第356話 運命の4球目
「ボール!」
(くそっ、またボール球か)
2球続けてボール球を投じる川合に、苛立ちを隠せない鈴井監督。
「ボール!」
(あーもう! 1ストライクだけでいいんだ。頼む川合!)
しかし、そんな鈴井監督の願いは通じず……。
「ボールフォア!」
川合は1ストライクも取れないまま、ストレートでフォアボールを与えてしまった。これで9回裏2アウト満塁。船町北高校は1点をリードしながらも、絶体絶命の大ピンチを迎えていた。
「おい、吉田の様子はどうだ?」
「ダメです。全然トイレから出てくる気配がありません」
「そうか……」
(くっそーあと1ストライクだけでいいっていうのに、その1ストライクが果てしなく遠く感じる)
1番バッターの佐藤が打席に上がる。大泉監督は、相変わらずフォアボール狙いのサインを出し続けていた。
(甲子園出場がかかったこの大一番で、満塁の大ピンチ。こんな状況では、普段コントロールが安定しているピッチャーでも、中々普段通りの制球で投げるのは難しいものです。それが普段からコントロールの悪い川合君なら尚更のこと。さて、まずは押し出し四球で同点に追いついてやりましょう)
「ボール!」
(ナイスボールです)
「ボール!」
(その調子ですよ川合君)
「ボール!」
(よし! これでリーチです)
ノーストライク3ボール。押し出し四球での同点が目前に迫り喜びが隠し切れない大泉監督と、一喜一憂するのに疲れ果て、もはや考えるのをやめていた鈴井監督。そして、川合の手から運命の4球目が投じられた。
「ストライク!」
(まあまあ、まだ1ストライクです。落ち着いていきましょう)
内角の低めギリギリに何とか入ったストライクを見て、そう心の中で冷静に呟く大泉監督と、喜びを爆発させながらすかさずタイムを取って選手の交代を告げる鈴井監督。
「ライトの比嘉をピッチャーへ! ピッチャーの川合をファーストへ! ファーストの安達をレフトへ! そして最後に、レフトの山田をライトで!」
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