第13話 ◉揺れる思い

注)希望の歌は漫画版に出てきました。歌詞はネクソン版のプロローグです。




かばんさんはハンドルを握りながらみんなに声をかけた。

かばん「みんな大丈夫?」


すると、屋根の上からゴリラ達の「どうにか。」という返事が返ってきた。


そしてサーバルが後部座席からこう言った。

サーバル「助けてくれてありがとう、私はサーバルキャットのサーバル!あなたは?」


かばん「サーバル…?」


その名前を聞いて、かばんさんは思わず振り向いた。すると目の前に、思い出のままの姿をしたサーバルがいた。そして胸の中が懐かしい気持ちでいっぱいになり、目頭が熱くなった。

じっとサーバルを見つめていると、腕につけたラッキーさんが注意を促した。


ラッキーさん「カバン、前ヲミテ」


その言葉が終わると同時に、車が石を踏みつけてガクンと揺れた。

みんな「わあ!?」


かばんさんは慌てて前を向いた。

かばん「ごめんごめん、しっかり運転するよ。私はかばん。ここのパークガイドだよ。この腕の小さいのは、ラッキービーストのラッキーさん。」


ラッキーさん「ヨロシクネ。」


サーバル「よろしくね、かばんさん、ラッキーさん。」


そしてカラカルとキュルルもお礼と自己紹介をした。


かばん「君はヒトなんだね。私もそうなんだ。」


キュルル「ええー!?」


ジャングルラッキーが言っていたヒトが目の前にいた事に、キュルルはとても驚いた。


すると屋根から声がした。

メガネカイマン「かばんさん、広場がめちゃくちゃにされちゃったんです。」


「あらかじめ時間と場所とルールを決めて、力比べをしてみたらどうだろう。」というかばんさんの提案で、そこで運動会が開かれる事になり、ジャングルのみんなで小石や落ち葉を掃除したりして準備を進めていたのだ。


しかし誰かが広場を荒らした事で、ジャングルの子達の間で言い争いが起きてしまった。一触即発の雰囲気の中、ゴリラはなんとか穏便に済ませられないかと考えていた。そこへキュルル達が通りがかった。


ゴリラ「こうなった訳を話した後、いくつか競技の内容を教えたんだ。それを聞いたキュルルさんが、スケッチブックで相撲を作ってくれて争いが収まったんだけど、これも壊されてしまった。」


かばん「そっか…。残念だけど運動会は後回しにして、まずはみんなで広場を元通りにしよう。」


それを聞いたキュルルは、さっきの子の事を思い返した。

キュルル「それもあの子がやったのかな?」


カラカル「もー、いきなりなんだったのよあいつ!」


イリエワニ「あれは素晴らしい一撃だった。今度は正々堂々手合わせ願いたいな。」


ゴリラ「もしかして、あれが噂のビースト?」


かばん「そう呼ばれてるね。あの子は言葉のやり取りができないし、常に野生解放状態だから、本人にそのつもりがなくても周囲を傷つけてしまう事もある。けど安心して。不器用だけど悪い子じゃないから。」


襲われたにもかかわらずあまり怖いと感じないのはそういう事だからかもしれない、とキュルルは考えた。

キュルル「じゃああの子、一人ぼっちなんだ。かわいそう。」


カラカルはそう説明されても半信半疑だった。

カラカル「うーん、ホントにそうなのかな?」


サーバルは感心した様子で言った。

サーバル「かばんさんは物知りだね、すっごーい!」


かばんさんは、はにかみながらこう言った。

かばん「ハハ、ありがとう。昔ちょっと関わりがあってね。」


かばんさんはこのやり取りから、サーバルはビーストにさらわれた事と、自分の事を覚えていないのだと判断した。あの時は動物の姿だったし、記憶を失ってしまったか、あるいは別個体かもしれない。なのでサーバルちゃんに会えた!という気持ちは、ひとまずしまっておく事にした。



かばんさんはゴリラ達をビーストから離れた場所に降ろした。

かばん「ここならあの子も来ないと思うよ。広場の事は、もう少し落ち着いてからにしよう。」


ゴリラ「助かったよ。ありがとうかばんさん。」


別れ際に、キュルルが彼女達に絵を手渡した。

キュルル「はい!ジャングルのみんなを描いてみたんだ。」


ヒョウ「おおー!」 


クロヒョウ「これうちらか!」


イリエワニ「見事なものだな。」


メガネカイマン「素敵な力ですよね。」


ゴリラ「ありがとう。おうちが見つかったら、ぜひまた来てくれ。」



その後で、キュルルが起きた時の様子と旅の目的を聞いたかばんさんは、何か力になれるかもしれないと考え、3人と一緒に住まいである研究所へと向かった。


かばんさんがハンドル近くのスイッチを押すと、スピーカーから音楽が流れてきた。それに合わせて鼻歌を歌いながら運転していると、隣に座っているキュルルが話しかけてきた。


