第22話 ◉永遠に(ずっと)一緒
キュルルは空中で姿勢を立て直すと、ヘリポートにふわりと着地した。
そしてこう呟いた。
キュルル「時は来た。」
それと同時に、海底火山が本格的に噴火した。空は厚い噴煙に覆われ、パーク中で巨大な地震が発生し、山が震え大地が裂けた。
何も知らないパークのフレンズ達は、そのあまりの光景にただ怯えるしかなかった。
もちろんホテルも無事では済まない。あちこちに亀裂が走り、部屋の壁が崩れ天井から瓦礫が降り注いだ。
それだけではない、屋上にいたフレンズ達の頭上には、巨大な噴石が次々と降ってきた。これに押しつぶされないよう、みんな必死になって逃げ回った。
そんな中、噴石がイエイヌをかすめた。すると毛皮から大切な絵が滑り落ちてしまった。
イエイヌ「あっ!!!」
イエイヌはすぐに手を伸ばしたが、絵は手をすり抜け、風に飛ばされてどこかへいってしまった。
一方のかばんさんはホテルが沈むと判断し、必死に舵を操って船をホテルにつけた。そしてみんなに、早く飛び乗るように言った。
かばん「急いで!運動が苦手な子には手を貸してあげて!」
すると、突如波が大きくうねった。
船は制御を失ってホテルに激突し、船体がへし折れた。危うくかばんさんは海に投げ出されそうになったが、すんでのところで助手が抱き抱え、そのまま飛び上がった。
そして空中から周りを見た2人は、目の前の光景に言葉を失った。
海底火山から放出された大量のセルリウムにより、海が真っ黒に染まってゆく。そして、ホテルの周りに発生した漆黒の巨大な渦が、フレリアンと船セルリアンをも飲み込んでゆく。
さらにそれはどんどん大きくなってゆき、見上げるような高い壁となって周囲を取り囲んだ。それはもはや渦というよりは、黒い水でできた竜巻だった。と、そこに複数の巨大な目が現れ、体からは何本もの細い腕が四方に向かって伸びてきた。それに絡みとられた船がそのまま渦に飲み込まれ、原型をとどめないほどバラバラにされてゆく。
すると渦セルリアンの巨大な目の一つが、かばんさんと助手をギロリと睨んだ。そして沢山の腕が2人目掛けて伸びてきた。助手はそれらを必死にかいくぐり、屋上へと向かった。
一方屋上では、渦セルリアンがホテルごとフレンズを飲み込もうと迫ってくる様を、みんな呆然と見つめていた。
もはや泳ぐのはもちろん、飛ぶこともできない。もうどこにも逃げる事はできなくなってしまった。
そこへ助手がかばんさんを抱えて、サーバルキャットの近くに着地した。
降りるやいなや一瞬で状況を把握したかばんさんは、すぐさま駆け寄ろうとした。しかしサーバルキャットは牙をむき出し全身の毛を逆立てて、かばんさんを威嚇した。
かばん「どうしたの?私、かばんだよ!」
かばんさんが戸惑っていると、突然サーバルキャットの足元が崩れた。
「サーバルちゃん!」
それを見て、かばんさんはこう叫びながらとっさに手を伸ばしたが、サーバルキャットは瓦礫と一緒に暗い穴の中へと落ちていった。
かばんさんは呆然と穴を覗き込んでいたが、今にも飛び込んで行きそうだった。
カラカル「待って!あたしも一緒に…。」
その事に気付いたカラカルもついて行こうとしたが、博士と助手がそれを止めた。
博士「ここは我々に任せるのです。」
助手「お前は早くキュルルを止めるのです。」
そう言うと、2人はかばんさんを抱えて真っ暗な穴の中へと消えていった。
カラカルはサーバルの言葉を思い出し、キュルルの下へと走った。そしてその跡を、ビーストも追いかけた。
すると周囲にフッと影が差した。見上げると、空から巨大な噴石が2人めがけて一直線に落ちてきている。
カラカル「潰される!」
カラカルがそう思った瞬間、
ビースト「ガアッ!」
ビーストが雄叫びと共に体当たりし、カラカルを突き飛ばした。
ドズゥゥゥン!
