第341話 相乗効果
1番佐藤に続き、2番雨宮、そして3番田所も、今まで聞いていたデータよりもさらにキレが増して浮き上がってくる比嘉のストレートに困惑していた。
「ストライク! バッターアウト!」
(おかしいおかしいおかしい! 同じ試合中だぞ。それなのに、どうしてここまで進化してやがるんだ)
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
(尻上がりに調子を上げていくとか、そんな次元じゃねえ。なぜ急に、ここまで変わったんだ?)
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船町北 00010
三街道 01000
川合が先頭バッターをフォアボールで出塁させてしまう嫌な流れからの、3者連続三振で再び流れを引き寄せる圧巻の投球を披露した比嘉。比嘉に抑えられた3人のリアクションを見ると、一見比嘉が急成長を遂げて今まで以上にキレのあるストレートを投げたかに見えるが、実はそうではない。比嘉が投げているストレートの質は、今までとなんら変わっていない。ではなぜこの3人は、そのような錯覚をしてしまったのか? その答えは、比嘉が再登板する前に投げていた川合の投球にある。
先ほど説明した通り、川合の異常にキレのない棒球は、異常にキレのあるストレートを投げる比嘉の投球を見た後に目にすると、そのキレのなさがより際立って打ちづらくなる。この理屈は、川合と同様比嘉にも当てはまる。つまり、三街道のバッター達が初打席のフラットな状態で目にする比嘉のストレートよりも、2打席目で異常にキレのない川合の棒球を見た後の3打席目で目にする比嘉のストレートの方がよりキレの良さが際立って見えるという訳だ。
しかし、そのことに気付いていない三街道ベンチでは、1番比嘉、2番雨宮、3番田所と比嘉に抑えられたバッター達がベンチに戻る度に、比嘉のストレートがさらにキレを増してより浮き上がってくるという恐ろしい情報が共有されていった。
(ただでさえ異常なストレートだったのに)
(あそこからさらに進化したのかよ)
(こんなバケモン相手に、俺たちは追加点なんて奪えるのか?)
声にこそ出さないものの、三街道ベンチに弱気な空気が立ち込める。そんな空気を感じ取ってか、細田兄が仲間を鼓舞する。
「みんな、大丈夫だ。確かに比嘉は強敵だが、俺達が点を取られない限り負けることはねえ。そうだろ、雄二」
「だな、兄貴」
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