キュルル「その音、なんなんですか?」


かばん「あ、ごめん、うるさかった?」


キュルル「いえ全然。こういうの、初めて聞いたので。」


かばん「これは歌っていうんだ。音だけじゃなく、それに合わせた言葉もあるんだよ。昔の記録を調べていたら見つけてね。いつ誰が、何のために作ったのかは分からないのだけど。」


それを聞いたサーバルが、後ろから身を乗り出してきた。

サーバル「なにそれなにそれ、聞いてみたーい!」


かばん「そう?それじゃあーーー」


かばんさんは曲を巻き戻すと、歌い出しからせつせつと歌い始めた。それはなんだか悲しい、けれどもとても綺麗で気持ちが揺さぶられる歌だった。すると歌を聞いていたサーバルとカラカルも、途中から一緒に歌いだした。そんな3人を見て、キュルルは目を丸くしながらじっと歌に耳を傾けていた。


歌が終わると、キュルルは感心した様子でこう言った。

キュルル「歌ってすごいなあ…。けどどうして2人とも歌えるの?」


サーバル「うーん、分かんないや!なんでだろう?」


カラカル「不思議なんだけど、自然と口から出てきたのよね。」


かばん「ゴリラさん達もそうだったんだ。もしかしたらフレンズみんなが歌えるのかもしれない。私は希望の歌って呼んでるんだ。」


キュルル「希望の、歌…。」


それを聞いたキュルルは、歌えなかった自分はやはりヒトで、フレンズとは少し違うのだなと考え、気持ちが沈んだ。

その様子に気付いたかばんさんは、微笑みを浮かべながら言った。


かばん「心配しないで。みんなと同じじゃなくてもいいんだ。キュルルさんはまだ起きたばかりで不安もたくさんあるだろうけど、好きな場所や得意な事は、探していればきっと見つかるよ。」


「ジャングルでは話を聞いただけで紙で相撲を作ったっていうし、さっきはビーストの事を思いやってくれたよね。君は賢くて器用で、とても優しいんだね。」


キュルル「えっ!?そう、なのかな…。」


褒められて嬉しい反面、恥ずかしくもあった。周りを見ると、サーバルもカラカルも笑顔でキュルルを見ている。すぐそばに支えてくれる仲間がいる事が分かって、キュルルは安心した。


しばらく進むと、厚い壁に囲まれた研究所が見えてきた。


サーバル「わー、でっかーい!」


カラカル「ここがあんたのおうちなの?」


キュルル「多分違う…けどなんだかワクワクするよ!かばんさんはここに一人で住んでるんですか?」


かばん「違うよ。アフリカオオコノハズクの博士さんと、ワシミミズクの助手さんと一緒に暮らしているんだ。」


そこへ助手が音もなく空から下りてきた。そして車の屋根に乗ると、逆さに身を乗り出して窓からぬっと顔を出した。

助手「お前達、研究所を案内してやるですよ。」


キュルル達「わあっ!?」




車は薄暗いガレージに入って行った。その中には一台のジャパリバスがあり、かばんさんはその隣に車を停めた。


研究所では博士が待っていた。

博士「かばん、助手、戻ったのですね。ビーストはどうなった… おや、珍しいお客が来たのです。」


かばん「ただいま博士さん。それは後で話すよ。この子達はおうち探しの旅をしていて、たまたまジャングルにいたんだ。知りたい事があるそうだから連れてきたんだよ。」


それを聞いた博士は胸を張った。

博士「何でも聞くと良いのです。我々は賢いので。」



かばんさん達は3人に研究所を案内した。ここにはラッキービーストのメンテナンスを行う機械もあり、数体のラッキービーストがその上に並んでいた。本体は外されて、前の台座に固定されていた。


その後、かばんさん達はお茶とお菓子で3人をもてなした。それからキュルルの話を聞いて見解を述べたり、セルリウムの研究を見せたり、セルリアンと海底火山の関係に気付いたキュルルの判断力に驚かされたりした。


