第8話 特別なカードなのです

「俺の神器もあいつらと同じカードなのか」


「はい、あなた地球人には、まず『職業』を用意する必要があるのです」


 神様の説明によると、すべての生物には個体の『ステータス』を左右する『職業』が存在するらしい。だが、地球人は全員『職業』が無いに等しいニートとフリーターの集団だと言っていた。


 それこそが地球人が神のゲームを勝ち抜けない理由だ、と。


「俺は特別だと言われたから、てっきり優れた『職業』を隠し持っていると思ったんだがな」


「そうではないのです。その証拠にあなたの『ステータス』をお見せするのです」


 ステータスオープン、と神様は呟いた。すると、空中に半透明の画像が浮かんだ。そこには――



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名前  :  高梨椿たかなしつばき

年齢  :  16

出身  :  エルデム

職業  :  兵士

レベル :  0


EXP  :        106

NEXT :   10543536890135

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「…………これだけか? 攻撃力とか魔力とかは見れないのか?」


「表示されていないだけなのです。各種パラメーターは値が0だと表示されないのです」


 すべてのパラメーターが0ってことか……。弱いとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。


「NEXT(レベルアップまでの経験値)が異様に多い気がするんだが」


「レベルアップのしやすさは魂によって異なります。この値が多い魂は忌避されがちなのです」


 だろうな……。このペースだと一生レベルアップは無理そうだ。


「落ち込まなくてもよいのです。『職業』を変更できるカードがあるのです。これを使えば『ステータス』も更新されるのです」


 カードから生成された神器には『スキル』の付与に加えて『職業』を変更できる効果があると説明された。便利な転職エージェントがいたものだ。


「だけど、既に剣とか盾になっている神器よりスキルが弱いんだろ」


「そのとおりなのです。ただ、神が今からあなたに渡すカードは神器の形式によるスキルの強弱を無視できる可能性を秘めているのです」


「本当か!? それは大したものだな!」


 俺は神様が手に持っているカードをよくよく観察した。


 真っ黒なカードに、赤色で解読不能な文字が書かれてあるだけだ。


 他のやつらに配っていた白いカードは上部にイラストがあり、下部に黒色で日本語のテキストが書いてあった。


 それと比べると味気がなく、なんとも不気味だった。


 やはり呪われたカードなのではないだろうか。


「なあ神様、どうしてこのカードは押入れに仕舞われていたんだ?」


「このカードが使用できる人間は今後現れることがないと思い、仕舞っていたのです」


「使用できない? 特別な使用条件があるってことか?」


 神様は「はい」とうなずいた。


「このカードは『スキル』、『職業』両方に厳しい使用条件があります。しかし、あなたはそれをクリアできる。だからあなたは特別なのです」


 神様に特別と言われると悪い気はしない。むしろもっと言ってくれ。だが……俺に特別な部分なんてあったか?


「説明するのです。まずは『スキル』です。このカードに記されているスキルは【ビーチク】というスキルなのです。かなり希少なスキルなのです」


 な……なんて素晴らしい名前なんだ! きっと乳首に関係したスキルに違いない! 間違いなくこのスキルはアタリだ!


「【ビーチク】スキルの効果は『乳頭から母乳が出せる』なのです」


 神か!? 自由意思で母乳が出せるとしたら、それは神の業だ! つまり、このスキルを使えるということは神に等しい存在になれるだろう!


「……そんなに喜ぶとは思っていませんでした。普通はガッカリする場面だと思うのです」


「なぜだ? 俺はこのスキルがとても気に入ったぞ」


「……まあいいのです。このスキルの使用条件はなかなか満たせないのです。条件の一つ目は『女性であること』、二つ目は『女性の乳頭に対して強い性的興味を持つこと』なのです」


 女性であること? 俺は男のはずだが?


 ……いや、違うか。俺はさっき神様の手違いで女になったんだ。


「なるほどな。女の乳首が好きな女は少なそうだ。だが、別にいないって訳じゃないだろう?」


「はい、このスキルの条件を満たせる方は少数ではありますが存在します。問題は『職業』なのです。自分はこれと同じ職業のカードを見たことがありません。この職業を持つ生物も目にしたためしがないのです」


「そんなにめずらしいのか!? いったいどんな職業なんだ!?」


 俺は期待に胸弾ませた。神様が俺以外使える人間がいない職業だというのだ。心を躍らせるのも無理ないだろう。


 対照的に、神様は気が乗らない様子でカードをジッと見つめている。伝えるか伝えないか迷っているように見える。


 神様はわずかの間をおいて、意を決したように俺を見つめると、ゆっくりと重い口を開いた。




「このカードの職業、それは――【狂信的性癖追求者】――なのです」

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