第19話 ◉ジャパリホテル
注)ホテルの屋上の形が変わっています。イルカの形ではなく、普通のホテルと同じ平らな形です。
また、ラッキービーストはフレンズと会話はしませんが意思の疎通はできるので、頼めば船を動かしてくれる設定にしています。
セントラルパークに向かうキュルル達の前に、リョコウバトが現れた。彼女はパーク中を旅していて、様々なものを見てきたそうだ。ビーストを見なかったか聞いてみると、ホテルの方向へ向かったという。
そこでは近々ペパプのライブが行われるそうで、彼女はそれを見にきたらしい。目的地が同じなので、一緒にホテルに向かう事になった。
しばらく歩いて行くと桟橋があって、その向こうには海の中に建っている大きな建物があった。水面から3階分建物が見えていて、それより下の階は完全に沈んでいる。
リョコウバト「あれがジャパリホテルです。近くには遊園地をはじめとした様々な施設があったのですが、だんだん海の水が増えてきて沈んでしまいました。」
「ホテルの中はとても綺麗で、娯楽施設もあります。屋上にはヘリポートという場所があるのですが、ヒトが作ったものなので、何に使うのかは分かりません。あそこへは飛んで行ったり泳いで行ったり、船で行く事もできますよ。」
桟橋には一隻の船がとまっていて、緑色のラッキービーストが乗っていた。リョコウバトがホテルへ行きたいというと、ラッキービーストが船を動かしてくれた。
こうして一行は、船でホテルに向かった。
☆
イエイヌの心はざわざわしていた。キュルル達は大丈夫だと何度も自分に言い聞かせたが、嫌な予感がして仕方がない。でもお留守番も大切だ。
お茶を飲んでみても落ち着かない。部屋の中をうろうろと歩き回りながら悩んでいると、壁に立てかけてあったフリスビーが目に留まった。
イエイヌ「遊んでもらえて嬉しかったなあ。また来てくれるでしょうか。」
思い返してみると、キュルル達がここに来てくれたのは、センザンコウ達にヒトを連れてきてとお願いしたからだ。もしお留守番を続けているだけだったら、会えなかったかもしれない。
イエイヌはこう呟いた。
イエイヌ「やっぱり、待ってるだけじゃダメですよね。」
お留守番よりもキュルルを気にかける気持ちが勝り、イエイヌはセントラルパークへ行く決心をした。
留守の間誰かに壊されたりしないように、大切な絵は持って行く事にした。それを大事に毛皮にしまうと、キュルルの匂いを頼りに跡を追いかけた。
☆
ホテルでは支配人のオオミミギツネが、ニコニコしながらライブ会場の準備をしていた。
ブタとハブは少し離れた所で掃除をしていたが、そんな彼女の様子を、ハブはじっと見つめていた。そして視線を動かさずに、隣で鼻歌を歌いながら掃除をしているブタに声をかけた。
ハブ「支配人、幸せそうだな。」
ブタ「長年の夢が叶うんですからね、本当によかったです。」
ハブ「なあ、いまさら掃除なんて、やらなくてもいいんじゃないか?どこもかしこもピッカピカだぜ?」
ブタ「私はお掃除大好きなんですよ。それより…。」
耳の良いオオミミギツネに聞こえないよう気をつけながら、ブタはハブにこう耳打ちした。
ブタ「ひょっとしてハブさんは、『ライブを一緒に楽しもう』って、支配人を誘うタイミングをうかがっているんですか?あんまりサボってると嫌われちゃいますよ?」
図星を突かれ、真っ赤になりながら小声で言い返すハブ。
ハブ「んなっ、何言ってんだ!?」
ブタ「ふふっ、お掃除お掃除〜♫」
オオミミギツネは2人が話をしているのは気づいていたが、内容までは分からなかったため、ハブがヒマそうにしていると思って声をかけた。
オオミミ「ハブさん、手が空いているなら、こっちに来て手伝ってください。」
ハブ「へーい。バレてないよな…?」
ブタ「フフフ、頑張ってくださいね。」
その時、受付のベルの音がした。
☆
キュルル一行はホテルにたどり着いた。他にも誰か来るかもしれないので、船には一旦引き返してもらう事にした。船ラッキーにお礼を言って別れた後、非常口と書かれたドアから中に入ってみると、小さいテーブルが置かれていて、その上に呼び鈴が設置されていた。鳴らしてみるとオオミミギツネ達がやってきて、一行を出迎えた。
オオミミ「いらっしゃいませ、ようこそジャパリホテルへ。
私は支配人のオオミミギツネ。こちらは従業員のハブさんとブタさんです。」
キュルル「こんにちは。聞きたい事があるんですが…。」
キュルルはオオミミギツネ達にビーストとかばんさんの事を聞いてみたが、2人ともここにはいなかった。
キュルル「かばんさんがパークの危機って言ってたんですけど、何かおかしな事はありませんか?」
オオミミ「危機、ですか?…さあ、これといって。地震なら以前から時々起こっていますし」
具体的にそれが何なのかは、キュルル達にも分からない。
とりあえずかばんさんが到着するまでの間、ホテルに滞在する事にした。
オオミミ「ブタさん、この方達をお部屋に案内してください。」
ブタ「分かりました。どうぞ皆さん、こちらですよ。」
案内された部屋はとても豪華で、キュルル達は大はしゃぎした。
そして一通りホテルの中を見て回った後、キュルルはリョコウバトにこう尋ねてみた。
