◯目覚め〜◯けものフレンズ2へまで
◯目覚め
それから長い時間が流れた。
ヒトは去り、施設や機器といった文明は失われた。
パークに残されたフレンズ達も代替わりし、アムールトラの事を覚えている者はいなくなった。
それらがなくなってしまった後も、各地のラッキービーストは、
フレンズにジャパリまんを配給したり施設の補修を行ったりして、パークの管理を粛々と行っていた。
フレンズ達は、そんな彼らをボスと呼び、無口でよく分からないフレンズとして接していた。
ヒトの力が無くなった事で、セルリアンの脅威が高まるかに思われたが、独自に野生解放を身に付けたフレンズ達が多数現れ、セルリアンとの戦いは一定のバランスが保たれていた。
これは、彼女の事を忘れない、あるいは彼女の力になりたいといったフレンズ達の思いが、形となって現れた結果なのかもしれない。
ある日、パークで大きな地震が起こった。
これを結晶が動き出したと誤解したコンピューターは、すぐさま信号を送り、アムールトラを目覚めさせた。
長い眠りから目覚めたアムールトラは、瞬時にビースト化した。
そして檻を破ると、そのまま結晶に強烈な一撃を加えた。
しかし結晶は相変わらず沈黙していて、全く効果が無かった。
それに気付いた彼女はビースト化を解き、攻撃を諦めた。
それでも野生解放は止まらない。このままでは何もしないまま動物に戻ってしまう。彼女は必死に考えた。
アムールトラ『どうしよう。何か、他に出来ることは…。』
外から複数のセルリアンの気配を感じたアムールトラは、天井を突き破って外に飛び出すと雄叫びを上げた。
それを聞きつけて複数のセルリアンが集まって来た。
アムールトラはそれら全てを蹴散らした。吹き飛ばされたセルリアンの一体が、施設の壁に突っ込んで砕け散った。
これにより、檻の中にあったスケッチブックが飛ばされて、セルリアンの結晶の上に落ちた。
さらに砕けたセルリアンのカケラがふたつ、結晶に触れた。するとそこから2人の漆黒の羽を持ったフレンズが生まれた。
戦いが終わると、セルリアンのカケラの山の中に、アムールトラが立っていた。周囲は竜巻が起きた後のようにめちゃくちゃだった。
これでけものプラズムが一気に失われ、そのまま動物に戻るかと思われたが、なんと彼女は、セルリアンのカケラから輝きを取り込み、力を回復させた。
長い休眠の結果、飢餓状態に陥った彼女の体は、輝きを直接取り込んで、状態を維持出来るようになっていたのだ。
それからアムールトラは、セルリアンの気配を感じる度に、
そこへ駆け付けては戦って、輝きを取り込んだ。
輝きの効果は力の回復だけではなかった。
他人の輝き(楽しい思い出)に触れる事で、戦いだけだった彼女の心にも徐々に変化が現れ、穏やかな気持ちが芽生えていった。
しだいに他の事にも関心を持つようになっていった。
また、これを繰り返すうちにペース配分が出来るようになり、活動出来る時間が増えていった。
このように、セルリアンとの戦いは、彼女が生きてゆくために必要不可欠だったのだが、フレンズ達はあちこちで雄叫びを上げて暴れ回るアムールトラを怖がった。
彼女の性質上、意図せず周囲を破壊してしまう。雄叫びは、セルリアンを引きつけると同時に、フレンズ達を遠ざけ、被害が及ばないようにする合図でもあったのだが、それに気付いてくれるフレンズはいなかった。
◯ビーストダヨ
ある日、アムールトラは壊れたラッキービーストを見つけた。
それは彼女に向かって、何度もこう話しかけてきた。
ラッキービースト「ハジメマシテ。…クハ……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」
ところどころ音声が途切れている。
本来、ラッキービーストはフレンズへの影響を避けるため、ヒトの緊急時以外会話が出来ないようプログラムされている。
しかしこのラッキービーストは、壊れてその制限が失われたため、彼女に話しかけたのだった。
たまたまこの会話を耳にしたフレンズいた。
物陰から様子を窺うと、見慣れないフレンズがボス(ラッキービースト)と向かい合っていて、何か話している声が聞こえてくる。
そのフレンズはボスが話せる事を知らなかったため、アムールトラがボスに自己紹介をしているのだと勘違いした。
フレンズ『あの子、ビーストって名前なんだ。』
