第431話 安達弾VS万場弟①
安達が打席に立つ様子を見ながら、戸次監督は冷静にこの打席の勝負の行方を分析していた。
(安達弾……ほんまどえらいバッターやわ。明らかに実力が高校生離れしとる。こいつならもしかしたら、うちの万場兄弟の無敵のサイドスローをも打ち破る可能性がないとは言い切れん。しかし、それはあくまでこの試合を通しての話。ことこの最初の打席だけに限れば、まあ十中八九浩二が抑えるやろな。いかに安達が凄いバッターとは言え、初見からあのサイドスローの投球を捉えられるとは思えん。まあ厳密に言えば、1年前の練習試合で対戦しとるから初見ではないんやけどな)
そんな分析をされているとはつゆ知らず、安達は静かに闘志を燃やしていた。
(約1年前、俺は練習試合であいつにあっけなく三球三振に抑えられてしまった。それも初めて対戦する左のサイドスローにビビりまくって、尻餅を2度もつかされて。俺の野球人生の中でも、あれだけの屈辱を味わされたは初めての経験だった。もうあんな思いをするのはまっぴらごめんだ。絶対にリベンジを果たしてやる!)
万場弟に対してここまで思い入れがある安達とは対照的に、万場弟の方はというと特に安達に対して何の感情も抱くことのないまま、いつも通り淡々と投球フォームに入っていた。そんな落ち着き払った万場弟の様子を見て、戸次監督も安心し切っていた。
(お前ら兄弟がいつも通りの投球を普通にできさえすれば、例え相手が安達だろうが初見ではまずヒットすら打てへんやろ。それどころか、バットに当てることすら困難……)
戸次監督がそんなことを考えていた矢先、その考えを根底から覆す事態が巻き起こった。
「カキーン!!!」
バットに当てることすら困難、そう思われていた万場弟の初球を、安達はいきなり捉えたのだった。ちなみに、安達の打った球は奇しくも1年前の練習試合で安達が万場弟に初めて尻餅をつかされたのと同じ、内角高めいっぱいへのカーブだった。
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