第7話 探し物なのです
押入れがあった。
『封印されたドア』は引き戸だった。神様はドアを横にスライドして開いたのだ。
…………。禍々しい雰囲気の部屋を期待していたことは黙っておこう。
押入れの下段には段ボール箱がいくつか収納されていた。上段には布団が敷いてあった。……上段に布団、金曜日によく見た光景だ。
「神はあの漫画が大好きです。暇があればこの布団に寝そべりながら読んでいます。地球ナンバーワンの創作物です」
そういえば、最初に見かけたときも椅子に座っててんとう虫のコミックスを読んでいたな。今度神に祈るときはコミックスをお供えしよう。
神様は押入れの前で膝をつくと、あれでもない、これでもないと言いながら段ボール箱を開けて何かを探しだした。
こんなところに俺の神器が眠っているのだろうか……。神様にくぎを刺されたとおり、凄いものは期待はできそうにないな。
「あ、これはいいものを見つけてしまいました。見てください」
神様が手にしているのは……携帯型ゲーム機だった。
「ソフトも一緒です。ちょっと動くか確かめてみましょう」
神様はスイッチをONに切り替えた。しかし、電源が入らないらしく、暗いままのディスプレイをじっと見つめている。
「神様、たしかそれ単三電池6本必要なやつだぞ」
「最近電池を使用する機会がないので、どこにあるかわからないのです」
そういえば、俺も家にはリモコンくらいしか電池を使う機器がない。
「ACアダプタでも動かせたはずだ」
「なるほど、ACアダプタなら一緒にしまっていたはずです」
神様は再びガサゴソと段ボール箱をあさりだした。
「おや、これはなんでしょう」
神様が俺に見せたのは、中央部に2つの穴が空いた長方形の箱だった。
ビデオテープか? いやビデオにしては小さすぎる。とするとこれは――
「俺は初めてみたんだが、カセットテープ……じゃないか?」
「カセットテープ……そうです、思い出しました。なにが記録されているのでしょう。神は気になるのです」
こっちに再生するのがあった気がします、と言って今度は押入れの奥を探し出す。
おそらくテープレコーダーがあるのだろう。………………待て、俺はこんなことをしている場合ではなかったはずだ。
「神様、俺たちは別のものを探していたはずだ」
「そうでした。ACアダプタですね」
「そうだ。あれがないとゲームが起動しない」
……それから数分後。
「ありました。これです」
俺は神様に渡されたACアダプタを確認した。
「これは……このゲーム機用のACアダプタじゃないな。だが、たぶんこれでも動くだろう」
「さっそく起動しましょう」
「なあ神様、コンセントはどこにあるんだ?」
「あっちにあるのです」
神様は宝物部屋の入口の方を指さした。俺たちはゲーム機を持って、コンセントのある場所まで移動した。
神様は意気揚々とスイッチを入れた。ついにバックライトが点灯し、起動に成功した。
「
「でもバックライトがあると暗いところでも快適に遊べるのです」
神様のくせに暗いところでゲームをする機会があったのだろうか……。
画面には人差し指を立てた青色のハリネズミが映っている。言わずと知れた超有名タイトルだ。
「遊んでみるのです」
神様はゲームを開始した。自キャラを走らせて、そして――敵にぶつかってやられた。
「もう一度やるのです」
神様はゲームを再開する。だが――同じ敵にぶつかってやられた。
マジか、まだ1ステージ目だぞ!? 死ぬ方が難しいはずなんだが!?
もしかして神様はゲームが下手なんじゃ……
「そんなことはないのです」
神様はゲームを続ける。また同じ敵にぶつかった。だが、今回は先にリングを取っていたので即死しなかった。
――しかし、すぐに別の敵とぶつかってやられた。
「次はいけるのです」
このままだとクリアに何年かかるかわからないな。
「ちょっと貸してみろ」
また失敗した神様は、俺にゲーム機をしぶしぶ手渡す。
そして俺は――
「たまたまなのです」
神様は相変わらずの無表情だが、少し不満げだった。
俺はゲームを続ける。
ノーミスで1ゾーン目をクリアした。
「ついているのです」
ノーミスで2ゾーン目をクリアした。
「運がいいのです」
ノーミスで3ゾーン目をクリアした。
「……少しはできるのです」
ノーミスで4ゾーン目をクリアした。
「…………」
結局、俺は最後までミスをせずクリアした。
このゲームはガキの頃飽きるほど遊んだからな。そう、昔は本当にゲームしかしていなかった。
「
「質問だが、神様にゲームでマウントを取れなかったやつはいたのか?」
「……ひとりだけ、いたのです」
そう言った神様は遠くを見つめるような目をしていた。俺のように、一緒にゲームをした相手がいたようだ。そいつはきっとゲームが下手だったんだろう。
………………あれ? そういえば、俺はどうして神様とゲームをしていたんだっけ? ここに来た目的はたしか――
「神様! 俺たちは押入れで俺の神器を探していたはずだ!」
神様はしばし目をつむり、ポンと手を打った。
「そうでした。忘れてました」
俺たちは慌てて押入れに戻り、神器探しを再開した。
ほどなくして神様は押入れに眠っていた一枚のカードを手に取り、俺の目の前に掲げた。
「ようやく見つけました。これがあなたの神器となる特別なカードです」
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