そして、地響きと共に辺りに轟音が響き渡った。
カラカルはすぐに立ち上がり後ろを振り向いた。すると巨大な噴石がビーストを押し潰していた。彼女は一刻も早くビーストを助けようと大岩にかじりついて持ち上げようとしたが、重くてびくともしなかった。
そこへフレンズ達が駆けつけて来た。そしてゴリラがこう言った。
ゴリラ「彼を止められるのはカラカルさんだけだ!ここは任せてくれ!」
カラカル「あんたたち…、ありがとう!」
サーバル、かばんさん、博士、助手、ビースト、フレンズ達、みんなが背中を押してくれている。
その思いを受け、なんとしてでもキュルルを止める、という強い決意がカラカルの胸に宿った。
そしてカラカルは毛皮から壊れたラッキービーストを取り出すと、噴石のそばに置いた。
カラカル「これ、あんたの落とし物。キュルルを連れてすぐ戻ってくるから、しっかりしなさいよ!」
そう言ってカラカルは駆け出した。
ゴリラ「頼んだよ。よしみんな、気合い入れろ!この岩を持ち上げてあの子を助けるんだ!戦える子はあのセルリアンの腕を防いでくれ!」
フレンズ達「おー!」
今までの戦いで消耗しているカラカルにとって、亀裂や噴石を乗り越えながら進むのは困難だったが、体の疲れを気にしている余裕はなかった。
一度に様々な事が起こりすぎて、頭の中がごちゃごちゃしている。それでも巨大な亀裂を飛び越えながら、なんとか考えをまとめた。
カラカル『こんな大騒ぎを起こして、ただじゃおかないんだから。おでこを弾くくらいじゃ済まさない。ひっぱたいで叱りつけて、みんなの前で謝らせる!覚悟しなさい!』
そしてカラカルは、ようやくキュルルの下にたどり着いた。
彼は体に黒い輝きをまとい、無機質な目をしている。
カラカル「キュルル、いい加減にしないと怒るわよ!こんなバカ騒ぎは早くやめなさい!」
だが必死に呼びかけたにもかかわらず、まるでカラカルがそこにいる事に気付いていないかのように、キュルルは何の反応も示さない。
そんなキュルルに、カラカルの方が気圧されてしまった。
カラカル「ちょっと聞いてるの?そうだ、これ持ってきたの。なくしたら困るでしょ?」
そう言って毛皮から帽子を取り出しても、彼の表情はピクリとも動かない。
カラカル「ねえ、あたしの声届いてる?あたしの事見えてるの?サバンナで出会って、一緒に旅をしてきたじゃない?サーバルやビースト、かばんさんや旅の途中出会ったみんなだって待ってる。こんな事はもうやめて帰りましょ?」
それまで凛と響いていた言葉が、濁った涙声になってゆく。
「おうちなら見つかるまで探せばいい。どれだけ時間がかかっても、パーク中を歩き回る事になったってあたしはついて行く。たとえ見つからなくってもいい、もうそんな事関係なく、あたしはキュルルと一緒にいたいの!」
とうとうカラカルは、今まで溜め込んでいた思いをぶちまけた。しかし精一杯の叫びも虚しく、キュルルはうつろな視線をカラカルに向けると、感情のこもらない声でこう言い放った。
キュルル「我々セルリアンは保存し、再現する。永遠に。」
ズキッ…!
その言葉は、カラカルの心に深く突き刺さった。
カラカル『なんだろう、前に誰かに同じ事を言われたような。』
彼女はもう覚えていないが、それはかつて女王セルリアンがフレンズ達に突きつけた言葉だった。
カラカル「この…!」
カラカルは思わずキュルルに手を振り上げた。だがそれは途中で止まり、小刻みに震えだした。
カラカルはキュルルにゆっくりと手を伸ばすと、能面のような顔にそっと触れた。そして膝をついて、ぎゅっと彼を抱きしめた。
今のキュルルには、何をやっても届かない。
そのことをまざまざと思い知らされ、胸がいっぱいになってしまい、もう何もできなくなってしまったのだ。
なら、せめて、
カラカル「ずっと一緒にいてあげる。」
そう言ってカラカルは目を閉じると、キュルルの肩に顔をうずめた。
すると彼女の目から一雫の涙がこぼれ、彼の左目の近くに落ちた。そしてそれはそのまま頬を伝って、一筋の道を作って地面に落ちた。
しかしキュルルは相変わらず、何も反応しなかった。
そして低い唸り声を上げながら、渦セルリアンが間近に迫ってきた。
渦に浮かんだいくつもの巨大な目が、フレンズ達を睨んでいる。
いつも前向きなフレンズ達の心にも、今回ばかりは絶望が暗い影を落としていた。
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