第464話 特待生選抜試験~野手編~③

(確かあの時に名刺を渡しておいたんだったな。それでわざわざ鹿児島からきてくれたのか。にしても、たったの1年で随分成長したようだな。体が一回り大きくなったおかげか飛距離が格段に伸びている)


 中村が再びゴルファーのようなバッティングフォームで構えると、ピッチングマシーンから2球目の球が放たれようとしていた。


(これだけ成長してるなら、もしかしたら低めの球しか打てないあの弱点も克服してるかもしれんな)


 しかし、そんな鈴井監督の期待は脆くも崩れ去った。


「パンッ!」


 真ん中高めにきた普通なら打ち頃の球を、あっさりと見送る中村。その後も……。


「パンッ!」


「パンッ!」


 3球目の内角寄りの真ん中くらいの高さにきた球、そして4球目の外角高めにきた球と、3球連続で見送る中村。


(全然克服できてなかったか。まあ物理的にあのバッティングフォームじゃ低めしか打てないよな。あの時は面白そうだとつい軽い気持ちで名刺を渡してしまったが、ここまで弱点がはっきりし過ぎていると、なかなか活躍するのは難しそうだな。でも……)


「カキーン!!!」


 外角低めにきた球を捉えると、打球は右方向へグングンと伸びていき、ギリギリフェンスを越えるホームランとなった。その後も中村の打撃試験は続き……。


「パンッ!」


「カキーン!!!」


「パンッ!」


「パンッ!」


「カキーン!!!」


 結果はヒット性の当たりが4本と、鈴井監督が考えていた合格ラインの5本には1本だけ届かなかった。しかしながら、鈴井監督は悩んでいた。


(確かに合格ラインには1本だけ足りなかったものの、ヒット性の当たりはホームラン2本を含む長打ばかり。低めの球なら確実に捉えられるバットコントロールに加えこのパワー……二次試験で吉田、川合、比嘉相手にどこまでやれるのか、純粋に見てみたい。よし、おまけで合格にするか)


 そして、今日最後となる101人目の打撃試験が始まろうとしていた。


(投手の試験ではラスト2人が凄い逸材だったからな。この流れなら、こいつも期待できるかもしれんな)

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