そうこうしているうちに夕方になった。かばんさん達は3人に、今日はここに泊まるよう勧めた。夕食は定番の激辛鍋にしたが、警戒心の強いカラカルは食べようとしなかったので、あらかじめ用意しておいたジャパリまんと、きのこのスープをご馳走した。


ご飯を食べた後、3人はお風呂に入った。サーバルとカラカルは毛皮を着たままだったが、キュルルはどうにも違和感が拭えなくて、服を脱いで一緒に入った。


それからたくさんのベッドが並んでいる寝室に案内された。

窓のそばにカラカル、それからキュルル、サーバルと順に並んだ。


サーバル「面白いとこだね。辛いご飯も、最初はビックリしたけどおいしかった。カラカルも食べればよかったのに。」


カラカル「いいとこなのは分かるけど、あれだけはゴメンだわ。あんた火ィ吹いてたじゃない。キュルルはどう?」


キュルル「うん。もしかして、おうちってこういう所なのかもしれない。美味しいものがあって、みんなが笑ってて、あったかくて明るくて、安心できて…。」


サーバル「キュルルちゃんのおうちも、きっと素敵な所だよ。」


カラカル「あたし達と一緒に探せば、必ず見つかるわよ。」


キュルル「そうだね、ありがとう。」


それからしばらく話をした後、3人は眠りについた。




今夜は満月。博士と助手にビーストと車の中での事を報告した後、かばんさんは2階の自室で調べ物をしていた。すると部屋に助手が入ってきた。

助手「かばん、ちょっといいですか?」


かばん「どうしたのミミちゃん?」


そう呼ばれて助手の顔が赤くなった。

助手「……!!くれぐれも、お客の前ではそう呼ばないで欲しいのです。」


かばん「大丈夫、気をつけてるよ。それで何か用?」


助手は、ホウッと息を吐き出して仕切り直した。

助手「あの子供は、なんだか怪しいのです。うまく言えないのですが、フレンズともヒトとも違う、セルリアンに似た気配がするのです。」


「ですが無邪気で明るくて、とても危険な存在には見えないのです。博士も同じ意見で、ひとまず様子を見ると言っているのですが、いつか大事件を起こしそうな、嫌な予感がするのです。」


かばん「うーん、それは考えすぎなんじゃないかな?」


助手「なら良いのですが。かばんは何か気になる事はないのですか?」


かばん「そうだね、そばにいるとこう、違和感みたいなものがあるんだ。難しい事を考えられるのに、動作は誰かの真似をするのに必死というか。最近までずっと眠っていたそうだから、心と体がチグハグなのは、無理もない事なのかもしれないけどね。」


助手「おうちを探すと言っていましたが、ここの記録から察するに、キュルルはセルリアンの結晶から生まれたのです。教えてあげないのですか、かばん?」


かばん「難しいところだね。それを知ったら多分、すごく傷つくと思う。ビーストの事を詳しく話せないのも、それに触れないためだしね。もし教えるなら、旅を続ける中で自分の居場所を見つけてからじゃないと。

でも、あのまま行かせるのは不安なんだよね。私が一緒に行けたらよかったんだけど。」


そう言って、かばんさんはふと月を見上げた。




煌々と輝く月の光が、ガレージの窓から差し込んでいる。そこには、ジャパリバスの横に並んで立っている2つの影の姿があった。


カンザシ「今宵は満月。闇が謳い躍る夜。」

カタカケ「我らが王の目覚めを祝い、舞踏会と洒落込もう。」


その言葉が終わると同時に大きな地震が起こった。研究所が激しく揺れ、非常用の明かりがついた。寝室で眠っていた3人は、一斉に目を覚ました。


地震で研究室の棚が倒壊し、そこに保管されていたセルリウムが動き出した。するとそれはバスの輝きに引き寄せられてゆき、バス型セルリアンとなった。2つの影は、それにそっと触れると姿を消した。




外から大きな音がしたので、かばんさんと助手は窓に駆け寄った。そこからのぞいてみると、ガレージを破ったバス型セルリアンが、キュルル達が眠っている部屋めがけて猛スピードで走ってゆくのが見えた。


