第9話 安達弾VS黒山聡太③

「カキ―ン!!!!」


 打球はセンター方向にグングン伸びていき、100メートルもある防球ネットを超えるギリギリの位置に突き刺さった。


「すげー!」


「めっちゃ飛んだな!」


「やべーよ安達!」


「さすが特待生!」


 勝負の行方を見守っていた部員達は、口々に安達を絶賛した。


(信じられない。あの最高のストレートをあそこまで運ばれるだなんて……)


 高校からずっと黒山の球を受けてきた鶴田にとって、今起きた出来事は信じ難いことだった。


(防球ネット去年10メートル延長したばかりなのに。これはあと20メートルは延長しないとダメそうだな。理事長追加予算出してくれるかな……)


 鈴井監督は金の心配をしていた。


「おい安達! 今のホームラン、ストレートを狙ってたのか?」


 思わず安達に声をかけたのは、たった今ホームランを打たれた黒山だった。


「いや別に。ストライクゾーンに入ってきたんでただ振っただけです」


(ただ振っただけって……こいつ、とんでもない天才だな)


「監督! 夏の大会と言わずに春季大会から安達を使うべきではないでしょうか?」


「黒山、お前切り替え早過ぎないか? さっきまでこんな素人にバックを守られたくないとか言ってたよな」


「切り替えが早いのは僕の長所です。せっかくうちの部にこんな天才が入ってきたんですから夏の大会の前に実戦経験を少しでも多く踏ませるべきだと思います」


「僕もそう思います」


「俺もそう思います」


「俺も」


「僕も」


 部員達は次々に黒川の提案に賛同した。


「まあ確かに一理あるな。これからどの程度安達の守備がものになるか次第だが検討してみよう。ただし、安達を先発で出場させるとするなら夏の大会のシード権が確定するベスト16まで残ったあとだ。それまでは代打要員としてベンチで待機してもらう。みんなそれでいいな」


「はい」


 安達の部活初日。ユーティリティープレイヤーだと思われていた安達の正体がバッティング以外野球ど素人だとばれてしまう波乱の幕開けとなったが、黒山との勝負で特大ホームランを放ち完勝したことで一気に部員達の信頼を勝ち取った安達は、無事船町北高校野球部の仲間として受け入れられることとなった。

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