第4話 神は神なのです

 いったい……何を言っているんだ、この少女は?


「私たちが死んだ? 異世界? ゲーム? 悪いけれど、子供の遊びに付き合っている暇はないの。あなた、ここがどこか知っているのかしら?」


 城崎しろさきは少女の言葉を鼻で笑うと、見たところ14歳くらいの金髪碧眼の少女に問う。


 だが、少女は城崎を気にも留めず、話を続けた。


「あなたたちは2021年7月14日17時15分36秒、桃百合高等学校1階家庭科室で発生した、ガス漏れが起因となる爆発に巻き込まれて死亡しました」


 これはあれか? 小学生がよくやる『何時何分何秒、地球が何回まわった時?』というおふざけの進化系だろうか?


「ちなみに地球が4兆2434億6409万6432回まわった時です」


 少女は俺のくだらない疑問に丁寧に答えてくれた。あれ? 俺は今の疑問を声に出したっけ?


「あ、あの……わ、わたし、ここに来る直前、家庭科室にいました……。そしてガスのつまみを回したら目の前が真っ白になってここにいて……。あ、あとそれから家庭科室は少し変なにおいがしてた気もして……」


 みっちゃんは子ウサギのようにぶるぶる震えながら、言葉を絞り出す。


「つまり、ワタクシたちが爆死したのは事実の可能性がある、といいたいのですわね?」


 金髪縦ロールはみっちゃんの話を簡単に要約した。というか爆死って聞くとソシャゲのガチャに失敗した人みたいだな……。


「確かに、ワタクシたちが遊んでいた2-Bクラスは家庭科室のちょうど真上に位置していますわ。……ですが、だからといってワタクシたちが死んだことが事実だと思えませんわ。実際、ここでこうして動いたり話したりしているわけですし」


「今あなたたちが存在している世界は神々が住む神界です。この部屋は、あなたたちが元いた世界――≪エルデム≫を管理している神の住居、いわゆる神殿です」


「神殿? ここに神が住んでいるとおっしゃいますの?」


「はい、今あなたたちの目の前に立っているのが神です。ここに住んでいます」


 神を名乗る少女は自分を指さし、無表情で告げた。


「説明だけでは納得できないと思うので、今から神たる証拠を見せます」


 そう言うと、自称神は…………直立不動のまま微動だにしない。


 …………


 ……しばらく待ってみたが、死んでいるかのごとく動かない。


 ……どういうつもりだ? まさかまったく動かないことが神の証明なのか? 全校集会とか合唱コンクールの練習とか卒業式とかで役に立ちそうな能力だな。


「ちがいます。よく見てください。足が地面から3mm離れて浮いてます」


「わからねぇよ! 未来の猫型ロボットかよ!」


「神ジョークです。楽しんでいただけましたか?」


 淡々とした口調で、冗談を飛ばす自称神。感情が乏しい割にフレンドリーだ。


「では、真剣に神たる証拠を見せます」


 自称神は、今度は俺に向かって指をさす。


「あなたが女になった、それは神の力が原因です」


 そうだ。この自称神に気を取られて肝心なことを忘れていた。俺は女の体になったのだ。なんとも不思議な現象だが、これは神の力のせいだというのか。


 思い出したからさっそく服を脱ごう――とすると城崎が横目で睨むので止めた。お楽しみは後にとっておこう。


「≪エルデム≫――つまり地球から生物を神界に連れてくるとき、地球から魂だけを呼び込み、神界で生物の種類・性別ごとに分かれた肉体に宿します。その後、肉体は魂が記憶している姿に変化します」


 自称神は「あなたたちはそうしてここに存在しているのです」と俺たちを見渡して解説する。


「で? どうして俺は女になったんだ?」


 今の説明だと、俺の魂を男の肉体に宿せば男のままになるはずだ。そうしなかった理由は何だ?


「間違えました」


 ……は?


「神のデータベースによると私立桃百合高等学校は女子高と設定されていました。今回亡くなった生徒は全員女性だと思い、女性の肉体を用意しました。そこにあなたの魂を宿したのです」


 神のデータベース更新、3か月以上遅れているぞ……。


「性別が違っても、同じ人間であれば魂は定着します。ただし、外見は元の姿に戻れないので、神が頑張ってそれっぽい女の子の姿に変えました」


 自信作です、と神はキメ顔でそう言った。


 別に不満があるわけではないが……適当過ぎないか? この神。


「話を戻します。普通、男性が女性になることはありえません。しかし、この場で彼は彼女になった。それが自分が神たる証拠です」


 さっきから神神うるさいと思っていたが、どうやら一人称がらしい。


「色々と突っ込みたい部分はございますけど、ありえない現象が起こったのは事実ですわ。ひとまず神と認めて差し上げますわ」


 金髪縦ロールは神相手でも怖気づくことなく、偉そうに振る舞う。


「わ、わたしも、すごいことがおきてるのはわかったよ!」


「面妖な話でござるな~」


「……嘘よ……絶対におかしいわ。私は認めないわよ!」


「わりーけど、wifi繋げさせてくんね?」


「はい、神殿のwifiのSSIDは『神様のおうち』でパスワードは『kami_hause』です」


 一緒に爆死したやつらは大体が神の証明に納得したようだ。


 てか神界ってwifi使えるのかよ……。あと神様、houseのつづり間違ってますよ。


「では、あなたたちの状況確認が済んだところで、改めて本題に入らせていただきます」


 神は揺るぎない無機質な表情で、話を切り出す。




「あなたたちが生き返りを賭けて異世界で行うゲームの内容は簡単です。自分を含めて111柱の神が、それぞれ管轄の世界から呼び寄せた知的生命体――合計666体でバトルロイヤルをします」

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