キュルル「リョコウバトさんはパーク中を旅してるんですよね。ヒトが暮らしている場所を見た事はありませんか?」
リョコウバト「ええと、ジャングルの奥の研究所で暮らしているヒトがいると聞いた事はありますが、実際に会ったのはキュルルさんが初めてです。それ以外にはちょっと…。」
それを聞いたキュルルは、ショックでふらりとどこかへ行ってしまった。カラカルは心配になり、跡を追いかけた。
キュルルは屋上のへりに立って、海の向こうを見ながら絵を描いていた。そこには今まで出会ったフレンズ達が描かれている。
キュルルは旅の間、誰かと会うたびにこのページに描き足してきたが、オオミミギツネ達を描いたところで、ページはいっぱいになった。
キュルル『僕のおうち…。優しくて、あったかくて、安心できて…。あれ?これって…。」
そのイメージが、いつも隣にいるカラカルと重なった。
いつの間にか、キュルルの心の中で彼女はとても大きな存在となっていた。それだけに、おうちが見つかったらお別れしなければならないと考えると、胸が張り裂けそうになった。
そこへカラカルがやって来て、元気が無いキュルルを励まそうと声をかけた。
カラカル「こんな所で何してんの?」
キュルルはビクッとした後振り向いた。
キュルル「カラカル、ここも僕のおうちじゃないみたいなんだ。でももう手がかりも無くなっちゃったし。あまり考えないようにしてたんだけど、もしかしたらおうちなんて、どこにもないのかもしれない。」
でもカラカルがそばにいてくれるなら、悲しくなんかない。そうキュルルは考えていた。
一方カラカルも、おうち探しと関係なく、ずっとキュルルと一緒にいたいと考えていた。少しの沈黙の後、2人は同時に話しだした。
キュルル「あのね、カラカル…。」
カラカル「あのね、キュルル…。」
すると突然、ホテルが激しく揺れ始めた。
☆
オオミミ「噂のビーストにパークの危機…、気になりますね。」
オオミミギツネはどうするか考えていた。しばらく悩んだ末、ライブは一旦延期し、避難する事を決めた。そんな彼女を称えるハブ。そこへブタが慌ててやって来た。
彼女が指差す方を見ると、窓の外から無数のフレンズ型セルリアン(以下フレリアン)が3人を見ていた。そして海底の暗がりから巨大な船セルリアンがヌッと現れ、そのままホテルに体当たりした。
その衝撃でホテル全体が激しく揺れた。窓が割れ、大量の海水と共にフレリアンが入り込んできて、うねうねと蠢いた後、フレンズ達に襲いかかって来た。
☆
突然の揺れでキュルルはバランスを崩し、屋上から落ちた。
キュルル「うわーっ!」
カラカル「キュルル!?」
カラカルは咄嗟に手を伸ばしたが間に合わない。キュルルはそのまま、スケッチブックを抱えながら海に落ちてしまった。
海が怖いカラカルは、水面を見て一瞬躊躇したが、意を決してキュルルを助けに海に飛び込んだ。
はじめての海の水は冷たく、うまく体を動かせない。必死に目を凝らしたが、あたりにキュルルの姿は見当たらない。すると海の底に何か黒くて大きなものが蠢いていた。
危ないと思ったが、いくらもがいても体が浮かない。だんだん息が苦しくなってきて、視界が暗くなってゆき、意識が朦朧とし始めた。
その時、誰かがカラカルの体をがっちり捕まえた。
気がつくと、カラカルはホテルの屋上に寝かされていて、サーバルとリョコウバトが心配そうな顔でのぞき込んでいる。
その隣に、バンドウイルカとカリフォルニアアシカが立っていた。
イルカ「大丈夫?私達海のご機嫌がすごく悪くなったから、かばんさんより先に様子を見にきたの。」
アシカ「そうしたら、カラカルさんが溺れているのを見つけたんです。」
カラカル「助けてくれてありがと。ねえキュルルを知らない?先に海に落ちたの。」
2人は顔を見合わせた後、キュルルの帽子を差し出した。
イルカ「その、言いづらいんだけど…。」
アシカ「キュルルさんは大きな船の形をしたセルリアンに飲み込まれてしまったんです。私たちの力では、これを持ってくるだけで精一杯でした。」
それを聞いてカラカルの顔が青ざめた。そして帽子を受け取ると、ギュッと抱きしめた。そこへサーバルがこう言った。
サーバル「あのね、カラカルとキュルルちゃんがいない間に、大変な事になってるの。」
リョコウバト「大きな船の形をしたセルリアンが現れて、ホテルにぶつかってきたそうなんです。すると窓が割れて、そこから大量の海水が流れ込んできて、下の階はあっという間に沈んでしまいました。それと一緒にフレンズの姿をしたセルリアンが何体も入り込んできたので、私達は必死にここまで逃げてきました。」
「どうしようか考えていたら、イルカさんとアシカさんが、カラカルさんを抱えて飛び込んできたんです。出入り口のドアが開けられないようオオミミギツネさん達が押さえてくれていますが、いつまでもつか…。」
観音開きのドアの取手につっかえ棒が渡されていたが、ドアを叩く音はどんどん大きくなってゆく。しだいに棒がひび割れ、ドアの形が歪み、ちょうつがいが軋んだ音を立てはじめた。
ハブは扉を押さえながら、カラカル達に向かってこう叫んだ。
ハブ「くるぞ!」
カラカル達は戦いに備えて身構えた。
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