第360話 病院と脱走

 船町北高校が念願だった甲子園出場を決め、監督や選手達は様々な取材やインタビューに終われていた。こんな状況では、ついつい浮かれて長話でもしてしまいがちだが、監督はできるだけ手短に取材やインタビューを終わらせると、取材途中の比嘉を半ば強引に連れ出して病院へと向かった。


「監督、せっかく取材にきてくれてるのに失礼っすよ」


「今は取材よりも、お前の肩の状態を一刻も早く先生に見てもらう方が先決だ」


「ちょっと大げさじゃないっすか。一応80球の投球制限は守りましたし、速い球を投げたのだってラスト1球だけっすよ」


「その1球だけならって油断が大怪我に繋がるんだ。全く、無茶しやがって」


「いやいや、監督にだって責任はありますよ。あの場面でもしも本気の球を投げていなかったら、何球か粘られて投球制限を破ることになった上に、ヒットを打たれて逆転されてたかもしれません。肩への負担を最小限に抑えつつ勝つためには、ああするしかなかったんすよ」


「まあ確かに、あんなギリギリの状況で登板させなければならなかったのは、監督である俺の責任がないとは言い切れん。だが冷静に考えると、1番悪いのは四球を連発した川合じゃないか」


「確かにそうっすね。全部川合先輩が悪い」


 川合が悪いという結論がついたところで病院に到着した2人は、早速先生に状態を見てもらった。


「うん。大丈夫です。何の問題ありません」


「あー良かった。安心しました」


「だから言ったじゃないっすか。先生、実は今日の試合で甲子園出場が決まりまして、それで相談なんですが、もう投球制限は解除しても大丈夫じゃないっすかね?」


「いやいや、まだまだ油断は禁物ですよ。さっき身長を測りましたが、1か月で4ミリも伸びていました。まだまだ成長期の真っ最中で、体がちゃんとできていない今の状態で無理をしてしまうと、今度こそ取り返しのつかない怪我になりかねませんよ」


「ちぇっ、まだ投球制限が続くのかよ。全く、うんざりだぜ」



 船町北が甲子園出場を決めたその日、準決勝で三街道に敗れてしまった元絶対王者の龍谷千葉高校野球部では、ある事件が起きていた。


「監督、大変です!」


「どうした?」


「村沢が練習にいないと思ったら、部屋にこんな置き手紙が……」


 その置き手紙には一言、こう書かれていた。


『探さないでください』

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