第21話 ◉はじめてのありがとう


海中にいた巨大セルリアンの気配がホテルにどんどん迫ってきている…、それを感じ取ったビーストは、泳いでそこへ向かっていた。

しかしその途中でヒトの輝きの気配を感じた彼女は、海面から飛び出して船の屋根に乗っかると、その場から下を覗き込んだ。


するとそこにはかばんさんと助手がいて、突然現れたビーストを驚いた様子で見上げていた。

かばん「ビースト⁉︎」

助手「なぜここに…?」


ビースト『ジャングルで助けてくれた2人だ、こっちじゃない。危ないのは…!』


ビーストが辺りを見回した。すると泳いている時は気づかなかったが、船のすぐそばには巨大な船型セルリアンがいて、そこから2つの影と同じ気配がする。

彼女はすぐさま屋根を蹴って船セルリアンの頭上まで高々と跳躍すると、それ目がけて急降下した。


近付くにつれ、それまで豆粒のようだった像が次第にはっきりしてきた。

船セルリアンの甲板にはスケッチブックを持ったキュルルが立っていて、その全身から黒い輝きが放たれている。

彼女はビースト化し、爪を振りかざして向かっていった。


キュルル「…‼︎」

だがすんでのところでキュルルが身をかわしたため、爪はスケッチブックに当たった。大岩をもやすやすと切り裂く爪に敵うはずもなく、スケッチブックはあっという間に粉々になり、かけらがあたりに散らばった。

そしてその勢いのまま、彼女は船セルリアンに強烈な一撃を叩き込んだ。


ズドォォン!

大音響と共に爪が甲板を引き裂き、凄まじい衝撃が船底を突き破って大きな穴が開いた。

キュルルはその衝撃で吹き飛ばされ、甲板に叩きつけられて動かなくなった。また船セルリアンは船体が大きくめり込み、低く唸った後、ブクブクと音を立てて沈み始めた。


こちらのセルリアンの気配が消えたため、彼女はビースト化を解除した。そして今度はホテルの屋上へ跳ぶと、空中で身を翻し、爪を閃かせてフレリアンを一掃した。するとそれを見たフレンズ達から感嘆の声が上がった。


残るは強力な3体のみとなった。そしてオオミミギツネ達がヘリポート用の照明を点け、3体がそれに気を取られた隙に、野生解放したサーバル、カラカル、ビーストが連携し、撃退した。


フレリアンが蹴散らされ、歓喜に沸くフレンズ達。それを見て役目を終えたと考えたビーストは、すぐにその場を立ち去ろうとした。

しかし、サーバルとカラカルに引き留められた。


サーバル「待って待って。やっぱりあなたはすっごく強くて優しいんだね!」


カラカル「待ちなさいよ!あのね、助けてくれてありがと。」


言葉の意味は分からないが、2人から感謝の気持ちがひしひしと伝わってくる。これまで何度もセルリアンと戦ってきたが、フレンズから怖がられる事はあってもお礼を言われたのは初めてだったため、ビーストはどう反応したら良いかが分からず、キョトンとしながら2人を見つめた。


するとカラカルがすまなそうな顔をした。

カラカル「あたし、あんたに謝らなきゃいけない。それに、渡したいものも…。」


そこへ再びセルリアンの禍々しい気配がした。3人はゾクッと身を震わせると、船セルリアンの方を見た。


甲板で大の字になって倒れていたキュルルの体から、再び黒い輝きが吹き出した。

彼はむくりと起き上がり、あたり一面に散らばっている絵のかけらを見つめた。すると、バラバラになった絵から輝きが溢れ出し、船セルリアンに流れ込んでいった。

それを取り込んだ船セルリアンの姿が変わってゆく。穴はみるみる塞がってゆき、側面に6つの小さな羽が生え、船首が裂け巨大な口が現れた。


そして船セルリアンは雄叫びを上げながら、海上から身を躍らせてフレンズ達に飛びかかって来た。

唸り声を上げながら、巨大な口が迫ってくる。


しかし次の瞬間、サーバル、カラカル、ビーストがビースト化し、3人一丸となって船セルリアンに飛び込んでいった。そして大きな目の下あたりに一斉に爪を叩き込んだ。


パワーアップしたとはいえ、ビースト化したフレンズ3人の同時攻撃をくらってはひとたまりもない。船セルリアンの体はくの字にひん曲がり、ものすごい勢いで海まで吹っ飛んでいった。

そして乗っていたキュルルは、ヘリポートに向かって落ちていった。



ビーストは空中で何度も回転しながら屋上に着地した。なんとか船セルリアンを撃退したは良いが、体は酷く消耗していた。

そして荒い息をしながら、『自分はともかく2人は大丈夫なのだろうか?』と心配になって様子をうかがうと、カラカルは同じように息を切らしていた。


一方サーバルは、全身をキラキラさせながら佇んでいた。度重なる戦いでサンドスターが尽きてしまったのだ、徐々にフレンズの姿がぼやけてゆく。


ビースト「ガァ…!」

それを目の当たりにしたビーストは、ショックのあまり思わず声が出た。


しかしサーバルは、そんな状態にもかかわらずビーストに屈託のない笑顔を向けた。

サーバル「また助けてもらっちゃったね、ありがとう。すっごくかっこよかったよ!」


カラカル「サーバル⁉︎あんた…っ」


それに気付いたカラカルは仰天し、自分の体の事など忘れてサーバルに駆け寄った。すると彼女は明るく笑いながらこう言った。

サーバル「キュルルちゃんのそばにいてあげて。」


カラカル「まって、サーバル!」


カラカルは必死に手を伸ばしたが、サーバルに触れる事はできなかった。彼女のサンドスターが、指の間をすり抜けて消えてゆく。

そしてあの言葉を最後に、彼女はサーバルキャットの姿に戻ってしまった。


カラカル「嘘、でしょ…。」


くりくりした目がポカンとこちらを見つめている。それを見たカラカルは、全身をワナワナと震わせながらガックリと膝をついた。

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