アムールトラは、しばらくラッキービーストの前に座っていたが、よく聞くとその声は、近くに落ちていた時計ほどの大きさの機械(本体)から出ていた。
本体「ハジメマシテ。……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」
彼女はもう言葉を話す事も、理解する事も出来なかったが、話を聞いているうちに、この子も一人ぼっちで寂しいんだと思った。
アムールトラ「ガゥ…(一緒に来る?私も寂しかったんだ)。」
彼女はそれを拾って毛皮にしまうと、その場を後にした。
それから、彼女がパーク中で暴れ回っている間も、本体はたびたび同じ台詞を口にした。それが完全に壊れて話をしなくなった頃、
パークには『自己紹介をしながら暴れ回るフレンズがいる』という妙な噂が広まっていた。
いつしか彼女は、フレンズ達からビーストと呼ばれ、避けられるようになっていた。
本体がしゃべらなくなって、アムールトラはまた一人ぼっちになった。
彼女はセルリアンと戦いながら、自分を受け入れてくれるお友達を必死で探した。戦って、避けられて、探して、また戦って…。
それを繰り返しながら、彼女は毎日パークを駆けずり回った。
◯かばんちゃんとサーバルキャット
かばんちゃんとサーバルの前に、セルリアンが現れた。ヒト(かばんちゃん)の輝きに引き寄せられたセルリウムが、かばんちゃんの背負っていた鞄を取り込んでセルリアン化し、2人に襲いかかってきたのだ。
サーバルが野生解放し応戦したが、強力なセルリアンで歯が立たなかった。そしてとうとうサンドスターを使い果たし、サーバルキャットの姿に戻ってしまった。その姿になっても懸命にセルリアンに立ち向かったが、ついに跳ね飛ばされて倒れてしまった。
かばんちゃんは、倒れているサーバルキャットに駆け寄った。
その背後からセルリアンが迫ってきている。
かばんちゃん『サーバルちゃんだけは助けないと。』
そう考えて、決死の覚悟でサーバルキャットに覆い被さった。
絶体絶命の状況に陥った2人の前に、
ビースト化したアムールトラが現れて、セルリアンを撃退した。
ビースト化を解き、彼女は助けた2人の様子を見た。
かばんちゃんは体を小刻みに震わせて、泣きじゃくりながらサーバルキャットを抱いていた。
サーバルキャットは傷だらけで、酷く弱っていた。
『サンドスターを浴びれば助かるかもしれない。』
咄嗟にそう考えたアムールトラは、かばんちゃんに「ガウウ(助ける。任せて)。」と言った(言葉が話せなくなっていたので、かばんちゃんには唸り声にしか聞こえなかった)。
そしてかばんちゃんの腕からサーバルキャットを奪い取ると、その首筋をしっかりと口に咥えて、輝きの気配のするサバンナに向かって、四つん這いで猛然と駆け出した。
かばんちゃんもビーストの噂は知っていた。
『サーバルちゃんが拐われて食べられてしまう!』と勘違いしたかばんちゃんは、必死にアムールトラの跡を追ったが、足の速いフレンズが相手では勝負にならない。
どんどん引き離され、あっという間に姿が見えなくなってしまった。かばんちゃんはガックリとその場にへたり込んだ。
するとそこへ、博士と助手が現れた。ラッキービーストの通信からかばんちゃんの危機を知り、急いで駆け付けたのだ。
2人はかばんちゃんを近くの建物に連れて行った。道すがら「フレンズは動物を食べない。」と、何度も言い聞かせて落ち着かせた。
2人はかばんちゃんを元気づけるため、カレーを作る事にした。
火は怖くて扱えないが、この建物には電気が通っていた。機材の中にあったホットプレートを使って、鍋でお湯を沸かした。
次に食材を探したが、ここにはお米と、カレーのとろみの素となる小麦粉と、味と香りを付けるための香辛料が無かった。
その代わりトウガラシがあった。辛ければどうにかなるだろうと、周辺に生えていたきのこや山菜と一緒に、刻んで鍋に放り込んだ。
しばらくして、禍々しい真っ赤な汁物が出来上がった。
3人で「いただきます。」を言って一口食べてみたが、3人とも派手にむせて、吹き出してしまった。
具材の大きさはバラバラで、生煮えで灰汁が抜けていない。
汁は苦くて辛いだけで旨味が無いと、とても食べられる代物ではなかった。(これを改良したのが激辛鍋)
博士「なんれふかこれは!とても食べられないれふよ、助手!」
