第12話 ◉2つの影
そんなビーストの様子を、上空からじっと見つめる2つの影の姿があった。それはカンザシフウチョウとカタカケフウチョウのフウチョウコンビだった。
カンザシ「古のけものが動いた。何を思い、何処へ行くのか。」
カタカケ「己の道を見つけたか、あるいはただの気まぐれか。」
そうつぶやくと、2つの影は羽音一つ立てずに宙を舞い、何処かに消えた。
モノレールは速い上に匂いも残さないので、追跡は困難だった。
ビーストはレールに沿って必死に追いかけたが、モノレールが駅に到着し、建物の陰に隠れて停まっていたため、知らずに追い越してしまった。
ひたすら走り続けていると、ジャングルが見えてきた。
そこに入ってしばらく歩くと、妙な気配がした。
その場所へ行ってみると、木々が途切れて開けた所に出た。
そこはとても気持ちの良い広場だった。
暖かな日差しが降り注ぎ、泉がキラキラと輝いている。
そこに2つの影が佇んでいた。見た目はフレンズのようだが匂いがしない。セルリアンには見えないが、それに近い気配を感じる。彼女はそれを敵と判断し、飛びかかった。
すると影は音もなく身をひるがえし、彼女の爪をすり抜けた。
空を切った爪が勢い余って地面を大きくえぐった。
彼女は間髪入れず何度も飛びかかったが、爪が影を捉えることはなかった。代わりに木々がへし折れ、泉は裂け、いたるところに生々しい爪痕が残った。
しばらくすると、2つの影はフワリと宙に舞い上がり、ジャングルの奥へと消えていった。ビーストはそれを追いかけた。
後には、見るも無残に破壊された広場だけが残った。
そこへヒョウ姉妹がやって来た。
クロヒョウ「掃除も終わったし、ほんま楽しみやな姉ちゃん…え!?」
ヒョウ「これは…!?一体誰がこんな事を?」
広場の惨状を目の当たりにして、2人は驚きの声を上げた。
翌日も、ビーストはジャングルで影を探し続けていた。
すると、ゴリラ、ヒョウ、クロヒョウ、イリエワニ、メガネカイマン達ジャングルのフレンズに混ざって、サーバルとカラカル、そしてあの子の匂いがした。彼女は探索を中断し、無我夢中でそこに向かった。
そこではみんなが紙相撲で遊んでいた。しかし遠くから様子をうかがっていた彼女には、地面を指で叩いて遊んでいるように見えた。
みんなの中にあの子供がいるのを見つけ、いてもたってもいられなくなったビーストは、その輪の中に文字通り飛び込んだ。周りの木々より高く跳躍し、みんなが叩いていた地面を思い切り叩いた。
ヒョウ姉妹&ワニ2人「どわー!?」
その一撃で紙相撲は粉々になり、地面は粉砕されて大量の砂埃となって舞い上がり、周囲のフレンズは吹っ飛ばされた。
一瞬早く気付いたサーバルは後方へ跳び、カラカルはキュルルをかかえながら跳んで難を逃れた。
とっさにガードを固めたゴリラは、腕の間から砂埃の向こうの人影を見つめていた。しだいにそれが晴れて、彼女の姿が見えてきた。
ゴリラ『フレンズ離れしたすごい力…もしかして、この子が広場を荒らしたのか?』
ビーストは鼻をひくつかせた後、子供の方を見た。
ビースト『やっぱり間違いない、またあの子に会えたんだ!』
彼女は嬉しさのあまり我を忘れて飛びかかると、カラカルの横をすり抜けて子供を抱きしめようとした。
すると子供は尻餅をつき、怯えたような、困惑したような眼差しでビーストを見た。その様子が、セルリアンに襲われて記憶を失い、キョトンとした顔で彼女を見ていたあの子の姿と重なった。彼女はすんでのところで立ち止まり、子供をじっと見つめた。
よく見ると、あの子とは何かが異なっていた。姿と匂いは一緒だが、この子供の持つ気配は追いかけていた2つの影とよく似ていたため、彼女は戸惑った。
そこへキュルルを助けようと、カラカルが背後から飛びかかってきた。殺気を感じ取り、彼女は反射的にカラカルに向かっていった。
互いの爪がぶつかり合うかに思われた瞬間、ビースト化したサーバルが間に入って2人を受け止めた。
