第20話 ◉真実
注)カコ博士の設定が変わっています。
幼い頃に両親を亡くし、襲撃事件の際セルリアンに襲われ取り込まれた。
→突然の事故で最愛の家族を失い、自らセルリアンを受け入れた。
船セルリアンに飲み込まれたキュルルは、闇の中を漂っていた。
するとすぐそばに、その闇よりも黒い2つの影が現れた。
カンザシ「ようこそ、我らが王。」
カタカケ「この日を夢見て幾星霜。だが思い返してみれば、長かったようでもあり、まばたきをする一瞬だったようでもある。」
キュルル「君たちは誰?」
カンザシ「我らは影。名を明かす必要はない。」
カタカケ「どんな光も、我らの闇の羽を照らす事はできない。」
キュルル「ここから出してよ。僕はおうちに帰らなきゃならないんだ。」
カンザシ「おうちとは何だ?なぜ帰らねばならないのだ?」
カタカケ「そもそもそんなもの何処にあるのだ?」
キュルル「それは、その…。」
カンザシ「それが何処にあるかは、お前自身が一番分かっているはずだ。」
カタカケ「そんなものは何処にも存在しない。」
キュルル「そんなの、確かめなきゃ分からないじゃないか!」
カンザシ「そうだな。探し続けていれば、認める必要はない。」
カタカケ「しかしその悪あがきもいつかは終わる。お前はそれに怯えながら、探し続けなければならない。」
カンザシ「だがそんな努力も徒労に終わる。」
カタカケ「最初から存在しないものを、見つける事はできない。」
一方的に否定され続けて、キュルルは苛立ちを隠せなかった。
キュルル「なんでそう決めつけるんだ!会ったばかりなのに、僕の何が分かるっていうんだよ!」
すると2つの影は、キュルルの顔をじっと見つめた。
カンザシ「どうやらあのヒトは、何も語らなかったようだな。」
カタカケ「ならば我らが語るとしよう。」
そして影が同時に叫んだ。
カンザシ&カタカケ「「刮目せよ!己のすべてを見届けるがいい!」」
するとあたりの闇に映像が映し出された。そこには白衣を着て特徴的な髪飾りをつけた、長い黒髪の女のヒトが映っていた。
彼女はカコ博士。熱心な研究者で、昼夜を問わず絶滅動物の研究と復元に明け暮れていた。それだけでなく、セルリアンにも強い関心を持っていた。
しかしある時、突然の事故で最愛の家族を失ってしまう。
もう言葉を交わす事も、一緒に過ごす事もできない。カコ博士は、今あるものは必ず消え去る不確かなものだと思い知った。
失意のどん底にあったカコ博士は、研究のため厳重に保管されていた一体のセルリアンを解放し、自分の輝きを心ごと取り込ませた。
セルリアンは取り込んだ輝きを保存し再現する。こうすれば、たとえ偽りでも家族に会えると考えたのだった。
心を取り込まれ意識を失ったカコ博士の体は、医療機関に運ばれた。一方、彼女の心はセルリアンの中で家族を探していた。
セルリアンはカコ博士の持つ最も強い、家族に関する輝きを再現した。これにより、彼女は再び家族に会うことができた。それは全身真っ黒で巨大な一つ目をしていて、はじめは驚かされたが、彼女にとても優しく接してくれた。
言いたかった言葉を伝えたり時には甘えてみたりと、永遠に繰り返される理想の家族との時間の中で彼女は幸せに過ごした。
たとえ偽りでもいい、もうこの時間を壊されたくないと、彼女は心の底から思った。
一方ヒトの心を取り込んだセルリアンは、他のセルリアンを統率する力を持った女王セルリアンとなった。
女王セルリアンはカコ博士の「家族に会いたい」という願いを歪んだ形で解釈し、彼女の家族の再現だけでなく、セルリアンを率いてこの世界の全てを取り込み、永遠に再現し続けようとした。
しかしその企みはフレンズによって砕かれた。力の大半を失った女王セルリアンは元の小さな姿に戻ってしまい、そこから一目散に逃げ出した。カコ博士の心も体に戻り、彼女は目を覚ました。
しかしこのセルリアンの中には、カコ博士の輝きの残滓である家族への願望と、女王の意思がこもった一片のかけらが残っていた。
そしてしばらくの間、このセルリアンは息を潜めていた。
その間、パークに束の間の平和が訪れた。
