第359話 永遠のライバル
「おい、安達!」
試合終了後の挨拶を終えた直後、安達をそう呼び止めたのは細田兄だった。
「俺はプロに行く。だからお前もプロになれ。俺達のライバル関係は、まだまだプロ野球の世界で永遠に続いていく。このまま勝ち逃げなんて絶対許さねえからな!」
細田兄は目を真っ赤に腫らしながら一方的にそう言い残すと、そそくさと立ち去っていった。
(勝ち逃げだと? 今日の勝負は完全に俺の負けだ。ただ、運良く風に乗って入ってくれただけ。ていうか、いつから俺と細田兄はライバルってことになったんだ?)
安達が呆然としていると、今度は細田弟の方が安達の元にやってきた。
「おい、安達! 俺達を破って甲子園に行く以上は、大活躍してもらわなきゃ困る。まっ、せいぜい大暴れしてくれよ。じゃあな」
余裕ぶった言葉とは裏腹に、敗北が決まった直後から未だ止まらない涙をボロボロ流しながら、細田弟はそそくさと立ち去っていった。
(年下の癖に何を偉そうに。それにしても、やっぱり兄弟だな。2人共よく似ている)
ベンチの方に戻って泣きながら荷物を片付ける細田兄弟を見ながら、安達はボソッと呟いた。
「プロか……」
「おい、比嘉!」
試合終了の挨拶を終えた直後、比嘉をそう呼び止めたのは角田だった。
「お前中々いい球投げるじゃねえか。2歳も年下だが、特別に俺のライバルとして認めてやろう。俺は一足先に、プロの世界で大活躍して新人王を取る予定だ。ライバルの俺に差を広げられたくないなら、これからもせいぜいしっかり練習に励んで、プロにスカウトしてもらえるよう頑張るんだな。じゃあな比嘉」
そう偉そうに言い残して去っていく角田を、比嘉は軽蔑の眼差しで見つめていた。
(うざっ。出会い頭とはいえ、あんな奴にホームランを打たれたかと思うと虫唾が走るぜ)
「鈴井監督、またこちらがやられてしまいましたね」
試合終了の挨拶を終えたあと、鈴井監督をそう呼び止めたのは三街道の大泉監督だった。
「いえいえ。前回の対戦でもそうでしたけど、今回も相当三街道さんには苦しめられましたよ」
「正直言いましてね、黒山君を始めとする3年生の強力なピッチャー達が卒業してからは、もううちが船町北さんに負けることはないと確信していました。それが、まさかここまで化けるとは。本当に凄いチームを作られましたね」
「いやー実は正直私も、去年の今頃は甲子園出場なんて無理だと諦めかけていましたよ。あれから1年、まさか甲子園に行けることになるとは。本当に選手達がよく頑張ってくれました」
「それにしても鈴井監督、安達君に加えて今年は比嘉君という逸材まで発掘してくるとは。一体どうやって見つけてきたんですか?」
「それは企業秘密です」
「じゃあせめて、最後の回の采配だけでも教えてくださいよ。なぜ満塁の3ボール1ストライクなんて状況に追い込まれるまで、比嘉君を出し惜しみしていたんですか? てっきり私は、比嘉君は投球制限でもされていてもう投げられないものだとばかり思い込んでいましたよ」
「それも企業秘密です」
「いやー鈴井監督は口が堅いなあ。次はいつ対戦することになるかわかりませんが、うちは1年生が主体の若いチームでまだまだ伸びしろがたっぷりあります。なので今度こそは、絶対にリベンジさせてもらいますよ。それではまたいつかお会いしましょう。あっ、最後に、甲子園出場おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
(大泉監督、中々鋭いな。これから甲子園を戦っていく上で、比嘉に投球制限があるという情報はできるだけ知られたくない。絶対にこのことは秘密にしておかないとな)
念願の甲子園出場を決めたばかりだというのに、鈴井監督はもう全国での戦いを冷静に見据えていた。
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