第31章 夏の甲子園開幕

第379話 古田の左

 2017年8月8日。夏の甲子園が開幕したこの日の第2試合、優勝候補の大阪西蔭高校が出場した。


      123456789 計

 大阪西蔭 412130151 18

 山梨黒根 000000000 0


 結果は18対0。まるで地方大会の初戦でいきなり強豪校に当たってしまった弱小チームとの試合かと勘違いしまうほど、一方的な試合展開だった。無論、山梨黒根高校は決して弱小チームではない。山梨の県大会を勝ち上がってきた山梨を代表する強豪校だ。そんな強豪校すらまともな相手にならないほど、今年の大阪西蔭は例年にも増してずば抜けた戦力を有していた。


 そんな大阪西蔭高校と、順調に勝ち上がれば3回戦で当たることになる船町北高校と秋田腕金高校の両チームは、共にこの試合をリアルタイムでは見ていなかった。なぜなら、明日の第2試合で対戦することになるお互いのチーム研究や練習にギリギリまで時間を費やしていたからであった。


 この日の夜、両チームでは共に明日の試合に向けてのミーティングが行われていた。まずは船町北高校のミーティングから。


「ようし、ではここ数日の間に調べた秋田腕金高校の情報について確認していくぞ。まずはエースの古田から。明日の試合に勝てるかどうかは、古田を攻略できるかにかかっていると言っても過言ではない。ではまず、二刀流古田の左についての情報から整理していこう。まずは持ち球だが、横に変化するスライダー、手元で小さく変化するカットボール、縦に大きく落ちるカーブ、ブレーキのかかった落ち方をするチェンジアップ、鋭い落ち方をするフォーク、この計5種類だ。どれも厄介な変化球だが、それ以上に1番厄介なのがストレートだ。平均速度は143キロ。最高球速は150キロ。だがこの球速以上に恐るべきは、そのキレだ。下手したら、うちの比嘉のストレートにも匹敵するかもしれん」


「はあ? 俺のストレートの方が上っすよ」


 不満そうな顔をしながら、鈴井監督に食ってかかる比嘉。


「まあ実際のところは、直に対戦してみないと何とも言えんな。だが、これだけ多彩な持ち球があるにも関わらず、配球の約半分がストレートに偏っていることからも、古田がそれだけ自分のストレートに自信を持っているということがうかがえる。二刀流の影響で左の練習時間が削られる分、去年に比べて左の投球はしょぼくなってるんじゃないかとちょっとは期待していたんが、実際はその逆だった。今まで過剰気味だった練習時間が削られたことで、いい具合に休息を挟みながら練習できたことがプラスに働いたのだろうな。去年に比べて球速は5キロ以上上がっているようだし、キレも増している。普段比嘉のストレートを見慣れているお前達でも、古田のストレートを打ち返すのは容易ではないぞ。では次に、古田の右の情報を整理していこう」

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