第15話 ◉ごめんなさい
影を追っていると、かつてパークの職員が生活していた宿泊施設が見えてきた。確かあそこにはイエイヌが一人で暮らしていたはず。ビーストは雄叫びを上げ、周囲に警戒を促した。
そこにたどり着く頃には夕方になっていた。
するとイエイヌのおうちの近くで、2つの影の姿がフッと消えた。
だが気配はその中から感じられる。玄関の扉は開いていて、どうやら今は留守にしているようだ。
警戒しながら中の様子をうかがうと、壁に一枚の絵が飾られていた。
ビースト『あの絵はもしかして。』
中に入って近くで見てみると、絵からあの子の匂いがする。
ビーストは懐かしさから、思わずその絵に手を伸ばした。すると絵の背後から2つの影が飛び出してきて、彼女に取り憑いた。
瞬く間に体が黒い輝きに覆われ、自分の意思では動かせなくなった。そしてキュルルの匂いを追って、体が勝手に走りだした。
森林を走っていると、キュルルとイエイヌを見つけた。ビーストは2人の前に飛び出すと、唸り声を上げながらキュルルに迫った。
するとイエイヌがキュルルを守るために立ちはだかり、ビーストに飛びかかってきた。
彼女は片手で払っただけでそれを弾き飛ばした。しかし地面に叩きつけられながらも、イエイヌは懸命に立ち上がろうとしている。
それを見たビーストは、イエイヌにとどめを刺そうと向かっていった。彼女の意思は必死に抵抗していたが、体を止める事ができなかった。
するとキュルルがイエイヌを庇った。その姿があの子と重なり、彼女の頭の中にあの子の声が響き渡った。
あの子「やめて、アムールお姉ちゃん!」
振り下ろした爪が、キュルルの眼前でようやく止まった。
次の瞬間、キュルルの危機によりビースト化に目覚めたカラカルが、頭上から飛びかかってきた。彼女はとっさに、カラカルの稲妻のような一撃を両手で防いだ。腕が痺れ、轟音と共に地面が大きく凹み周囲が吹き飛んだ。すると影が彼女の体から飛び出した。
カラカルは後方に跳んで、ビーストと距離を取った。
イエイヌとキュルルも吹き飛ばされたが、サーバルが空中で2人を受け止めて、ビーストから少し離れた所に下ろしてくれた。
体から黒い輝きが消え、正気に戻ったビーストがあたりを見渡すと、敵意を剥き出しにしているカラカル、傷ついたイエイヌとそれを支えるキュルル、2人の前に立ちはだかり、警戒しているサーバルの4人が、じっとこちらを見ていた。周りはめちゃくちゃになっていて、爪にはイエイヌの毛がついていた。
ビースト『みんなを守るって決めたのに。』
ビーストはいたたまれない気持ちになり、俯きながら
「ガゥ…(ごめんなさい)」と呟いた。
そして後ろを振り向くと、その場から一目散に逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます