第8話 ◯ビーストダヨ


ある日、アムールトラは壊れたラッキービーストを見つけた。

長い間放置されていたようで、あちこちに草が絡み付いている。体もすっかり色あせているが、わずかにオレンジ色が残っていた。


それは彼女に向かって、何度もこう話しかけてきた。

ラッキービースト「ハジメマシテ。…クハ……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」

ところどころ音声が途切れている。


本来、ラッキービーストはフレンズへの干渉を避けるため、ヒトの緊急時以外会話ができないようプログラムされている。

しかしこのラッキービーストは、壊れてその制限が失われたため、彼女に話しかけたのだった。


たまたまこの会話を耳にしたフレンズが、物陰から2人の様子をうかがっていた。その子はボス(ラッキービースト)が話せる事を知らなかったため、アムールトラがボスに自己紹介をしているのだと勘違いした。


そしてその場を離れた後、見聞きした事をお友達たちに話して聞かせた。

フレンズ「見慣れないフレンズがボスに自分の名前を言ってたよ。ビーストって言うんだって。」


アムールトラは、しばらくラッキービーストの前に座っていたが、よく聞くとその声は、近くに落ちていた時計ほどの大きさの機械(本体)から出ていた。

本体「ハジメマシテ。……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」


彼女はもう言葉を話す事も理解する事もできなかったが、それを聞いているうちに、この子も一人ぼっちで寂しいんだと思った。


アムールトラ「ガゥ…(一緒に来る?私も寂しかったんだ)。」

彼女は本体を拾ってその場を後にした。


形はフレンズと全然違うけれど、目が覚めてから初めてできたお友達だった。ようやく誰かがそばにいてくれるようになって、彼女はとても嬉しかった。




それから、アムールトラがパーク中を駆けまわっている間も、本体はたびたび同じ台詞を口にした。それを耳にしたフレンズ達の間でも、ビーストという名前が広がっていった。


本体が完全に壊れて話をしなくなった頃、

パークには『自己紹介をしながら暴れ回るフレンズがいる』という妙な噂が広まっていた。

いつしか彼女は、フレンズ達からビーストと呼ばれ、避けられるようになっていた。




本体がしゃべらなくなって、アムールトラはまた一人ぼっちになったと感じていた。それはとても寂しくて、恐ろしかった。

彼女はセルリアンと戦いながら、自分を受け入れてくれるお友達を必死に探した。戦って、避けられて、探して、また戦って…。


しかしお友達は見つからなかった。アムールトラはとても優しいフレンズだったのだが、会話ができず不器用で、それをうまく伝えられなかった。

やがて、避けられる事に疲れた彼女は、戦いの時以外はフレンズから身を隠して、ひっそりと暮らすようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る