そんなある日、アムールトラのマジックショーが開催されることになった。会場に満ち溢れている強い輝きに引き寄せられたこのセルリアンは、アムールトラの心の闇をも感じ取った。
家族を殺され仲間も失った経験から、極端に一人ぼっちを恐れる彼女の心…これにかけらが共鳴し、その輝きを取り込んで一気に膨れ上がった。
そして再びセルリアンを統率するため、一番近くにいたヒトの心を取り込もうとしたが、またしてもフレンズに邪魔された。
しかし敗北が確実となった時、女王セルリアンの意思の隣で、カコ博士の輝きがこう告げた。
『目的を果たすにはヒトの心が必要不可欠だ。だが生きているヒトを使えば、必ずどこかで繋がりのある者が現れ邪魔をしてくる。しかし自分が一から作り上げたヒトならば、その心配はない。』
この頃にはもう、2人の意思の境界は曖昧になっていて、カコ博士の理性や感情といったものは失われつつあった。
この世の全ての保存と再現、それだけが2人の望みだった。
そして最後の力で辛うじて奪い取ったヒトの輝きをコアに閉じ込めると、これを基に完全なヒトのコピーを作り上げ、完成と同時に体ごと心を取り込む事にした。
それは非常に困難な作業だった。特にヒトの心は外部と関わる事で、どんどん成長してゆく。そんな予測不可能な変化をする心を再現するには、気の遠くなるような長い時間が必要となった。
しかしいくら時間がかかっても問題はなかった。
寿命を持たず、作業に飽きる事も苦痛を感じる事もないセルリアンにとって、重要なのはできるかどうかだった。
それと並行して、フレンズのビースト化に対応できるよう、輝きの力でコアを結晶化させた。これでもはや安泰と思われた。
しかし途中でアクシデントが発生し、かけらがフレンズ化して結晶の外に飛び出してしまった。だが幸い記憶はそのままだったため、コピーが完成するまでそばで見守り続けた。
時には隔離施設にセルリアンが入ってきた時もあった。その時は直接触れてこちらの思考を送り込む事で従わせ、来たるべき日に備えた。
そしてついにヒトの完全なコピーが完成した。後は息のかかったセルリアンがその心を取り込めば、女王に成り代わる王が誕生する。
しかしコピーはすぐにフレンズと出会って共に行動したため、迎えに行ったセルリアンはそのつど撃退されてしまった。
自身は幽霊のような存在で、できることといえばセルリアンを従えたり、周囲の危険を感じ取ったりする事だけで、フレンズにはなんの影響も及ぼせなかった。
だが同じ時の記憶を持ち続け、実験で不安定になったビーストだけはお互い干渉できたので、時には妨害し、時には利用した。
カンザシ「そしてようやく、お前を迎え入れる事ができた。」
カタカケ「お前は我々が作り出した完全なヒトのコピーだ。記憶だけでなく、技術も容姿も言動も心も、全て複製されたものだ。」
カンザシ「お前の記憶が曖昧なのは、輝きから再現するにはこれが限界だったからだ。」
カタカケ「オリジナルから奪った輝きは、書く力とアムールトラに関するものだった。お前が絵を描いたり、ビーストを信じ続けたりしたのはこのためだ。」
カンザシ「オリジナルは取り込まれた時、ここから出て安全な所に行きたいと願っていた。」
カタカケ「そのイメージを、お前はおうちに帰ると捉えたのだ。」
キュルル「僕には何もないっていうの!?でも大切な仲間がいるんだ。何度も助けてもらったし、今度は僕が守るって決めたんだ。」
それを聞いて2人が笑い出した。
カンザシ「守るだと?」
カタカケ「滑稽だな!」
動揺するキュルルを尻目に、2人は言葉を続けた。
カンザシ「その仲間をお前がおびやかすのだ。たとえここから逃れたとしても、お前の行く先々で、我々に従うセルリアンが何度でも迎えに現れる。」
カタカケ「それだけではないぞ。セルリウムに触れることで、お前が関わったすべてのものから強力なセルリアンが誕生する。」
カンザシ「その一つであるお前の絵が何をもたらしたか、よく見てみるがいい!」
すると映像が切り替わった。そこでは絵から生まれたフレリアンがホテルに集まり、フレンズに襲いかかっていた。