助手「博士の指示通りに作ったのれふよ!」
目を潤ませ、真っ赤になった唇で文句を言い合う博士と助手を見て、かばんちゃんが笑った。少し元気が出て来たようだ。
その様子を見た2人は安堵した。
博士「闇雲に探してもサーバルは見つからないのです。」
助手「ここは誘拐犯のナワバリかもしれないのです。何か分かるかもしれないのです。」
何か手がかりが見つかるかもしれない。3人は建物を探索した。
ここは、かつてビースト計画(プロジェクト)が行われた研究所だった。かばんちゃんは研究所に残された資料を読み、アムールトラがビーストなった経緯を知った。また研究者の日記には、彼女を心配するパークの住人達の様子が細かく記されていた。
かばんちゃんは、彼女が悪いフレンズでは無いと判断した。
かばんちゃん「きっと、サーバルちゃんは大丈夫。」
そう確信したかばんちゃんは、すぐにでも追いかけてサーバルを探したかったが、再び自分がセルリアンを生み出して、パークのみんなを危険に晒してしまうかもしれないと考えると、それが出来なかった。
ここではセルリアンの研究も行われていたようだった。
もしかしたら対処法が見つかって、みんなと安心して暮らせる日が来るかもしれない。いや、どれだけ時間がかかっても必ず見つけ
出す。だからそれまで、
かばんちゃん「待っててね、サーバルちゃん。いつか必ず会いに行くからね。」
こうしてかばんちゃんは、博士と助手の3人で、セルリアンの研究に励む事になった。
☆
一方、サバンナに到着したアムールトラは、水飲み場にやってきた。走りっぱなしで息が切れていた。彼女はサーバルキャットを水辺に置き、泉に直接口を付けてガブガブ飲んだ。サーバルキャットは相変わらず、目を閉じたまま倒れている。
すると近くの山が噴火し、辺りにサンドスターが降り注いだ。
そしてサーバルキャットはサンドスターを浴びてフレンズの姿になった。彼女はホッと胸を撫で下ろした。
アムールトラ『よかった。でも記憶は無くしてしまっただろう。』
アムールトラはふと水面に映っているものに気付いた。それは厳つい手枷のついた腕と、野生動物のような大きな手をした自分の姿だった。それから倒れているサーバルを見た。その子の周りには、サンドスターがキラキラと輝いている。
それを見て、『この子と私では、住む世界が違うんだ。』と思った。彼女はサーバルを起こさないようにそっと離れると、物陰に隠れて様子を窺った。
しばらくするとカラカルがやって来て、サーバルに声をかけた。
するとサーバルは起き上がり、カラカルと言葉を交わした後、一緒に駆けて行った。
『仲間も出来たようだし、私がいなくても大丈夫だよね。』
そう判断したアムールトラは、その場から姿を消した。
この時、彼女はちょっとしたミスを犯した。
サーバルの命が助かった事で気が緩んでしまい、かばんちゃんの下へ送り返す事を、すっかり忘れてしまったのだ。
◯けものフレンズ2へ
それから更に長い月日が流れた。
アムールトラは各地で暴れ回り、ビーストと恐れられた。
かばんちゃんは博士助手と3人で、セルリアンの研究に励んでいた。成長し、フレンズ達からかばんさんと慕われていた。
サーバルは親友のカラカルと、サバンナで楽しく暮らしていた。
そんなサバンナの一画にある、かつてアムールトラが眠っていた隔離施設。誰もいないはずの施設から声が聞こえる。
そこには2つの黒い影の姿があった。
結晶から分離して生まれたカンザシフウチョウとカタカケフウチョウが、結晶に語りかけている。
カンザシ「目覚めの時が来た。」
カタカケ「己のなすべき事をなせ。」
そう告げると、二人は羽ばたきもせず宙に浮かび上がり、天井の穴から何処かへと消えた。
するとパキパキと音がしてセルリアンの結晶に大きなヒビが入り、表面が割れた。スケッチブックがその中に滑り落ちた。
中には小さくて四角い結晶が、たくさん敷き詰められていた。
他には水筒と鞄、先程滑り落ちたスケッチブックがある。
そして帽子を被った、あの子とそっくりな子が横たわっていた。
その子は起き上がると、あたりの様子を窺いながら、そろそろと扉を開け、おっかなびっくり施設の外に出て行った。
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