そこへ博士が部屋に駆け込んできた。

博士「かばん、大変なのです!」


かばん「分かってる、行こう!」


かばんさん達は大急ぎで彼らを助けに向かった。




外からバリバリという音が聞こえた後、いきなり寝室の壁が吹き飛んで、黒いジャパリバスの姿をしたセルリアンが現れた。

それは一つ目でキュルルを睨みつけると、後輪で立ち上がり、長く伸びた前輪のシャフトを触手のように蠢かしながら迫ってきた。


カラカルがとっさにキュルルを抱き抱えて逃げようとしたが、バス型セルリアンは前輪のついた2本の触手を振り回した。唸りを上げながら巨大なタイヤが突っ込んできて、カラカルの背中を直撃した。全身に激痛が走り、カラカルは意識を失って、まるで人形のようにぐったりとキュルルに覆いかぶさった。


キュルルはカラカルを支えながら、涙声で叫んだ。

キュルル「カラカル、しっかりして!」


そこへバス型セルリアンがにじり寄ってきた。それを見たサーバルは、ビースト化するために力を込めた。


すると部屋に博士と助手が飛び込んできた。2人は空中からバス型セルリアンに体当たりし、壁の穴から外へ押し出すとこう叫んだ。

博士&助手「今です、かばん!」


間髪入れずかばんさんの運転するジャパリバスが、猛スピードで突っ込んできた。かばんさんは運転席からサーバルをチラッと見ると、バス型セルリアンに突進し、3人がかりで壁に押し付けた。


ドォォン!夜の闇を切り裂く大きな音がした。

かばんさんはアクセルを目一杯踏み続けた。タイヤが物凄い音を立てて回転し、車体がガタガタ揺れている。博士と助手の爪が食い込み、バス型セルリアンの体にヒビが入り始めた。


それでもなお相手は抵抗を続けていた。2本の触手を大きく振り回して博士と助手を振り払うと、今度はジャパリバスにタイヤを叩きつけようとした。


ラッキーさん「キケン、キケン。」


警告を聞いても、かばんさんは笑みを浮かべていた。

かばん「大丈夫!」


その言葉が終わるより先に、ビースト化したサーバルが矢のような速さで飛び込んできて、一つ目の上に強烈な一撃を加えた。

バス型セルリアンの動きが止まった、かと思うと体が膨れ上がり、木っ端微塵に弾け飛んだ。


キラキラしたかけらが散らばる中、かばんさんはバスから降りてサーバルに駆け寄った。

かばん「やった!さすがだね、サーバ…。」


サーバルは、全身からけものプラズムを放出させながら弱々しく笑っていた。


かばん「‼︎」

サーバル「やったね、かばん、ちゃん…。」


そしてその場に膝から崩れ落ちた。


薄れゆく意識の中、かばんさんの声だけがわずかに頭に響いた。

かばん「サーバルちゃん!?しっかりして…」




かばんさん達は2人をベッドに寝かせた。

それから研究室に残っていた、最後のサンドスターの入った瓶を持ってきた。それをいくつか取り出して、まずカラカルの背中に当て、その上から包帯を巻いた。


サーバルには、残りのサンドスターを細かく砕いて混ぜたスープを与えた。かばんさんがサーバルの体を起こして口元に皿を当てがうと、彼女は眠ったままあっという間に飲み干した。


処置が終わると、眠っている2人の体がぼんやりと輝いた。

それを見ていたキュルルが不安そうに言った。

キュルル「他に何かできる事はないんですか?」


博士「このくらいで十分なのです。フレンズは強いので。」


助手「後は静かに見守っていれば良いのです。」


それを聞いたキュルルは、カラカルのベッドの隣に座って、2人の様子をじっと見つめていた。




次の日のお昼頃、カラカルは目を覚ました。まだ少し背中が痛むが、動けないほどではない。そして左側を見ると、キュルルがベッドに突っ伏して眠っていた。


反対側を見ると、破壊された壁には青いシートがかけられていて、隣のベッドではサーバルが寝ていた。そして2人のベッドの間に置かれた椅子に、かばんさんが座っていた。


かばん「おはよう。よかった、目が覚めたね。彼もさすがに疲れたんだね。さっきまで必ずおうちを見つけるんだとか、今度はみんなを守るんだとか、いろいろ話してくれてたんだよ。」


カラカルはキュルルに慈しむような眼差しを送ると、サーバルの方を見た。


カラカル「この子は大丈夫なの?」


かばん「心配しないで、怪我はないよ。サンドスターが少なくなって倒れてしまったんだ。」


かばんさんは愛おしむような、でもどこか悲しげな目をしながらサーバルを見つめていた。そしてこう呟いた。

かばん「自分の事はなりふり構わず、誰かを助けにいってしまう。すごいなって思うけど、それが誰かを心配させるって事も分かってくれたらなあ。」


それを聞いたカラカルは、思い切って尋ねてみた。

カラカル「あのね、前にサーバルから聞いたんだけど、昔とっても仲の良いフレンズと、一緒に旅をしたんだって。その子の事はよく思い出せないけど、変わった格好をしてたんだって。それってもしかしてかばんさんの事なの?」


