前の通り『理性を無視して自身の嗜好を追い求めることができる』なのです。あなたは女性の乳頭に並大抵でない関心を持っているため、条件をクリアできるのです」


「俺は女の乳首が三度の飯より好きだからな。でも、自分が好きなものを追い求めるのは普通のことだろ? 俺だけが特別な理由とは思えんが」


「程度の問題なのです。それを確かめるために今からいくつか質問をするのです。けれど、特別な理由をあなたが理解できる結果にはならないかもしれないのです」


 うーん……。どうにも要領を得ないな。神様は何が言いたいのか俺にはさっぱりわからない。


 とりあえず、質問に答えるとしよう。


「例えば…………先ほど神が異世界に送り出した女性、城崎麗華しろさきれいかさんを想像してください」


 城崎か、なんだか久しぶりに名前を聞いた気がするな。俺の隣の席の女だ。


 城崎は胸がでかい。Gカップくらいだろう。胸の大きさは高校2年生の平均を遥かに超えているが乳首の大きさは平均的だ。あえて特徴をあげるなら若干長さがある。これは昨日ブラ無しのシャツの上から確認したから間違いない。流麗な黒髪ロングの持ち主であり、その端正な顔立ちは近くの共学校の男子生徒が放課後わざわざ見学に来るほど美しい。


 学業は超優秀らしく、全国模試では上位の常連だと聞いている。運動もクラス内で一番といえるほど得意だ。


 しかし、性格はかなりきついことで有名だ。いつも他人を見下した態度をとるためクラスメイトから避けられている。自分から他人と関わるのは、俺を放課後の教室に呼び出し、何かと理由をつけて暴行を加えるための仲間を集めるときくらいだ。


「城崎か、あいつとは色々と縁があるから想像に容易い」


「では、質問です。城崎さんがもしあなたに『乳首を好きにしてもいいから、靴を舐めて綺麗にしなさい』と言ったらどうしますか?」


「そりゃあ、舐めるだろ」


「そうですね。その光景は容易に想像できます。好きなもののためなら実行できるレベルなのです」


 そりゃそうだ。ハードルが低すぎる。


「では、城崎さんがあなたに『乳首を好きにしてもいいから、全裸で校庭を10周しなさい』と言ったらどうしますか?」


「そりゃあ、走るだろ」


「そうですね。あなたならやります。けれど、いくら好きなもののためでもそこまでやる人は滅多にいないのです」


 そうだろうか? 校庭10周くらい余裕だろ。


「では……城崎さんがあなたに『乳首を好きにしてもいいから、』と言ったらどうしますか?」


「そりゃあ、


「……そうですね。あなたはやります。それでもなお、このカードの使用条件は満たせないのです。このレベルだとごく少数になりますが、まだやれる人はいるのです」


 なんか普通にやれそうな気がするけどなぁ。


「それでは、その時のあなたはどんな気分ですか?」


「そうだな……。城崎の乳首は何色だろうと予想したり、俺が城崎の乳首をコリコリしている想像をするかな」


「……そうなのです。あなたはニコニコ笑顔のまま爪を剥いで、ワクワクしながらそれを飲み込むことができる。本能に訴えてくる痛みや苦痛を感じないわけではないのに、それらを無視できるほど知的好奇心が上回る。それこそが、あなたがなのです」


 それは、特別……なのだろうか? いまいちピンとこないな。


「結局、あなたには説明しても理解できないと思うのです。自身の嗜好をそこまで追求できる生物は地球上でも数えるほどしかいないのです。これに【ビーチク】スキルの使用条件を加えると『このカードはおそらくあなた以外使用できない』という結論が導けるのです」


 まあ、神様がそう言うのであれば、俺しか使えないんだろう。


「それで、肝心なことを訊くがそのカードは強いのか?」


「それはわからないのです。先ほども話した通り、自分はこの『職業』を持つ生物を見たことがないのです。宝物部屋のカードよりも強力である可能性はあります。逆に、みんなに渡した白いカードより弱いかもしれないのです」


「なるほどな。期待しすぎるな、とはそういう意味か」


「はい。しいて言えば、こういったユニークな職業は大抵、まったく予想できない意味不明なステータスを持つのです。そのステータスによって【ビーチク】スキルの効果も書き換えられる可能性があるのです。その結果、カード型神器に特有のスキルの弱さは無視できるかもしれません」


「なんだって!? じゃあ俺は乳首から自由に母乳が出せないかもしれないということか!?」


「普通はそれで困ることはないと思うのですが、その通りなのです」


 俺は地面に膝をつき、大きく頭を抱えた。どうしてだ、こんなに理不尽なことがあってよいのだろうか、と嘆いた。


「……安心するのです。スキルの原型は残されることが多いのです。きっと乳頭に関係した効果になるのです」


「本当か!? 期待してもいいんだな?」


「はい、期待するのです」


 俺は神様の言葉を聞き、胸をなで下ろした 。


 いったいどんなスキルが手に入るのだろうか。少し気が早いが、いまだに秘められている俺のスキルに心を躍らせる。


「このカードを受け取ると異世界に転移されるのです」


 俺の異世界生活は目前に迫っている。生き返ることが目的ではあるが、そこに至るまでに数多くの冒険が俺を待っているだろう。


 今すぐにでも旅立ちたい――ところではあるが、俺は最後にどうしても神様に訊きたいことがあった。




「なあ、結局のところ、神様は俺たちに何をして欲しいんだ?」

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