サーバル「ケンカは駄目だよ!」
突然顔を鷲掴みにされ、ビーストは驚いた。
ビースト『この子もビースト化できるんだ。』
彼女はその手を跳ね除け、後ろに跳んで一旦距離を取った。
サーバルの全身から、凄い勢いでけものプラズムが吹き出している。カラカルはその様子を見て大きな声を上げた。
カラカル「ちょっとなにこれ、大丈夫なのサーバル!?」
不意に飛びかかられつい応戦してしまったが、ケンカをしたいわけではない。ビーストはぶらりと両腕を下ろし、矛を収めた。それを見てサーバルもビースト化をやめた。すると背後から紙飛行機が飛んできた。
☆
ジャングルで食材を探していたかばんさんと助手は、ラッキーさんからビーストが現れたとの知らせを受けて、車でそこに向かった。
かばんさんは少し離れた所で車を停めた。そして運転席から降りて双眼鏡で様子をうかがうと、思った通りビーストがみんなと揉めていた。
かばんさんは以前ビーストに会ったことがある。それに加えて、研究所の資料などから彼女のことを学んでいた。
彼女の特性上、意図せず周囲やフレンズを傷つけてしまう可能性があるため、一旦みんなから離す必要があった。
かばんさんは後部座席から紙飛行機を取り出した。
これはセルリアンの注意を引きつけるだけでなく、フレンズの力比べを中断させるものでもあった。
ジャングルにはヤンチャな子もいて、時々フレンズ同士で力比べが行われていたのだが、夢中になりすぎてけが人が出そうになる事もあった。
そんな子達のまとめ役であるゴリラから、安全な解決策はないかと相談されたかばんさんは、一つの手段として、大きな音や煙、匂いといったものが利用できないかと考えた。
試行錯誤を続けているうちに、どういうわけかネコ科の子の注意を引きつけるマタタビというものを見つけた。これを染み込ませた紙飛行機には、目印として先っぽに小さな赤いリボンがついていた。
かばんさんは、ビーストに狙いを定めてそれを投げた。
紙飛行機はリボンを炎のようにチロチロと揺らしながら、ビーストの目の前を横切って、ジャングルの奥へと飛んでいった。
突然現れた紙飛行機の匂いに惹かれ、彼女はそれを追いかけた。
キュルルはその後ろ姿を見ながら、こう考えていた。
『びっくりしたぁ…。あの子は何だったんだろう?襲いかかってきたんじゃなくて、僕に何か伝えたかったように見えたけど。』
助手は空から様子をうかがっていたが、ビーストが走り去ってゆくのを見て、かばんさんに声をかけた。
助手「うまくいったのです。」
かばん「分かった。ありがとう。」
かばんさんは運転席に乗り込み、車をみんなの前まで移動させるとこう呼び掛けた。
かばん「みんな乗って!」
キュルル「え、でも…。」
キュルルはビーストの事が気がかりだった。
ゴリラ「早く行くんだ!」
ゴリラに促され、キュルル達は車に駆け込み、ゴリラ達は屋根に乗った。
ゴリラ「みんな乗ったよ!」
かばん「いい?出発するよ!」
かばんさんはみんなを車に乗せてその場から離れた。助手は空から辺りを警戒しつつ車を追いかけた。
ビーストは紙飛行機を捕まえてじゃれていたが、車が走り去る音で我に帰った。そちらを見つめながら、あの子供のことを考えた。
ビースト『あの子供は一体何なんだろう?少なくともあの子じゃない。』
突然、背後から得体の知れない気配がした。
振り向くとあの2つの影がすぐそばに浮いていて、冷たい笑みを
浮かべながら彼女を見ていた。
ビーストは影に飛びかかった。すると影が弾け、漆黒の闇が彼女を包み込んだ。
そして闇の中から声が響いた。
カンザシ「束の間の寝床を用意した。」
カタカケ「しばし休まれよ。」
気がつくとビーストは、何も無い真っ暗な空間に立っていた。
あたりを見回しても何も見えない。音も匂いもまったくしない。
そして彼女は、闇の中をあてもなくさまよった。
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