それを聞いて、かばんさんはハッとなった。

しかしすぐに困ったような笑顔を浮かべてカラカルを見た。

かばん「さあ、どうだろうね。」


カラカル「ごめん、変な事聞いちゃって。」


かばん「ハハ、いいよ。それよりお腹空いたでしょ。ジャパリまんを持ってくるから待っててね。」


かばんさんはカラカルの質問をはぐらかして部屋から出たが、廊下を歩きながら、顎に手を当てて難しい顔をしていた。

かばんさんは先ほどの話から、あの子がサーバルちゃんだと確信した。彼女が目を覚ましたら胸の内を明かしたいとも考えたが、すぐに思いとどまった。


今3人は大切な旅をしている真っ最中だ。ここでサーバルを引き止めてしまったら、3人の思いとキュルルの成長を邪魔してしまうかもしれない。

そして何より、自分が再び強力なセルリアンを生み出してしまった事が恐ろしかった。


かばんさんがこの隔離された研究所に住み続けているのは、万が一ヒトの輝きからセルリアンが生まれても自分達で対処できるように、という意図もあった。にもかかわらず、一番大切なお友達を危ない目にあわせてしまった事に、強い憤りを感じていた。


そこへラッキーさんが話しかけてきた。

ラッキーさん「カバン、チョットイイカナ。めんて中ノラッキービーストガ、聞イテモライタイ事ガアルソウダヨ。」


かばん「え?どうしたんだろう?」



そこへ行ってみると、一体だけ目を赤く点滅させているラッキービーストがいた。話を聞いてみると、体の調子が悪く、休んでも動けないのだという。そこでかばんさんはその子を窓の近くへ連れて行き、外が見えるように角度を調節した後、こう声をかけた。

かばん「お疲れ様。ゆっくり休んでね。」


そして本体だけが台座に残された。ラッキーさんによると、この状態でもパーク中のラッキービーストと情報のやり取りができるのだそうだ。けれどもその本体は、かばんさんにこう訴えた。

本体「マダマダパークヲ歩キタインダ。」


それを聞いて、かばんさんは一つ思いついた事があった。

かばん「それなら、キュルルさんの旅についていってくれないかな?」


本体「マカセテ。」


一緒に旅をする事はできなくても、キュルルにこの子を渡していつでも連絡が取れるようにしておけば、何かと安心だと考えたのだ。



それからかばんさんは、2個のジャパリまんをお皿に乗せて寝室に戻ってきた。まだぐっすり眠っているキュルルを起こさないよう気をつけながらカラカルのベッドの反対側に回り込むと、一瞬足を止めて心配そうにサーバルを見た。それからカラカルにお皿を渡した。


かばん「お待たせ。はい、どうぞ。」


カラカル「ありがと。って、あれ!?」


いつのまにかジャパリまんが消えている。慌ててあたりを見回すと、サーバルが口をもぐもぐさせながら眠っている。どうやら寝ながらジャパリまんをかっさらったらしい。2人は肩をすくめながら苦笑した。




サーバルは食事の時以外は眠り続けていたが、2日もすると目を覚まして、すっかり元気になった。

その翌日、再び旅に出るというキュルルに、かばんさんはあの本体を手渡した。


かばん「この子がいればいつでも連絡できるから。」


本体「ヨロシクネ。」


キュルル「わあ、ありがとう!」


キュルルは早速それを左腕につけた。


かばん「それと地図で見た通り、海辺にはセルリアンが多いから気をつけて。」


キュルル「分かりました。」



博士「お前はもっと辛さを学ぶべきです。」


助手「料理の高みを目指すのです。」


カラカル「甘いモノ作りなさいよ!」



サーバル「かばんさん、いろいろありがとう。キュルルちゃんのおうちが見つかったらまた来るね。」


かばん「楽しみに待っているよ。」


サーバル「それじゃ、いってきまーす!」


かばん「いってらっしゃい。元気でね。」



かばんさんは笑顔で3人を送り出したが、その背中が見えなくなると、途端に寂しそうな顔になった。そして別れ際にキュルルからもらった絵に目を落とした。

博士と助手は、そんなかばんさんを心配そうに見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る