第27話 ♫おたんじょうび
ペパプライブ当日は、とても良いお天気に恵まれた。
会場となったホテルの屋上は、パーク中から招待されたフレンズ達でいっぱいだった。テーブルがいくつも並べられ、その上には食べ物や飲み物が用意されている。そしてブタがにこにこしながらテーブルを回って、それらを配ったり補充したりしている。
またヘリポートは、黄緑色のカーテンで仕切られた特設ステージとなっていた。大きなライトやスピーカーが設置されているが、その中の様子はカーテンが閉じていて見ることができない。
ついにこの日を迎えられて、オオミミギツネは感無量の面持ちでステージの前で涙ぐんでいる。ハブはその隣で、そんな彼女を誇らしげに見つめていた。
そうしてステージの端からマーゲイが現れて挨拶をした。
「皆さん、ようこそおいで下さいました。今日は思いっきり楽しんでいってくださいね。それではいよいよペパプの登場です、どうぞ!」
そんな彼女の呼びかけに合わせて反対側から5人のペパプのメンバーが現れ、ステージの中央に立つとそれぞれ挨拶をした。すると客席から拍手と歓声が上がった。
そしていよいよライブが始まるかに思われたが、プリンセスがこう言った。
プリンセス「ライブの前に、大切なお知らせがあるの。アムールトラ、ちょっとステージの上に来てちょうだい。」
突然アムールトラがステージに呼ばれた。何も知らない彼女は戸惑っていたが、ゴリラ達に背中を押されながらステージに上がった。
すると彼女の目の前で、スルスルとカーテンが開いていった。
そこにはでっかい『おたんじょうびおめでとう』の文字があった。
大きなパネルに一文字ずつ、色とりどりの文字が書かれていて、その周りには笑顔のみんなが描かれていた。
プリンセス「アムールトラ、おたんじょうびおめでとうの会を始めるわよ!」
先日のお茶会で、「アムールトラさんにお礼がしたい。」というキュルルの相談に乗ったかばんさんは、研究所で見た彼女の過去を考慮してお誕生会を開く事にした。
そしてお茶会に出席したメンバーが中心となって、彼女に内緒で準備が進められていたのだ。
アムールトラ「え…、えぇ…?」
思いがけない事が立て続けに起こったため、気持ちが追いつかずオロオロしているアムールトラ。
そこへ大きな拍手と共に、キュルルとイエイヌがステージに上がり、彼女にそれぞれプレゼントを手渡した。
それは、サーカス会場でショーを披露しているアムールトラがみんなと一緒に笑っている絵と、隔離施設で見つけた古ぼけたトラのぬいぐるみだった。
そして設置された大型スピーカーから、希望の歌のメロディが流れ始めた。それに合わせて、集まったみんなで歌を歌った。
そして『今は、さよなら』の後に、かばんさんが『いつか、おかえり』の一文を付け加えた。
歌が終わると再び大きな拍手が巻き起こり、みんなが口ぐちにおめでとうを言った。それを聞いて、アムールトラの目から大粒の涙が溢れた。
プリンセス「おめでとう!じゃあ一言みんなに挨拶を!」
と、プリンセスから彼女にマイクが渡された。
アムールトラは涙を拭って満面の笑みを浮かべると、みんなに向かってこう言った。
アムールトラ「みんな、本当にありがとう!」
そして彼女がマイクを一振りすると、なんとマイクが花束に変わった。それを見た客席からは、どよめきと歓声が上がった。
それから彼女は何事もなかったかのように花束からマイクを取り出すと、それらをペパプに手渡した。
信じられない…という顔をしているメンバーをよそに、フルルがマイクを振りながら首を傾げている。
フルル「あれ〜?いくら振ってもジャパリまん出てこないよ?」
イワビー「闇雲にやっても出るわけないだろ!」
相変わらずマイペースなフルルに、すかさずイワビーがツッコミを入れた。
コウテイとジェーンは、感慨深そうにうなずいている。
コウテイ「パークにはまだまだ不思議なことが沢山あるんだな。」
ジェーン「私たちも負けていられませんね。」
そしてプリンセスが明るく声を張り上げた。
プリンセス「それじゃあ、いつも以上に張り切っていくわよ!」
それを合図に、スピーカーからペパプの歌が流れ始めた。
するとステージの上空にトキ、ショウジョウトキ、クロトキの3人が大きなくす玉をぶら下げて現れ、バンドウイルカとカリフォルニアアシカがステージの前に進み出た。そして音楽に合わせて、アシカの組んだ手を足がかりにイルカが高々とジャンプしてくす玉を割ると、中からたくさんの花が飛び出してみんなの頭上に降り注いだ。
そんな花のシャワーとともにライブが始まった。
歌と音楽、そして歓声と拍手が、あたりいっぱいに響き渡った。
歌声を乗せた風は、あの隔離施設まで流れて行った。
施設の中はまるで時が止まっているかのように静まり返っていて、アムールトラが眠っていた檻の床には、砂埃が積もっている。
しかしよく見ると、そこに足跡がついている。それをたどってゆくと、うっすら砂の積もったアムールトラの手枷が置かれていた。
そして壁の穴から流れ込んだ風が砂埃を散らした。すると手枷のすぐそばの床から文字が現れた。
それはスケッチブックを置く際、やっと書けるようになった文字で、あの子が床に書いたものだった。たとえ読めなくても、いつか彼女が目覚めたら真っ先に目に入るように、との思いでここにメッセージを残したのだ。
そこにはたどたどしい筆跡でこう書かれていた。
『おかえりなさい、アムールお姉ちゃん。』
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