番外編 ※6話と7話の間のお話です
第28話 贈り物
※時系列でいうと、6話と7話の間のお話です。
アムールトラとお別れをした後、あの子が隔離施設から出ると、計画(プロジェクト)の中心人物だった研究者と、オレンジ色のラッキービーストを抱いたミライさんが声をかけてきた。
研究者「今日はよく来てくれたね。この子は、彼女と一緒にいたラッキービーストだよ。頼みがあるのだが、この子を連れて行ってくれないだろうか。君と一緒なら、彼女もこの子も喜ぶと思うんだ。」
彼は涙で濡れた顔を拳で拭うと、うなずいた。
ミライ「ありがとう。この子にはもう一つ機能があって、アムールトラさんが起きたらすぐ知らせてくれます。その時は、どうかこの子にも会わせてあげて下さい。お願いしますね。」
そう言うと、ミライさんは悲しそうに微笑みながら、彼にラッキービーストを手渡した。
家に帰った彼は、ラッキービーストを自分の部屋に連れて行った。そして足音に因んでポイポイと名付けた。
あの子「これからよろしくね、ポイポイ。」
ポイポイ「ヨロシクネ。サッソクダケド、アムールトラカラキミニめっせーじガアルンダ。」
するとポイポイのお腹についているレンズが光りだし、壁にアムールトラの映像が映し出された。
彼女はとまどいながらもこちらに手を振っている。日付を見ると、彼が研究所を訪れた日だった。
「え…と、話していいのかな?
やあ、元気かい?私は見ての通り元気だよ。今日はせっかく来てくれたのに、会えなくてごめんね。今キミの顔を見たら、何もかも投げ出して、すぐパークに戻ってしまいそうで怖いんだ。」
「今日は研究所のヒトが、私のために新しいお友達を連れてきてくれたんだ。ラッキービーストって言って、私の事をずっと見ててくれるんだって。小さくて丸っこくて、私と同じオレンジ色で、お話もできるんだよ。」
「この子から音がして、壁に私の姿が出てきた時はびっくりしたよ。この子は私の事を全部覚えてて、こうして伝えておけば、いつでも教えてくれるそうだよ。」
彼女は終始明るく話していた。
そんな彼女の瞳には、ポイポイの姿が小さく映っていた。
映像にはメッセージ以外にも、アムールトラの日々の生活が記録されていた。彼女は森林を模した部屋で過ごしていた。
朝起きて、実験の時間になると研究者が呼びにきて、部屋を出て、しばらくするとヘトヘトになって帰ってくる。それからご飯を食べて、気絶するように眠る。
翌朝起きて、出て行って、帰って来て、食べて、寝て。
それと起床後や食後に、身嗜みを整えてから彼宛のメッセージを述べる。彼女の生活は、大体この繰り返しだった。
彼はポイポイに頼んで、メッセージの部分だけ見せてもらう事にした。
この日、彼女は胸の前に鏡を掲げていた。そこにはポイポイの姿がはっきりと映っていた。
「この鏡?とか言う光る板を使えば、この子の姿がキミにも見えるんだって。ここのヒトが持ってきてくれたんだ。みんな優しいよ。
今日は少しだけど、野生解放ができたよ。やっぱり、キミの事を考えると強い力が出せるみたい。早くセルリアンをやっつけて、キミに会いたいよ。」
時折、研究者と話をしている彼女の姿が映った。
最初のうちはみんな明るい雰囲気だったが、日を追うごとに笑顔がなくなっていった。重苦しい空気が伝わって来て、見ていて胸が苦しくなった。
しだいに姿が変わってゆくにつれ、彼女は言葉がなかなか出てこなくなり、話もたどたどしくなっていった。
この日は、彼女の体から大量のけものプラズムが放出していた。
「困った。ビースト化してもセルリアン倒せない。けど頑張る。体、キラキラ止まらない。はぁ…、お腹空いた。」
これ以降、彼女は腕に厳つい手枷をはめて、眠っている事が多くなった。それでもけものプラズムの放出は続いていた。
しばらく寝顔を眺めていると、眠っていた彼女がモゾモゾと動いて、トロンとした目をしながらこう言った。
「あいたい。だいすき。」
これが最後のメッセージだった。
それからはムニャムニャと口を動かしたり、薄目を開けて少し唸ったりするだけだった。
映像が終わる頃には外はすっかり暗くなっていて、しとしとと雨が降っていた。彼は膝の上に置いた両手をぎゅっと握ると、こう呟いた。
あの子「待ってるよ、アムールお姉ちゃん。」
それから、あの子はポイポイを大切な友達として迎え入れた。
どんな時でも2人は一緒だった。
アムールトラはポイポイにメッセージを残してくれた。
映像の中の彼女は、困難な状況であっても辛いとか辞めたいとかは口にせず、いつも前向きだった。
だったら今度は、自分が記録を残して彼女に見せてあげる番だと思った。
そしていつか彼女が起きたら、真っ先に会いにいって、これまでの自分の姿を見せて一緒に笑おうと考えていた。
それから数年後、かねてからセルリアン襲撃事件やビースト計画(プロジェクト)の問題が取り沙汰されていた事もあって、ジャパリパークは閉鎖されてしまった。
それでも彼は、アムールトラを待ち続けた。
明日は会える、明日こそ会える、また明日…。
だが結局その日が来ないまま、何年もの月日が流れていった。
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