キュルルは頭を抱えながら、わなわなと震えた。
キュルル「そんな…。今までみんなが危ない目にあったのは、全部僕のせいだったの?じゃあもしかして海底火山も…。」
カンザシ「あれは自然の力だ。我々は感知する事はできても止める事はできない。」
カタカケ「噴火の時は間近に迫っている。そしてこれを皮切りに、パーク中で火山活動が活発になる。」
その言葉とともにまた映像が切り替わった。
そこに映し出されたのは、パークのいたるところで噴火する火山、噴煙に覆われた真っ暗な空、あちこちが大きく裂け、溢れ出た溶岩で焼けただれた大地、そして何もできないまま元の姿に戻り、そのまま死んでゆくフレンズ達だった。
だがセルリアンは活動し続けていた。
いつの間にか、2つの影はカコ博士と女王セルリアンの姿になっていた。そしてキュルルにこう告げた。
カコ「すべての物事は、いつか終わりが訪れる。輝きは失われ、元に戻る事はない。」
女王「ダガオ前ガ協力シテクレルナラ、ぱーくノ草一本、砂ノ一粒ニ至ルマデ再現デキル。」
カコ&女王「「我々セルリアンは保存し、再現する。永遠に。」」
残酷な事実を容赦なく突きつけられたキュルルは絶望し、拒む力を失った。そこへすかさずカコ博士と女王セルリアンがキュルルに飛び込むと、その体が黒い輝きに覆われた。
そしてついにキュルルはセルリアンの王となった。
スケッチブックから大量のフレリアンが現れ、キュルルの周りを取り囲み指示を待っている。ホテルからはまだフレンズの輝きの気配がする。キュルルは手始めに、彼女達を取り込むことにした。
そしてキュルルが手をかざすと、船セルリアンが浮上し始めた。
☆
バァン!
けたたましい音と共に、屋上のドアが弾け飛んだ。するとドアの破片と一緒にゴリラ型フレリアンが水平に吹っ飛んできて、海へ落ちていった。
壊れたドアの向こうには、ゴリラをはじめとした各地のフレンズ達が立っていた。
かばんさんに連れられて、パークとキュルルの危機に駆けつけてくれたのだ。そしてフレリアンを蹴散らしながら、ここまで登ってきたのだという。その中にはイエイヌの姿もあった。
そこへ博士と助手が現れた。
博士「お前達、無事で良かったのです。」
助手「ひとまずかばんの船で脱出するのです。」
下をのぞいてみるとアヅアエンの船がいて、その上でかばんさんが手を振りながら叫んでいる。
かばん「みんな、早くこっちに避難して!」
すると、突然海中から巨大な船セルリアンが現れた。それによって大波が起き、かばんさんの乗る船はまるで木の葉のように流されてしまった。それを見て、とっさに助手が救助に向かった。
その時ふとキュルルの匂いを嗅ぎ取ったイエイヌは、船セルリアンの方を見た。すると甲板に、大勢のフレリアンと一緒に黒い輝きをまとったキュルルが現れた。
イエイヌ「あそこにキュルルさんがいます!」
カラカル「キュルル!良かった、無事だったのね!待ってて、今助けに行くから!」
こう叫んで向こうに飛び移ろうとしたカラカルを、サーバルが引き留めた。
サーバル「待って!なんだか様子がヘンだよ!?」
キュルルはカラカルの呼びかけにも全く反応が無い。
そして無表情のままスッと右手を挙げると、フレリアンが一斉に向かってきた。その中には、サーバル型、カラカル型、ビースト型の強力な3体がいた。
フレリアンが甲板から次々と屋上に飛び移ってくる。さらに壊れたドアからも、倒し損ねた個体が入ってきた。フレンズ達は必死に応戦したが、強力な3体の力も加わった相手にしだいに押されていった。
一方助手は船に追いつき、かばんさんの隣に着地した。
助手「大丈夫ですか、かばん!?」
かばん「平気だよ!早くあの子達を助けないと!」
かばんさんは船の体勢を立て直し、もう一度ホテルのそばにつけようとした。すると背後から水の跳ねる音がして、何かが屋根に乗っかった。
それに気付いた2人が振り向くと、そこにはずぶ濡れのビーストがしゃがんでいて、じっと2人を見つめていた。
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