後編A このまま閉じ込めておく

 部下の部屋にはジャムだの栄養ドリンクだのの小さな空き瓶がところせましと並んでいた。

 瓶の中には小さな人間たちが入っていて、

「出してくれ」

「助けてくれ」

「もう許して」

と、口々に助けを求めている。あるいは倒れて動かなくなっている。

 部下は小さな人の入った瓶のひしめく部屋の中で、体を縮こませ、ひたすら空き瓶に呪詛の言葉を吐いていた。

 部長を瓶詰めにしたあと、上司が変わった。その上司はやはり頭ごなしに部下をなじった。だから部長と同じように呪詛と一緒に瓶づめにしてやった。その次の上司もその次の上司も。結局転職したが、転職先の会社でも、自分をなじりバカにする奴ら、自分を認めてくれない奴らをみんな瓶詰めにした。

 最近では職場でもそうでなくても信用にあたいしない奴らを全員を瓶詰めにしている。一見にこにこしているが裏で自分の陰口を言っていそうな奴ら、自分を悪く思っていそうな奴ら、自分を見下した目で見てくると思う奴ら、自分をこれからバカにしそうな奴ら全員をだ。

 その数はもう数えられなかった。

 だれもかれも当然の報いだ。これからもどんどん瓶づめにしていこう。

 部下はもうだれのことも信用できなくなっていた。

  

 部下は気づかなかった。自室が暗い巨大な空洞になっていることを。そして外側からは、大きな瓶の底で、小さな部下が無数の小瓶に囲まれ縮こまっているのが見えていることを。

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