第6話 残念なお話なのです

? ……俺が?」


 既に、他のやつらはみんな異世界へと旅立っている。俺も神様にカードを貰い、いざ異世界へ……という場面で神様に引き留められた。


 なるほど、特別か。つまり――――だな!


 この時点で、俺は既にこの先の展開を見通していた。そう、俺はこれから神様に最強のチート能力を貰い、異世界で好き放題・やりたい放題に暴れまわるのだ!


 奴隷・冒険者・女騎士・王女、選り取り見取りの美少女の乳首を、思うがままに見て、摘まんで、しゃぶり尽くすのだ!


 俺の凄まじい大活躍に、女になりバストアップした胸を躍らせる。


 ふと気づけば 、神様がジトっとした目つきで俺を覗き込んでいた。


「あなたの想像は間違いだ、とは言いません。ですが、過度な期待をすると肩透かしを食らうかもしれないのです」


「ついてくるのです」と言うと神様は俺に背を向け、トコトコと部屋を闊歩する。


 そして、一架の本棚の前で立ち止まると、その中から数冊を抜いて位置を変えて戻す。この動作を何度か繰り返すと――突然、床が震えるように蠢き周辺の本棚がオートマチックに動き出した。


 まるで秘密基地を連想させる仕掛けが、俺の少年心をくすぐった。いいセンスだ。


 数秒後、本棚がすべて静止した。俺と神様の目の前には、人ひとりがやっと通れるほどの狭さの通路が出現し、その奥は金庫扉で閉ざされていた。


 神様はダイアルを回し、扉を解錠する。その扉の先には――


「……っ! 凄いな! 説明されなくてもが何かわかるぞ!」


 その部屋は、図書館からうってかわって美術館のように、大量の武器・装備品・宝石などがショーケースの中にところ狭しと陳列されていた。


 黄金のガントレット、研ぎ澄まされた日本刀、秀麗なレイピア、虹色に輝く宝石、あぶなそうなみずぎ――どれも高名な伝承を持つ宝物に違いない。


 奥の方を覗くと、神器となるカードが何枚も飾られていた。いずれも金色の枠・ホログラム加工など、一見してだとわかる豪華な作りだった。先ほど配られた白い紙にイラストが描いてあるだけのカードとは大違いだ。


「ここは自分の宝物部屋です。ここに飾られている物はすべて強力な神器です」


 神様は腰に手を当てて、少しだけ自慢気に言った。


「……これらが滅茶苦茶凄いのは理解できる。特別な訓練を受けていない俺でも神秘的なオーラが感じられるほどだ」


 だから――この宝物部屋を見たからこそ、浮かぶ疑問があった。


「これは俺の想像だが、さっき配ったカード……強いやつじゃないんだろ? どうしてだ? このゲームは神様の評価を決める大切な戦いじゃないのか?」


「……あなたには話してもいいでしょう。神のゲームの順位、それはそのまま神の序列になるのです」


 な、なんだって!? 期末テストの1科目程度だと思っていたが、センター試験レベルで重要じゃないか!?


「そんなに重要だったら、なおさら弱いカードを渡した意味がわからないな」


 俺が疑問をぶつけると、神様はバツが悪そうにうつむいた。


「……勝てないからです。自分が管轄している≪エルデム≫の民――地球人では神のゲームを勝ち抜けないのです」


「……理由を訊いていいか?」


「はい。実は、生物すべてには『職業』という概念が存在するのです。『職業』は生物の魂と紐づいており、種類・レベルによって個体の能力は大きく変動します」


 職業か……。転移前にも説明があったな。


「じゃあ俺にも既に『職業』があるってことか?」


「はい、あなたも例外ではありません。すべての生物には『職業』と現在のレベルが存在します」


「それが地球人がゲームに勝てない理由につながるのか?」


「……通常、神はゲームに備え、管轄している世界の生物を強くしようとします。そのため、優れた『職業』を持つ魂を選別して育てているのです」


 当然だな。今回のようにゲームで競うのであれば自軍を強化するのは必然だ。


「そして……自分は他の世界の選別で不要とされた魂たちを集めているのです」


 …………つまり、俺たち地球人は他の世界で戦力外通告を受けたやつらの集まり、だと……。


「残念ながら、地球の方はみんな『職業』の力が無いに等しいです。逆に他の世界では転生前から『職業』の存在に気が付いていて、鍛えている場合もあります。つまり、このゲームの参加者には最初からレベル50の【戦士】も存在します」


 なるほど……絶対勝てないと断言するわけだ。


「じゃあ、あのカードに書いてある職業は何なんだ?」


「カードから生成された神器には所持中のみ職業を変更する効果があるのです。ただし、職業の初期レベルは1となります。神器の『スキル』も、伝承があり既に形があるのものと比べて格段に劣ります。初心者セットみたいなものです」


「…………でも……あそこに並んでるレアそうなカードを使えば少しはマシになるんじゃないか……?」


 縋りつくような期待を否定するように、神様は首を横に振った。


「確かに、あのカードを使えば少しはマシな戦いができるでしょう。ただ、残念ながらこの宝物部屋の神器、そのほとんどは――既になのです。地球を運営するコスト神の力自分だけでは賄いきれず、大赤字で借金まみれなのです」


 そうか、あのレアなカードはそもそも渡すことができなかったのか……。


 ……もう地球はおしまいだな。数年後には消えてなくなっているかもしれない。


「それじゃあ、俺にくれる神器はどれなんだ? この宝物部屋の中のなけなしのレアアイテムか?」


「この中の神器を渡す余裕はありません。あなたに渡すのはもっと別のものです」


 俺と神様は宝物部屋の最奥に到達した。


 そこには――何重もチェーンで施錠された、いかにもな『封印されたドア』があった。


「あなたに渡す神器はこの部屋にあります」


 神様は俺に呪いのアイテムを渡すつもりなのだろうか。


 俺は先ほどまで期待で胸がいっぱいだった。だが、神様の話を聞き、この扉を見せつけられて、今は絶望の淵に突き落とされていた。


 神様はすべてのチェーンを外し、扉を開く。




 そこには――

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